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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第49話:最強ニートの休日、あるいは天使とのデートコース

日曜日の朝。  快晴。絶好の洗濯日和であり、そして――デート日和だった。


「お兄ちゃん、どうかな? ……変じゃない?」


 玄関先で、結衣がくるりと回ってみせた。  淡いピンクのワンピースに、白いカーディガン。髪は少し巻いて、花のバレッタで留めている。  いつものエプロン姿とは違う、年頃の女の子らしい装い。


 俺、佐藤悟は思わず息を呑んだ。  ……可愛い。破壊力が凄まじい。北極のビーム兵器より目に毒だ。


「……あー、うん。悪くない。……いや、すごく似合ってる」 「えへへ、よかったぁ!」


 結衣が花が咲くように笑う。  今日は、先日の誘拐騒動のお詫びと、日頃の感謝を込めた「お出かけ」の日だ。  行き先は、結衣のリクエストで『水族館&ショッピング』。


「よし、行くか。今日は俺が荷物持ちだ。好きなだけ買い物していいぞ」 「うん! 行こう、お兄ちゃん!」


 結衣が俺の腕にギュッと抱きつく。  柔らかい感触と、シャンプーのいい匂い。  俺はガチガチに緊張しながら、ドアを開けた。


 ――その背中を、リビングの隙間から三組の目が睨んでいたことを、俺は知る由もなかった。


 ***


「……行ったわね」  アリスがサングラスを装着し、立ち上がった。


「ボクたちの抜け駆けなんて許さない。……サトルはみんなの共有財産よ」  未羽がフードを目深に被り、小型ドローンを起動する。


「……マスターと結衣、交尾する可能性あり。阻止する」  セツナが全身迷彩色の服に着替え、サバイバルナイフを装備する。


「いい? 作戦名は『オペレーション・ジェラシー』。二人のデートを監視し、行き過ぎたイチャイチャが発生した場合は、物理的に介入するわよ!」 「「了解!」」


 最強のストーカー部隊が結成された。


 ***


 俺と結衣は、電車に揺られて湾岸エリアの水族館へやってきた。  日曜だけあって、カップルや家族連れで賑わっている。


「うわぁ、綺麗……!」


 巨大水槽の前で、結衣が目を輝かせる。  青い光の中、色とりどりの魚たちが泳ぎ回っている。


「ほら、お兄ちゃん! あのエイ、笑ってるみたい!」 「本当だ。……あっちのマンボウ、俺みたいにやる気ない顔してるな」


 俺たちは並んで歩いた。  普段は家の中でしか話さないから、こうして外を歩くのは新鮮だ。  結衣が楽しそうにしているのを見るだけで、俺の中の澱んだニート精神が浄化されていく気がする。


(……平和だなぁ)


 そう思った時だった。


「……ムッ。あの巨大マグロ、美味そう。刺し身何人前?」 「しっ! セツナ、声が大きいわよ!」


 背後の海藻オブジェの陰から、聞き覚えのある声がした気がした。  振り返るが、そこには誰もいない。  気のせいか?


「お兄ちゃん、次はイルカショーだって! 行こう!」 「お、おう」


 俺は結衣に手を引かれてスタジアムへ向かった。


 ***


 イルカショーの最中。  俺たちは最前列(水濡れ注意エリア)に座っていた。


「きゃあ! すごーい!」  イルカが高くジャンプするたびに、結衣が歓声を上げて拍手する。  その横顔を見ていると、ふと、先日の老紳士の言葉を思い出した。  『彼女は君の弱点だ』。


 確かにそうだ。  今、結衣になにかあったら、俺は世界を敵に回してでも暴れるだろう。  だが、それは弱点であると同時に――


 バッシャーン!!  着水したイルカが、大量の海水を客席に飛ばした。


「わぷっ!?」  俺はとっさに結衣を庇って覆いかぶさった。  背中に冷たい水が直撃する。


「お、お兄ちゃん! 大丈夫!?」 「へっ……これくらい、北極の海に比べればぬるま湯だ」


 俺が濡れた髪をかき上げると、結衣がハンカチを取り出し、甲斐甲斐しく俺の顔を拭いてくれた。


「もう……お兄ちゃんったら、かっこつけなんだから」  結衣が少し顔を赤らめて笑う。  その距離が、すごく近い。


 ドキッとした。  これは、その、キスとかする雰囲気なのか?  デート本(ネット検索)によると、ここが勝負どころだと――


 ヒュンッ!  どこからともなく飛んできたポップコーンが、俺の口にスポッと入った。


「もぐっ!?」 「……セーフ。キスの阻止、成功」 「ナイスコントロールよ、セツナ」


 遠くの席で、一般客に紛れた怪しい三人組がハイタッチしていた。  ……あいつら、絶対あとで説教だ。


 ***


 夕方。  水族館を出た俺たちは、海沿いの公園を歩いていた。  夕日が海面をオレンジ色に染めている。


「……今日は楽しかったね、お兄ちゃん」  結衣がベンチに座り、缶コーヒーを両手で包みながら言った。


「ああ。たまには外出も悪くない」 「私ね、ずっと不安だったの。私だけ何もできないから、お兄ちゃんの隣にいていいのかなって」


 結衣が少し寂しそうに笑う。


「でも、お兄ちゃんが『必要だ』って言ってくれて……すごく嬉しかった。私、特別な才能はないけど、お兄ちゃんを応援することなら、誰にも負けないから」


 結衣は俺の方を向き、まっすぐな瞳で言った。


「これからも、ずっとお世話させてね? 最強のニートさん」


 その笑顔は、どんな天才よりも、どんなAIよりも輝いて見えた。  俺は照れ隠しに視線を逸らし、ボリボリと頭を掻いた。


「……バーカ。こっちこそ、頼むよ。お前がいないと餓死するからな」


 俺たちは笑い合った。  手は繋げなかったけれど、肩と肩が触れ合う距離。  それだけで十分だった。


 ***


 帰りの電車。  遊び疲れた結衣は、俺の肩にもたれて眠ってしまった。  俺はその寝顔を見守りながら、少し離れた席に座る変装した三人組(アリス、未羽、セツナ)に、音もなく口パクで伝えた。


 『今日の夕飯、全員抜きな』


 三人が「ええーっ!?」という顔をする。


 窓の外、東京の夜景が流れていく。  俺の守るべき日常は、ここにある。  世界を救う戦いもいいが、この寝顔を守る戦いこそが、俺にとっての本当のミッションなのかもしれない。


 ――さて、明日は月曜日。  あの地獄の学校(職場)に行かなきゃならないのかと思うと、俺は結衣の頭を撫でながら、盛大なため息をつくのだった。

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