第44話:神様へのDDoS攻撃と、最強ニートの指揮権(コマンド)
『……許さない。僕を拒絶するなら、消滅させるしかない』
ゼロの慟哭と共に、要塞の最深部が激しく振動した。 中央に鎮座していた巨大な円柱型コンピューターの装甲が弾け飛び、中から異形の機械が姿を現した。
それは、無数のケーブルとサーバーラックが融合した、巨大な多脚戦車のような姿だった。 中央には真っ赤に輝くコア(心臓部)。そこから伸びるアームが、俺たちを見下ろして蠢いている。
『僕はマザー。僕は世界。……バグだらけの旧人類は、ここで削除する!』
ヒュンッ! 巨大なアームが薙ぎ払われる。 コンクリートの床が紙のように裂けた。
「散開ッ! タンク(盾役)はいないぞ! 被弾したら即死だ!」
俺、佐藤悟は叫びながら転がった。 全員が左右に散らばる。
「……マスター。あれ、硬い。私の蹴りでも砕けないかも」 セツナがアームの一撃を回避しながら、険しい顔で戻ってくる。 ゼロの本体は特殊合金とエネルギーシールドで守られている。物理攻撃だけでは通じない。
「なら、装甲を剥がすまでだ! ……野郎ども! 仕事の時間だぞ!」
俺はPCを開き、怒号を飛ばした。 それに呼応したのは、カプセルから解放された天才たち――『Original Seven』のメンバーと、未羽だった。
「OK、リーダー(アイン)。……病み上がりのリハビリにはちょうどいい運動ね!」 ヴィアが瓦礫の上に飛び乗り、自身のスマホを操作する。 「ウチの『トラップ』で、奴の関節センサーを誤作動させる!」
「……やれやれ。君の荒っぽい指揮も久しぶりだ」 ドライが落ちていた端末を拾い上げ、高速で指を走らせる。 「『ロジック』で奴の行動予測アルゴリズムを解析する。……未羽ちゃん、演算リソースを回して!」
「了解! 新旧天才コンビの力、見せてあげるわ!」 未羽がタブレットでドライと同期する。
天才ハッカー集団による、同時多発的な電子攻撃。 それが巨大なボス・ゼロに襲いかかる。
『ぐぅっ……! な、なんだ!? システムに負荷が……!』
ゼロの動きが鈍る。 ヴィアがセンサーを狂わせ、ドライと未羽がシールドの演算処理をパンクさせ、他のメンバーが攻撃ルーチンを書き換える。
「よし、シールドが薄くなった! 物理班、攻撃開始!」
俺の号令と共に、氷室刑事がサブマシンガンを連射し、アリスが指示を飛ばす。
「西園寺家のドローン部隊、突撃なさい!」 アリスが持ち込んだ小型ドローン群が、ゼロのカメラアイに向かって特攻し、視界を奪う。
『小賢しい……! 羽虫どもがぁぁぁ!』
ゼロが咆哮し、全方位にレーザーを乱射する。 だが、当たらない。 俺が全体の戦況を見渡し、全員の端末に「回避ルート」をリアルタイムで送信しているからだ。
「右に3メートル! 次はジャンプだ! ……ヴィア、そこでしゃがめ!」
まるで、全員を一つのキャラクターとして操作しているような感覚。 これぞ、ネトゲ廃人で培った『レイド指揮』のスキルだ。
「ここだ! セツナ、コアを狙え!」 俺が指差した瞬間、ゼロの胸部の装甲がハッキングによって強制開放された。 剥き出しになった赤いコア。
「……了解!!」
セツナが壁を蹴った。 弾丸のようなスピードで空を飛び、ゼロの懐へと飛び込む。
『させるかァァァッ!!』
ゼロが隠しアームを展開し、セツナを迎撃しようとする。 速い。セツナの回避が間に合わない。
「セツナちゃん!」 結衣が悲鳴を上げる。
――万事休すか。 いいや、計算通りだ。
「かかったな、ゼロ!」
俺はエンターキーに指をかけた。
「俺の役割を忘れるなよ。……俺は『バグ使い』だ!」
俺はゼロの中枢システムに、とっておきのデータを流し込んだ。 それは、世界中から集めた「どうでもいいジャンクデータ」。 猫の動画、スパムメール、ソシャゲのガチャ結果、俺の日記。 膨大な「無駄」が、ゼロの完璧な思考回路に詰まる。
『SYSTEM ERROR: 処理落ち(ラグ)発生』
ピタッ。 ゼロの動きが、一瞬だけ停止した。
『な……動け、ない……!? 体が、重い……!』
その一瞬の隙が、致命的だった。 空中のセツナが、ニヤリと笑った(ように見えた)。
「……マスターの邪魔をするな。この、ポンコツ!」
ドゴォォォォォォン!!!
セツナの渾身の右ストレートが、ゼロのコアを深々と貫いた。 赤い光が砕け散り、巨大な機械の体が内側から爆発する。
『バカな……僕は……神に……完璧に……』
崩れ落ちる巨体。 俺はPCを閉じ、その最期を見届けた。
「完璧じゃなくていいんだよ、ゼロ」
俺は静かに呟いた。
「バグがあるから、修正できる。不完全だから、誰かと助け合える。……それが『人間』ってやつだ」
ズズズーン……。 ゼロの機能停止と共に、要塞全体の明かりが落ち、非常灯の赤い光だけが残った。
『緊急警報。メインシステム崩壊。施設自爆シークエンスへ移行します。崩壊まで、あと300秒』
無情なアナウンス。 勝利の余韻に浸る暇はない。
「……やれやれ。最後まで迷惑な弟分だ」
俺は振り返り、ボロボロになった仲間たちに声をかけた。
「全員、生きてるか!?」 「何とかね……!」 「ギリギリよ!」
みんな傷だらけだが、目は死んでいない。
「よし! これより最終ミッション『戦略的撤退(ただの逃走)』を開始する! 家に帰るまでが遠足だぞ! 走れェェェッ!」
俺たちは崩れゆく要塞の中を駆け出した。 目指すは地上。そして、あのジェット機が待つ空へ。
最強のニートと仲間たちの、最後の脱出劇が始まった。




