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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第42話:神の住む棺桶と、ニートが選んだ「不便な幸福」

最後のゲートが開く。  そこは、この世の果てのような場所だった。


 巨大なドーム状の空間。  天井まで届くほどの巨大な円柱状のスーパーコンピューターが鎮座し、無数のケーブルが脈打つ血管のように床を這っている。  その光景は、機械仕掛けの心臓のようでもあり、巨大な墓標のようでもあった。


「……ひどい」  結衣が口元を押さえて立ち尽くす。


 円柱の周囲には、五つのガラスカプセルが埋め込まれていた。  中には、かつての仲間たちが浮かんでいる。  先日のJKハンター・ヴィア。  途中で回収されたNo.02やNo.06。  彼らは皆、無数の管に繋がれ、苦悶の表情を浮かべてピクリとも動かない。彼らの脳波は、全て中央のコンピューターに吸い上げられている。


『――よく来たね、最後のピース(アイン)』


 空間全体を震わせる声と共に、中央モニターにノイズ混じりの少年の顔が映し出された。  ゼロだ。


「……悪趣味なインテリアだな、ゼロ。友達をコレクションして楽しいか?」


 俺、佐藤悟はPCを小脇に抱え、真っ直ぐにモニターを見上げた。


『コレクションじゃない。統合ユニゾンさ。僕たちは個々では不完全だ。寂しくて、弱くて、脆い。……だから、一つになるんだ』


 ゼロの声には、純粋な狂気が滲んでいた。


『見てごらん。彼らは今、至福の中にいる。僕という巨大な意識の一部となって、永遠の安らぎを得ているんだ』 「安らぎだと……? あの顔が安らいでいるように見えるか!」


 俺はヴィアのカプセルを指差した。彼女は涙を流しながら、音のない悲鳴を上げているように見えた。


『それは初期化の副作用だよ。すぐに自我エゴが消えて、楽になれる。……さあ、アイン。君も還っておいで。君が加われば、マザーは完全体となり、全世界の人類の意識を統合できる』


 ズズズズ……。  施設全体が赤く明滅し始めた。


『世界中から争いをなくそう。差別も、貧困も、孤独もない。全ての人間が僕と一つになる。それが「Original Seven」の本当の使命だ』


 未羽が叫ぶ。  「ふざけないで! そんなの、ただの集団自殺じゃない! 個性がなくなったら、生きてる意味がないわ!」


 アリスが睨みつける。  「私の資産も美貌も、私だけのものよ。誰かと共有なんて絶対お断りだわ!」


 セツナが構える。  「……マスターは渡さない。マスターは、私のご主人様」


 俺はニヤリと笑った。  頼もしい仲間たちだ。


「聞いたか、ゼロ。ウチの女性陣は気が強くてな。お前の言う『安らぎ』なんて退屈な世界、誰も望んでねぇんだよ」


 俺は一歩、前に出た。


「俺はな、不便で、面倒くさくて、騒がしい世界が好きなんだ。……結衣の小言を聞きながら食べる飯の味が、お前みたいなバケモノに分かってたまるか!」


『……残念だよ、兄弟。なら、無理やりにでも一つにしてあげる』


 WARNING!!  警報音が鳴り響き、床から無数の迎撃用アームが出現した。  レーザー砲、ドリル、マジックハンド。殺意の塊だ。


「来るぞ! 総員、戦闘開始!」


 ドォォォォン!!  セツナが迎撃アームを蹴り砕く。  氷室刑事が援護射撃を行う。


「サトル! ゼロの防御壁、厚すぎるわ! 五人分の脳を使ってるから演算速度が追いつかない!」  未羽がタブレットを操作しながら悲鳴を上げる。  ゼロは囚われた五人の天才児の脳をCPUとして並列利用している。未羽一人では分が悪い。


「分かってる! 俺が中に入る!」


 俺はサーバールームの端にある、メンテナンスポートへ走った。  ケーブルを引き出し、俺のPCに直結する。


「未羽、外からの援護を頼む! 俺は電脳空間ダイブして、内側から囚われた五人を叩き起こす!」 「ちょ、無茶よ! 生身でゼロの意識領域に入るなんて! 逆に飲み込まれるわよ!」 「やるしかねぇだろ! 俺はNo.1(アイン)だ。あいつらのリーダーだ!」


 俺はヘッドセットを装着した。  結衣が駆け寄ってくる。


「お兄ちゃん!」 「結衣。……少しの間、留守にする。すぐに戻ってくるから、晩飯の準備しといてくれ」 「……うん! 約束だよ! ハンバーグ作って待ってるから!」


 俺はエンターキーを叩いた。


 『DIVE START』


 視界がホワイトアウトする。  肉体の感覚が消え、意識が情報の奔流へと投げ出された。


 そこは、ゼロの脳内世界。  無限に広がる、冷たく暗い、デジタルの深淵。


『来たね、アイン。……ここが君の墓場だ』


 闇の中から、無数の黒い触手が伸びてきて、俺の意識アバターに絡みついた。  痛い。寒い。寂しい。  ゼロの抱える膨大な「孤独」が、俺の精神を侵食してくる。


「……ぐっ、重ぇな……! こんなもん抱えて生きてたのかよ……!」


 俺は歯を食いしばり、データの嵐の中を進んだ。  目指すは五つの光。  囚われた仲間たちの魂の在り処。


「待ってろよ、お前ら。……この最強のニート様が、強制労働から解放してやる!」


 俺は闇を切り裂き、深く、深く潜っていった。  現実世界でのタイムリミットまで、あとわずか。  世界を救う、最後のハッキングが始まった。

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