10カ月の片想い
大学生になったのだから早く運命の人を見つけなくちゃ。
それが僕の親友の口癖であった。正直に話すと彼は人並み以上に優れた知識を持っているわけではない。顔だってかっこよくはないし、スポーツも得意なほうではない。ただ、人よりちょっと面白く優しいだけが取り柄のやつだ。僕はそんな彼がハイスペックを求めるこの時代に恋なんてできるはずがないと思っていた。ある時彼は僕に言った。
「好きな人ができた」
「本当か?やったじゃないか。どんな人なんだ?」
彼の話を聞くと恋した人は大学一の美人と言われる女性であった。さらにその女性は、今まで数多くの男性からアプローチを受けすべてを断ってきている攻略難易度桁違いの美人であった。
「あちゃー」
僕は彼にそんな軽い一言しか言えなかった。しかし、彼はその美人と付き合う気持ちでいっぱいであった。
この事実は瞬く間に大学中に広まった。他の学生たちは彼に対し、無謀であるだの、諦めろだの、さらにはあざ笑う奴まで出てきた。しかし彼は決して諦めることなどなかった。必死に話しかけ、好きだという気持ちが見え見えの猛アプローチをかけていた。時には失敗したり、恥ずかしがったり、妬んだり、喜んだり。
そんな彼が僕に向かい、「ご飯行くことになった」そう呟いた。にわかには信じられない言葉であった。
「やったな!いつ行くんだ?」
「来週の水曜日」
「そうか、あまり緊張するなよ」
「俺、その日告白する」
「嘘だろ。告白はまだ早いって」
僕の言葉に彼は耳を傾けなかった。そして彼が告白する水曜日。僕はなぜか告白する彼よりも遥かに緊張していた。朝から緊張している僕に対し彼はそんなそぶりを全く見せなかった。強いやつなんだな。その時僕はこう思っていた。そして彼は俗に言うデートに行った。その間僕は手に汗を握っていた。今日だけは時間が経つのがやけに遅い。しばらくして彼は帰ってきた。
「おい。どうだったんだよ」
「振られたよ」
僕は唖然とした。あんなに熱烈に恋していたのに泣くどころか悲しむ素振りすら見せなかった。
その時僕は気づいた。僕には、彼が悲しみ泣きわめく姿を見る資格がなかったのだと。僕は彼に話しかけようとした時、それを遮るかのように彼は僕に言った。
「楽しかった」
おそらく彼は告白する前、いや最初から気づいていたのであろう。この恋は負け戦であるということに。
皆が無理だと罵る恋が実ったとかいう少女漫画の世界で描かれるようなドラマなんて、現実にはなく、あっけない結末であった。しかし、彼は確かに言った。楽しかったと。
これは決して彼が楽観的な人間であるため発した言葉ではない。恋する人にとって重要なことは、駆け引きをうまくすることでもなく、戦略を練ることでもなく、好感度を上げることでもない。自分がその恋に全てをかけられるほどの価値のある者に出会えるかどうかだ。彼の恋愛を見てそんな風に思った。
だから僕は彼にこう呟いた。
「良い恋であった。無謀な恋だなんて言わせない。呼ばせてなるものか」
すると彼は微笑みながらそっと涙を見せるのであった。




