第33話:道の駅バトルロイヤル! 新鮮野菜と殺意をカゴに入れろ
逃亡生活二日目。 北関東の山間部を走るキャンピングカーの中に、切実な声が響いた。
「……お兄ちゃん。限界だよ」 結衣が冷蔵庫を開けっ放しにして、うなだれている。
「お米はあるけど……おかずがないよ。アリスちゃんが持ってきたキャビアとフォアグラの缶詰じゃ、ご飯が進まないよぉ……」 「贅沢な悩みだな! だが、確かにビタミン不足は否めない」
俺、佐藤悟も同意した。 人間、高級食材だけでは生きられない。シャキシャキのレタスや、瑞々しいトマト、そして何より「豚コマ切れ肉」が必要なのだ。
「佐藤。あそこに『道の駅』があるわ」 助手席のアリスが前方を指差す。 看板には『道の駅・しもつけ ~採れたて野菜と足湯の里~』の文字。
「……リスクはある。だが、背に腹は代えられん」 俺は決断した。
「作戦名は『30分クッキング・ミッション』。手分けして食材を確保し、即座に撤収する!」
***
道の駅は、平日にも関わらず観光客で賑わっていた。 俺たちは目立たないよう、変装して車を降りた。
俺はマスクにサングラス、深めの帽子(逆に不審者)。 アリスと結衣は麦わら帽子にワンピース(観光客風)。 未羽はパーカーのフードを目深に。 セツナは……目立つ銀髪を隠すため、売店で買った『ご当地キャラのキャップ』を被せた。
「マスター。……ここ、いい匂い。食べ物がいっぱい」 セツナが鼻をヒクヒクさせている。 直売所には、泥付きのネギや大根が山積みにされていた。
「よし、班分けだ。結衣とセツナは野菜と肉。アリスと未羽は飲み物と日用品。俺は……周囲を警戒しつつ、カップ麺を確保する」 「お兄ちゃん、自分の好物を優先しないでね!」
少女たちが人混みに散っていく。 俺もカートを押して乾麺コーナーへ向かった。 ここまでは順調だ。田舎ののんびりした空気が、俺の警戒心を少しだけ緩める。
だが、レジに並ぼうとした時だった。
ピロリン♪ ピロリン♪
周囲にいた数人の客のスマホが、一斉に鳴った。 緊急地震速報ではない。もっと不穏な通知音だ。
「……あ? なんだこれ。『近くにSランク賞金首が出現』?」 「マジかよ、100億ドル!? この道の駅に?」 「特徴は……ジャージの男と、四人のガキ……」
やんちゃそうな金髪の若者グループ(地元のヤンキー風)が、スマホと俺を交互に見比べる。 そして、ニヤリと笑った。
「……ビンゴじゃん」
一瞬で、場の空気が凍りついた。 彼らだけじゃない。 野菜を選んでいた主婦風の女が、カバンからスタンガンを取り出す。 ベンチで休憩していたサラリーマン風の男が、特殊警棒を伸ばす。
全員、ハンターかよ! 100億ドルの力は、一般市民すら修羅に変えるのか。
「見つけたぞォォォ! 1兆円ンンン!」
ヤンキーが叫び、俺に掴みかかってくる。
「うわっ、やめろ! 俺はただのカップ麺愛好家だ!」 俺はカートを押し付けて逃げ出した。
「お兄ちゃん!」 結衣の悲鳴。 見ると、野菜コーナーでもセツナたちが囲まれている。
「……マスターの敵。排除する」 セツナが殺気を放ち、大根(極太)を構えた。
「待てセツナ! 一般人を殺すな! 峰打ち(?)だ!」 「……了解」
ドゴッ! セツナが大根をフルスイングし、襲いかかってきた男を吹き飛ばした。 大根が折れた。 ……あの大根、今夜のおかずだったのに。
「こっちよ! 走って!」 アリスが未羽の手を引き、出口へ向かう。 だが、自動ドアの前に立ちふさがる影があった。
