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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第40話:鉄壁の守護者と、涙色のファイアウォール

氷の要塞、地下第一層。  無機質な銀色の通路を、俺たちは慎重に進んでいた。


「……静かすぎるわね」  アリスがコツコツとヒールの音を響かせながら、周囲を警戒する。  敵の気配がない。さっきの機械獣のような防衛システムも見当たらない。  まるで、俺たちを奥へと招き入れているようだ。


「マスター。……前から、来る」  セツナが立ち止まり、通路の奥を睨みつけた。


 ウィィィィン……。  重厚な駆動音と共に、前方の大扉が開く。  その向こうには、巨大なサーバールームのような広間があった。  そして、その中央に、一人の男が立っていた。


 全身を重厚なパワードスーツに包んだ大男。  顔の半分が機械化され、赤い義眼が不気味に輝いている。


「……ようこそ、侵入者たち」  男の声は、スピーカーを通したような低いノイズ混じりだった。


「ここは通さん。我が主、ゼロのために」


 俺はその立ち姿を見て、息を呑んだ。  あの構え。あの、どこまでも頑固で、融通の利かない立ち方。


「……お前、まさか『ゴロー』か?」


 Original Seven、No.05(フュンフ)。  コードネームは『アイギス』。  俺たちの中で最も守備セキュリティ構築が得意で、誰よりも仲間思いだった男。


「……ゴローという個体名は削除された。我は『ガーディアン』」


 男――ゴローは、背中に背負った巨大なシールドを構えた。  同時に、彼の周囲に青白い光の壁が展開される。


「排除する!」


 ドォォォォン!!  ゴローの肩からミサイルが発射された。


「散開しろッ!」  俺たちは左右に飛び退く。  着弾地点の床が吹き飛び、煙が上がる。


「セツナ、いけるか!?」 「……硬そう。でも、割る!」


 セツナが床を蹴り、ゴローの懐に飛び込む。  超高速の飛び膝蹴り。戦車すら破壊する威力だ。


 ガギィィィン!!  嫌な金属音が響いた。  セツナの攻撃は、光のエネルギーシールドに弾かれ、傷一つつけられない。


「……物理衝撃、無効」  ゴローが腕を振るう。巨大な盾がセツナを薙ぎ払う。  セツナは空中で身を捻って回避するが、衝撃波で壁まで吹き飛ばされた。


「セツナちゃん!」  結衣が悲鳴を上げる。


「くそっ、物理がダメなら電子戦だ! 未羽!」 「やってるわよ! でも……ダメ! このシールド、防御プログラムが完璧すぎる! 私のハッキングが全部弾かれる!」


 未羽が悔しそうに歯ぎしりする。  俺はPCの画面を見た。  そこに表示されたファイアウォールの構成。それは、かつて俺とゴローが一緒に考えた「絶対防御」の理論そのものだった。


『無駄だアイン。僕の守りは誰にも破れない。……たとえ君でも』


 ゴローがゆっくりと歩み寄ってくる。  その足音は、絶望のカウントダウンのようだ。


「……ふざけんな」  俺はキーボードを叩く手を止めなかった。


「ゴロー、お前はそんな奴じゃなかったはずだ。……俺たちが夜中にこっそりゲームしてた時、お前はいつも『タンク(盾役)』を選んで、俺たちを守ってくれた」


 俺は画面にコマンドを打ち込む。  正面突破じゃない。裏口バックドアでもない。  これは、俺とあいつだけが知っている「抜け道」。


「お前は優しすぎるんだよ。だから、守る対象ゼロが間違ってても、全力で守っちまう」


 俺は叫んだ。


「目を覚ませ、バカ野郎! お前が本当に守りたかったのは、ゼロの野望か!? それとも、俺たちの『自由』か!」


 ッターン!!!  俺はエンターキーを叩き込んだ。  俺が送ったのはウイルスじゃない。  十年前、俺たちが研究所で作っていた、未完成のゲームのセーブデータだ。


 ピピッ。  ゴローの動きが止まった。  赤い義眼が激しく明滅する。


『……データ受信。……これは……』


 彼の脳内モニターに、懐かしいドット絵のキャラクターたちが映し出される。  楽しかった日々。過酷な実験の合間に、隠れて笑い合った記憶。


『……アイン……? 僕は……』


 光のシールドにノイズが走り、揺らぎ始めた。


「今だセツナ! 盾の隙間、装甲の継ぎ目を狙え!」 「……了解ラジャ!」


 セツナが再び飛び出した。  今度は力任せじゃない。針の穴を通すような精密な一撃。


 ズドンッ!!  セツナの掌底が、ゴローの胸部装甲――制御ユニットの真上を打ち抜いた。


「ガハッ……!」  ゴローが膝をつく。  シールドが消滅し、彼の赤い義眼から光が消え……代わりに、人間らしい黒い瞳が戻った。


「……サトル……か?」  掠れた声。


「……おう。久しぶりだな、ゴロー」  俺はPCを閉じ、彼の前に歩み寄った。


「すまない……俺は……ゼロに操られて……」 「謝るな。ニートの俺にここまで労働させたんだ、あとで高い飯でも奢れよ」


 俺はゴローの手を握った。  彼はボロボロの体で、力なく、しかし確かに俺の手を握り返した。


「……先に行け、サトル。ゼロは……『地下最深部コア』にいる。……あいつは、全人類の意識を統合しようとしている」 「ああ、止めてくる。お前はここで休んでろ」


 アリスが西園寺家の医療キットを取り出し、ゴローの応急処置を始める。  結衣が「死なないでね」と涙ながらに声をかける。


 俺たちは再び歩き出した。  最初の関門は突破した。だが、これはまだ序章に過ぎない。  ゼロの元へたどり着くには、まだいくつかの「悲しい再会」が待っているかもしれない。


「……行くぞ。全員、叩き起こしてやる」


 俺の決意のこもった足音が、冷たい廊下に響いた。  最深部まで、あと二層。

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