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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第4話:聖オメガ小学校の華麗なる昼休み

東京都内某所、私立聖オメガ小学校。  ここは、政財界の重鎮の子息や、並外れた才能を持つ「ギフテッド」が集まる名門校である。  校内には最新のセキュリティシステムが導入され、授業では一人一台のハイスペックタブレットが支給される、まさに次世代の学び舎だ。


 その4年1組の教室は、給食の時間ランチタイムを迎えていた。


「……はぁ。眠い」


 教室の窓際、一番後ろの席。  そこに、死人のような顔で机に突っ伏している少女がいた。  宇佐美うさみ未羽みう。  ショートカットの髪は寝癖で跳ねており、目の下には深いクマができている。


(全部、あいつのせいだ……Unknown……!)


 未羽は恨めしげにため息をついた。  昨晩、彼女は謎のハッカー『Unknown』にサイバー攻撃を仕掛け、返り討ちに遭った。  送り込まれたウイルス『強制宿題タイム』のせいで、PCのロックを解除するために三桁の掛け算を百問も解かされたのだ。  おかげで睡眠不足である。


「ねえ、宇佐美さん。給食、食べないの?」


 声をかけてきたのは、隣の席の女子だった。  未羽は顔だけ上げて、気だるげに答える。


「いらない。糖分が足りない。脳が回らない」 「そ、そう……」


 クラスメイトは苦笑いして去っていった。  未羽はクラスでも浮いた存在だ。休み時間は常にタブレットで何か(主にハッキングのコード)を打ち込んでおり、誰とも群れない。  「孤高のウサギ」――それが彼女のスタイルだった。


 だが、このクラスには未羽以上に目立つ、二つの「特異点」が存在する。


 カツカツカツ……。  優雅な足音と共に、教室の中央へ歩み出る影があった。


「ごきげんよう、皆様」


 縦ロールの金髪をなびかせた、西園寺アリスである。  彼女の周りには、すでに数人の取り巻き(男子生徒)が控えており、給食の配膳を完璧に行っていた。今日のメニューはソフト麺とミートソースだが、アリスの机にだけはなぜか、重箱に入った特製ランチが置かれている。


「アリス様、今日の髪のツヤも最高です!」 「西園寺財閥の株価、また上がりましたね!」


 男子たちのご機嫌取りを、「ええ、当然よ」と軽くあしらうアリス。  まさに女王の風格。


 しかし、その女王が、ある一点を見つめて眉をひそめた。


「ちょっと、佐倉さん。あなた、またそんな庶民的なものを食べているの?」


 アリスの視線の先には、佐倉結衣がいた。  結衣は周りの女子たちと机を合わせ、楽しそうにソフト麺の袋を開けている最中だった。


「庶民的って、これ給食だよ? 西園寺さんこそ、給食費払ってるのにお弁当なんて勿体ないよ」 「フン、私の舌に合うのは三ツ星シェフの料理だけよ。……ま、昨日の『プリン』は例外として認めてあげるけど」


 アリスが意味深に微笑むと、結衣も「あはは」と笑い返した。  クラス中がざわつく。  「財閥の令嬢」であるアリスと、ごく普通の「世話焼き委員長」タイプの結衣。水と油のような二人が、なぜか最近、奇妙な繋がりを持っていることはクラスの七不思議になりつつあった。


 未羽は、その会話を盗み聞きしていた。


(プリン……? 昨日の……?)


 アリスは優雅にナプキンで口を拭うと、結衣の隣の椅子(男子生徒が慌てて用意した)に座った。


「ねえ、佐倉さん。あの『彼』のことなんだけど」 「彼? サトルお兄ちゃんのこと?」 「ええ。私、決めたの。彼を私の専属エンジニアとして雇うことにするわ」


 教室の空気が凍った。  男子たちが「彼!?」「佐倉さんと西園寺さんが取り合ってる男!?」「どこの御曹司だ!?」と色めき立つ。


 結衣はきょとんとして、ミートソースのついたフォークを振った。


「えー、無理だよ。サトルお兄ちゃん、朝起きられないし」 「時間は自由でいいわ。年俸は一億……いや、言い値でいいわよ。あの技術スキルは、国家機関に飼われる前に私が独占すべきだわ」 「うーん、でもお金あげたら、お兄ちゃん絶対ゲームに課金して終わっちゃうよ? それに、ご飯は誰が作るの? 洗濯は?」


 結衣の反論は、あまりにも生活感に溢れていた。


「そんなの、メイドにやらせればいいじゃない」 「ダメ! お兄ちゃんのパンツを畳んでいいのは私だけなの!」 「なっ……!? あなた、なんてハレンチな独占欲なの!」


 二人の会話はヒートアップしていく。  しかし、それを聞いていた未羽の耳が、ピクリと反応した。


(エンジニア……技術……国家機関……)


 未羽のIQ180の頭脳が、断片的な情報を高速で処理していく。  西園寺アリスほどの人間が「言い値で雇いたい」と言うほどの技術者。  しかも、佐倉結衣のような一般人が世話を焼いている、生活能力のない男。


 ――まさか。


 未羽はタブレットを操作し、西園寺家の昨日の通信ログ(暗号化されていたが、彼女には見えた)を確認する。  アリスのGPS情報は、昨日、とある古いアパートに長時間滞在していた。  そしてその直後、アリスのSNSには「猫が見つかった」という投稿。


(猫探し……ネットワークを使った広域捜索……)


 未羽の中で、点と線が繋がりかけた。  『Unknown』。  昨晩、自分をコケにした正体不明のハッカー。  もしや、その正体は――結衣の知り合いの「サトル」という男ではないか?


 ガタッ。  未羽は勢いよく椅子を立ち上がった。  大きな音に、言い争っていたアリスと結衣が振り向く。


「……宇佐美さん?」


 未羽は無言で二人に歩み寄った。  眠そうな目は、今は鋭い光を宿している。


「ねえ、佐倉さん」 「は、はい! なにかな?」 「その『サトル』って人……住所はどこ?」


 唐突な質問に、結衣は目を丸くした。  アリスも不審げに目を細める。


「ちょっと宇佐美さん、あなたも彼を狙ってるの? 悪いけど、彼は私が先に見つけたのよ」 「……興味があるだけ。どんな『システム』で動いている人間なのか、解析バラしてみたいから」


 未羽の言葉選びは不穏だったが、結衣は「お友達になりたいのかな?」とポジティブに解釈したらしい。


「えっとね、ここから歩いて十分くらいの『メゾン・ド・サトウ』だよ! 今日、学校終わったら私行くけど……来る?」


 その言葉こそ、未羽が待っていたパスワード(鍵)だった。


「行く。……絶対に行く」


 未羽は拳を握りしめた。  待っていろ、Unknown。  算数ドリルの恨み、きっちりと晴らしてやる。


 こうして、放課後のアパートに集結する役者は揃った。  最強のニート・佐藤悟にとって、今日が「終わりの始まり」になることを、彼はまだ知らない。

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