表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/52

第41話:凍てつくサーバー室と、過去を越える「遊び心(ゲームメイク)」

地下第二層。  扉が開いた瞬間、俺たちは思わず身を縮こませた。


「……寒い。さっきの外より寒いかも」  結衣がアリスの極暖スーツにしがみつく。


 そこは、巨大な冷凍庫のような場所だった。  壁一面に並ぶサーバーラックが、唸りを上げて冷却されている。床も天井も霜で真っ白だ。吐く息が瞬時に凍りつく。


 その部屋の中央に、一人の青年が立っていた。  年齢は二十歳前後。色素の薄い髪に、神経質そうな細い顔立ち。首筋には、ゴローと同じく何本ものケーブルが直結されている。


「……遅かったね、No.1(アイン)。待ちくたびれたよ」  青年は、氷のように冷たい視線を俺に向けた。


「……誰だ、お前」  俺は記憶の糸をたぐる。十年前の研究所。俺の後ろをいつもついて回っていた、影の薄い少年……。


「忘れたのか? ……そうだろうな。君にとって僕は、その他大勢の『有象無象』の一人でしかなかったんだから」  青年が歪んだ笑みを浮かべる。


「僕はNo.03(ドライ)。……施設では万年二位。何をしても君には勝てなかった、惨めな敗北者さ」


 No.03。コードネームは『ロジック』。  理論構築は完璧だが、応用力に欠ける――当時の教官はそう評価していたはずだ。


「だが、今は違う!」  ドライが叫び、両手を広げた。 「ゼロと融合した僕は、無限の演算能力を手に入れた! もう君の影じゃない! 僕こそが最強のハッカーだ!」


 ゴォォォォン!  ドライの感情に呼応するように、周囲の冷却装置がフル稼働を始めた。  液体窒素の霧が噴き出し、室温が急激に下がる。マイナス五十度、六十度……。


「このフロアの環境制御は僕が握っている。君たちが凍死する前に、その脳味噌をハッキングして焼き切ってやるよ!」


「……面倒な奴だな。過去のコンプレックスを拗らせやがって」  俺はため息をつき、PCを開こうとした。


 だが、その前に小さな影が俺の前に立った。  未羽だった。


「……サトル。手出し無用よ」  未羽はタブレットを構え、ドライを真っ直ぐに見据えた。


「この陰キャ野郎は、ボクがやる」 「おい未羽、相手はゼロのバックアップ付きだぞ。危険すぎる」 「関係ない。……サトルをバカにする奴は、ボクが許さない」


 未羽の瞳に、静かな怒りの炎が宿っていた。  俺は少し驚いたが、すぐにPCを閉じた。


「……分かった。任せたぞ、一番弟子」 「ふん。師匠超えを見せてあげるわ」


 電子戦の火蓋が切って落とされた。


 ドライの攻撃は、苛烈を極めた。 「見ろ! これがゼロの力だ! 毎秒一億回の総当たり攻撃ブルートフォースアタック!」


 未羽のタブレットの画面が、警告色で真っ赤に染まる。  目にも止まらぬ速度で展開されるファイアウォールが、次々と食い破られていく。


「くっ……! 重い……!」  未羽の額に脂汗が浮かぶ。  相手の演算能力が桁違いだ。理論も完璧。隙がない。


「ははは! どうした天才少女! 所詮は子供の遊びか! 君のロジックは穴だらけだ!」  ドライが勝ち誇る。 「アイン! 君もだ! 十年ブランクのあるニートに、この完璧な論理迷宮は解けない!」


 俺は黙って見ていた。  確かに、ドライの攻撃は完璧だ。教科書通りの、美しいほどに無駄のない攻撃。  ……だが、それだけだ。


「……完璧? 笑わせないでよ」  防戦一方だった未羽が、不意にクスッと笑った。


「あなたのハッキング、つまんないのよ。教科書をそのまま読み上げてるみたいで」 「なんだと!?」


 未羽の指の動きが変わった。  今までは防御に徹していた指が、鍵盤の上を跳ねるように、不規則なリズムを刻み始めた。


「サトルはね、教えてくれたの。『ゲームは計算式じゃない。心理戦だ』って」


 ドライの完璧な論理の壁。そのわずかな綻び――「完璧すぎるが故の柔軟性のなさ」を、未羽は見逃さなかった。


「ボクの得意技は、バグ探し(デバッグ)よ!」


 ッターン!  未羽が放ったのは、巨大な攻撃プログラムではなかった。  極小の、たった数行のウイルスコード。  それが、ドライの鉄壁の防御プログラムの「隙間」をすり抜けた。


「なっ……!? 馬鹿な! 僕の論理防壁に穴など……!」 「あるわよ。あなたが『絶対に安全だ』と過信している場所にね」


 ウイルスが中枢に到達する。  それは、ドライのシステムに「偽の命令」を書き込んだ。  『冷却装置を停止せよ。全電力を照明に回せ』。


 ブツンッ。  轟音を立てていた冷却ファンが停止した。  代わりに、天井の照明が爆発的な光を放ち、ショートして火花を散らした。


「ぐあぁぁぁっ!? 目が、僕のシステムがぁぁぁ!?」  ドライが目を押さえてのたうち回る。  逆流した電流が、彼の神経接続を焼き焦がしたのだ。


 室温が戻り始める。  未羽は涼しい顔でタブレットを閉じた。


「……演算能力がいくら高くても、使い手がポンコツじゃ意味ないってこと」  未羽が髪を払い、俺の方を振り返った。  その顔は、少し得意げで、誇らしげだった。


「……どう? 師匠」 「ああ。満点だ。俺より性格が悪い攻撃だったぞ」


 俺は未羽の頭をポンポンと撫でた。  かつて俺の影に怯えていたNo.03は、現代の天才児にあっけなく敗北した。  それは、俺の時代の終わりと、新しい世代の始まりを告げているようだった。


「……行くぞ。次が最後だ」


 俺たちは気絶したドライを放置し、最後の扉へと向かった。  この先に、ゼロがいる。  そして、囚われた仲間たちがいる。


 泣いても笑っても、これがラストバトルだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