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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第29話:真夏の夜の怪談、そして幽霊への物理攻撃

無人島の夜は、想像以上に暗かった。  波の音だけがザザーン、ザザーンと響く中、俺たち一行はヴィラの広間に集まっていた。


 照明は落とされ、テーブルの真ん中には一本のロウソク(LED製だが)が灯されている。


「……で。なんでこんな状況になってるんだ?」


 俺、佐藤悟はげんなりした顔で尋ねた。  目の前には、布団を被って震える結衣と、強がっているが顔色が青いアリス。  そして、なぜか戦闘態勢ファイティングポーズをとっているセツナ。  未羽の姿だけが見当たらない。


「な、なによ佐藤。夏と言えば怪談、怪談と言えば肝試しでしょ? これは日本の伝統文化よ」  アリスが声を震わせながら主張する。


「お兄ちゃん……私、怖いよぉ……帰ろうよぉ……」  結衣が俺の腕にギュッとしがみつく。役得だが、彼女の爪が食い込んで痛い。


「……マスター。暗闇は危険。敵が潜んでいる確率、98%」  セツナが虚空を睨みつけている。お前の殺気の方が怖いよ。


 事の発端は、夕食後に未羽が言い出した一言だった。  『ねえ、この島……出るらしいよ? 昔、海賊が隠した財宝を守る亡霊が』  その言葉を残して、未羽は「トイレに行く」と言って消えたきり、戻ってこない。


 ――典型的なフラグだ。


「キャアアアッ!」  突然、窓の外で何かが横切った影を見て、結衣が悲鳴を上げた。 「た、ただのコウモリよ! うろたえるんじゃないわよ!」  アリスが結衣にしがみつく。どっちが怖がってるんだか。


「……マスター。迎撃する?」 「待て。幽霊を殴ろうとするな」


 その時。  ヒュ~……ドロドロドロ……。  どこからともなく、不気味な効果音が聞こえてきた。  そして、廊下の奥から、白い着物を着た髪の長い「何か」が、ゆらりゆらりと近づいてきた。


「で、出たぁぁぁぁッ!!」 「いやぁぁぁ! 来ないでぇぇ!」


 結衣とアリスが絶叫し、俺の背後に隠れる。  俺は目を細めた。  ……あれ、足がない? いや、よく見ると浮いている?


 白い幽霊は、「ウラメシヤ~……」と低い唸り声を上げながら、俺たちの目の前でピタリと止まった。


「……ふん。交渉成立ね」  アリスが震える手で、懐からブラックカードを取り出し、幽霊に突きつけた。


「い、いくら欲しいの!? 100万? 1000万? 成仏料として西園寺家が支払ってあげるわ! だから消えなさい!」  幽霊を買収しようとする小学生、初めて見た。


 幽霊はカードを無視して、さらに近づいてくる。  結衣が「お兄ちゃん助けてぇ!」と泣き叫ぶ。


 その瞬間。  風が動いた。


「……敵性体、排除する」


 セツナだ。  彼女は床を蹴り、弾丸のように幽霊の懐へと飛び込んだ。


「セツナ、待て!」 「……死ね(もう死んでるけど)!」


 セツナの右拳が、幽霊の顔面(と思われる場所)に深々と突き刺さった。


 バキィィィン!!  鈍い音ではなく、硬質な金属音が響き渡った。


「……あ痛っ!」  幽霊から、聞き覚えのある少女の声が漏れた。


 同時に、幽霊の体がガシャガシャと音を立てて崩れ落ち、白い布がバサリと落ちた。  中から現れたのは――最新鋭のドローンと、それを操作していたタブレット端末、そして頭にタンコブを作った宇佐美未羽だった。


「……いったぁ~……。セツナ、マジ殴りはないでしょ……」  未羽が涙目で頭を押さえている。


「……未羽?」  セツナが拳を構えたまま首を傾げる。  アリスと結衣が、恐る恐る顔を上げた。


「……なーんだ! 未羽ちゃんだったの!?」 「もう! 人騒がせな!」


 ほっとした空気が流れる中、俺は呆れながら未羽に近づいた。


「3Dホログラム投影機能付きドローンか。凝ったイタズラだな」 「へへ……涼しくなったでしょ? 最新技術による『科学的怪談』だよ」


 未羽が悪びれもせずに笑う。  しかし、アリスの怒りは収まらなかった。


「未羽……。私を本気で怖がらせた罪は重いわよ?」 「え、ちょ、アリス? 目が笑ってない……」 「セツナ、押さえなさい」 「……了解」


 セツナが未羽の腕をガシッと掴む。  逃げられない。


「罰として、朝まで『百物語』に付き合ってもらうわ。もちろん、あなたが語り手よ」 「ええーっ!? ボク眠いんだけど!」 「却下よ!」


 こうして、ヴィラの夜は更けていった。  結衣は安心して俺の膝枕で寝てしまい、アリスと未羽の不毛な怪談バトルが続き、セツナは「幽霊=ドローン」と学習して、窓の外を飛ぶカモメを警戒し続けていた。


 俺は窓の外を見た。  月が綺麗だ。  ふと、未羽が言っていた「海賊の財宝」の話を思い出す。


(……まあ、本当に出たとしても、ウチには物理で除霊する巫女セツナがいるから大丈夫か)


 俺はあくびをして、結衣の髪を撫でた。  ニートの夏休みは、幽霊よりも生身の少女たちの方がよっぽど騒がしくて、手がかかる。

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