全身黒ずくめの男。手にはクロスボウ(洋弓銃)。 こいつは素人じゃない。プロだ。
「逃がさんよ。……死ね」
ヒュンッ! 矢が放たれた。 狙いは俺の足。
「うおっ!?」 俺は無様に転んで回避した。矢が床のタイルを砕く。
「くそっ、囲まれた!」 店内は大パニックだ。観光客の悲鳴と、ハンターたちの怒号が飛び交う。 このままじゃ袋叩きだ。
その時。 俺のポケットの中で、スマホが震えた。未羽からの通信だ。
『サトル! 道の駅のシステム、ハックしたわ! 3、2、1……今!』
バチッ! 店内の照明が一斉に消えた。
『本日の特売タイムサービス! 全品99%オフ! 早い者勝ちでーす!』
館内放送が大音量で嘘のアナウンスを流し始めた。 さらに、スプリンクラーが誤作動を起こし、水が降り注ぐ。
「な、なんだ!?」 「99%オフ!? いや、水だ!」 「前が見えねぇ!」
ハンターたちが混乱する。 その隙に、暗視モードの目を持つセツナが俺の手を引いた。
「マスター、こっち」 「でかした未羽! 全員、車へ急げ!」
俺たちはカート(カップ麺満載)を押しながら、水浸しの店内を駆け抜けた。 駐車場には、エンジンをかけたキャンピングカーが待機している。
「乗って! 早く!」 氷室刑事が叫ぶ。 俺たちが飛び乗るのと同時に、ヤンキーたちが追いかけてきた。 軽トラや改造バイクに乗り込み、エンジンをふかす。
「逃がすかオラァァ!」
カーチェイスの開始だ。 だが、相手が悪かった。
「……公道で暴走行為とは。交通課(元公安)として見過ごせませんね」
氷室刑事がハンドルを切りながら、不敵に笑う。 彼女はダッシュボードのスイッチを押した。
ガシャッ。 キャンピングカーの後部バンパーが開き、そこから大量の『マキビシ(パンク誘発剤)』がばら撒かれた。 公安の特殊車両装備だ。
パン! パン! キキキーッ! 追っ手のバイクや車が次々とパンクし、スピンしていく。
「ざまあみろ! 交通ルールを守らないからだ!」 俺は窓から身を乗り出して叫んだ。
***
一時間後。 俺たちは安全な山道で車を止め、遅い昼食をとっていた。
戦利品は、折れた大根、少し潰れたトマト、そして大量のカップ麺。
「……はぁ。買い物ひとつで命がけね」 アリスが濡れた髪をタオルで拭きながらため息をつく。
「でも、お野菜ゲットできてよかったぁ。今夜は豚汁だよ!」 結衣は嬉しそうに折れた大根を洗っている。逞しい。
俺はPCを開き、今の戦闘データを分析していた。
「……一般人の情報網、侮れないな。あの『賞金首アプリ』、誰が作ったんだ?」 「ボクが解析する。……でも、これじゃあ街中には入れないよ。顔認証システムと連動してるみたいだし」
未羽が深刻な顔をする。 コンビニも、スーパーも、ガソリンスタンドも。 カメラがある場所はすべて「敵地」だ。
「……サバイバル生活、か」 俺はカップ麺をすすった。 味がしない。1兆円の重みが、胃にずっしりときた。
だが、セツナだけは平気な顔で、生の大根を齧っていた。 「……マスター。敵が来たら、また殴ればいい。問題ない」
その野生のポジティブさに、俺は少しだけ救われた気がした。
「そうだな。……次は、もっと上手く逃げてやるさ」
俺たちの逃避行は、まだ始まったばかりだ。 次の目的地は、かつて俺が所属していた研究所の跡地があるという、東北の山奥。 そこに、全ての元凶『Original Seven』のヒントがあるはずだ。




