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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第32話:狭すぎる「城」と、天才たちが夢見た世界

深夜の国道を、一台のキャンピングカーがひた走る。  外見は少しゴツイだけのレジャー車両だが、その中身は最新鋭の電子機器と、世界の敵となった五人の指名手配犯(+現職刑事)が詰まっていた。


「……狭い。エコノミークラス症候群になりそうよ」


 後部座席でアリスが不満を漏らす。  無理もない。本来は四人用のキャンピングカーに、六人がひしめき合っているのだ。  西園寺家の豪邸に比べれば、独房のようなものだろう。


「我慢してください。これでも防弾・防爆仕様の特注品なんです」  ハンドルを握る氷室刑事が、バックミラー越しにたしなめる。


 俺、佐藤悟は助手席を陣取り、ノートPCを開きながら、後ろの少女たちに向き直った。


「さて……さっきの話の続きだ」


 車内の空気が少し張り詰める。  結衣が膝を抱え、セツナが耳を澄ます。未羽はPCの手を止めた。


「『Original Sevenオリジナル・セブン』。それは十年前、ある国際的な研究機関によって集められた、七人の子供たちのことだ」


 俺は窓の外を流れる街灯を見つめた。


「遺伝子選別と英才教育によって、特定の分野に特化した能力を持つ子供たち。……俺たちは、そこで『世界を管理するシステム』を作るための生体パーツとして育てられた」


「世界を……管理?」  未羽が眉をひそめる。


「ああ。金融、軍事、物流。あらゆるネットワークを統括するAIの『コア』になるはずだったんだ。……俺のコードネームは『アイン(1)』。チームのリーダーで、全てのシステムの設計者だった」


 俺は自嘲気味に笑った。


「笑えるだろ? 今の俺は、ただの怠け者のニートだ。でも当時は、本気で世界を良くできると信じてた。俺たちの技術で、貧困も戦争もなくせるって」


 だが、現実は違った。  俺たちが作ったシステムは、大国が他国を支配するための兵器として利用されそうになった。  仲間の一人が、過酷な実験で壊れてしまった。


「だから……俺は逃げた」


 俺は拳を握りしめた。


「プロジェクトを内部から破壊し、重要データを消去し、自分という存在を死んだことにして……日本の片隅のアパートに逃げ込んだんだ」


 それが、最強のハッカー『Unknown』の誕生であり、同時に『佐藤悟』というニートの始まりだった。


「俺はもう、働きたくなかった。才能なんて呪いだと思った。だから、ひたすらダラダラして、ゲームして、社会の歯車になることを拒絶したんだ」


 話し終えた俺は、俯いた。  幻滅されたかもしれない。  世界を救うヒーローなんかじゃない。ただの、責任から逃げ出した臆病者だと。


 沈黙が流れた。  エンジンの振動音だけが響く。


 やがて、小さな手が俺の頭に置かれた。  結衣だった。


「……頑張ったんだね、お兄ちゃん」


 彼女の声は、どこまでも優しかった。


「子供なのに、いっぱい働いて、いっぱい傷ついて……。そりゃあ、疲れて休みたくもなるよ」 「結衣……」 「だから、今はニートでいいんだよ。お兄ちゃんが今まで頑張った分、私が美味しいご飯を作って、休ませてあげる」


 涙が出そうになった。  この子は、どこまで俺を甘やかしてくれるんだ。


「そうね。……ま、あなたの過去がどうであれ、今のあなたは私の『ペット』よ。飼い主が責任を持つのは当然だわ」  アリスがそっぽを向きながら言う。


「ボクにとっては、サトルはサトルだよ。最強の師匠で、最高のゲーム仲間」  未羽がニカっと笑う。


「……マスターはマスター。過去はいらない。今、ここにいる」  セツナが俺の腕に頬擦りをする。


 俺は鼻をすすり、天井を見上げた。  狭い車内。逃亡の旅。  だけど、ここには俺の居場所がある。


「……ありがとな、みんな」


 俺はPCの画面を見た。  あの『招待状』を送ってきた『No Name』。  奴は恐らく、かつての仲間の一人だ。俺を恨んでいるのか、それとも別の目的があるのか。


「氷室さん。とりあえずの目的地は?」 「北へ向かっています。都内は監視の目が多すぎますから、東北方面へ逃げましょう。人の少ない山間部なら、追っ手も撒きやすいはずです」 「了解。……長い旅になりそうだ」


 その時。  グゥゥゥ~……。  盛大な音が車内に響いた。  結衣のお腹だ。


「あ、あはは……。緊張が解けたら、お腹すいちゃった」  結衣が顔を真っ赤にする。  続いて、セツナのお腹も鳴る。ついでに俺も。


「……そうだな。まずは腹ごしらえだ」


 俺は立ち上がった(頭を天井にぶつけたが)。


「この車、キッチンはあるのか?」 「簡易的なIHコンロと、冷蔵庫があります。食材は……アリスさんが買い込んだ高級食材が少しと、結衣ちゃんが持ってきたお米くらいですね」


「上等だ。……よし、今夜は『車中泊カレー』にするぞ!」


 俺の号令に、車内の空気が一気に明るくなった。  逃亡犯たちの、ささやかな晩餐会が始まる。


 外は冷たい雨。  けれど、この鉄の箱の中だけは、スープの温かい湯気と笑い声で満たされていた。


 俺たちはまだ、負けていない。  100億ドルの首をかけた、終わりのないドライブは、まだ始まったばかりだ。

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