表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/52

第23話:野生児の『魔改造』計画と、灰色のコートの男

問題だ。非常に問題だ。  俺、佐藤悟はリビングのソファで、目の前の光景に頭を抱えていた。


 銀髪の少女、セツナ。  彼女は現在、俺のヨレヨレのTシャツ一枚(下着は辛うじて着用)という、いわゆる「彼シャツ」スタイルで部屋をうろついている。  本人は気にしていないようだが、Tシャツの裾から覗く白く華奢な太ももや、動くたびにチラ見えしそうな鎖骨が、二十八歳健全男子の精神衛生上よろしくない。


「……セツナ。服、着ないか?」 「着てる。マスターの匂いがするから、これがいい」


 セツナはTシャツの襟元をクンクンと嗅ぎ、うっとりしている。  ダメだ、野生動物すぎる。


「許せないわ……!」  バンッ! とテーブルを叩いたのは、アリスだった。


「私のサトルの服を独占していることも許せないけど、何よりその貧乏くさい格好! 西園寺家の出入り業者(仮)として恥ずかしいわ!」 「ボクも同感。目に毒だよ。サトルが鼻の下伸ばしてるし」 「伸ばしてねぇよ!」


 未羽の冷静なツッコミを否定するが、結衣も真剣な顔で頷いた。


「そうだね。女の子なんだもん、可愛いお洋服着なきゃダメだよ! それに、ちゃんとした服を着ないと、ただの『変態お兄ちゃんに監禁された子』に見えちゃうよ?」 「世間体が一番痛い!」


 こうして、満場一致で**「セツナ人間化計画ショッピング」**が決行されることになった。


 ***


 やってきたのは、都内有数の巨大ショッピングモール『オメガ・シティ』。  当然、西園寺グループの所有物件である。


「さあ、覚悟なさい。あなたを立派なレディに改造してあげるわ」  アリスがブラックカードを煌めかせ、高級子供服ブランドのフロアへと進軍する。


 そこからは、地獄のファッションショーだった。


「まずはこれ! フリル付きのワンピース!」 「動きにくい。……敵を蹴り飛ばせない」 「蹴らなくていいの! 次はこれ、森ガール風チュニック!」 「布が多い。……空気抵抗が増える」 「空力特性とかどうでもいいから!」


 セツナは試着室に入れられるたびに「ウーッ」と唸り声を上げているが、結衣になだめられ、アリスに脅され、未羽に写真を撮られながら、次々と着替えさせられていく。


 一時間後。  試着室のカーテンが、シャッ! と開けられた。


「お待たせお兄ちゃん! 完成だよ!」


 そこに立っていたのは、別人のような美少女だった。  ボロボロだった銀髪は綺麗に梳かされ、白いベレー帽をかぶっている。  服は淡いブルーのオフショルダー・ブラウスに、動きやすそうなキュロットスカート。  そして首元には、あのバーコードを隠すための、可愛いリボンのチョーカーが巻かれていた。


「……どう? マスター」  セツナが不安そうに上目遣いで見てくる。


「……うん。似合ってるよ。すごく」  俺は素直に感想を漏らした。  素材が良いのは分かっていたが、こうして着飾ると、どこかの国の王女様のようだ。


「マスターが言うなら、着る」  セツナは嬉しそうに頬を染め、くるりと回ってみせた。  結衣たちが「可愛いー!」と盛り上がる。


 平和だ。  俺たちは買い物を終え、フードコートで休憩することにした。  セツナにとっては初めてのアイスクリームだ。


「……冷たい。甘い。……溶ける」  セツナは目を丸くして、スプーンに乗ったバニラアイスを見つめている。  その横顔を見ながら、俺は少しだけ安堵していた。  これなら、普通の女の子として生きていけるかもしれない。


 だが、その安息は唐突に破られた。


 ピクリ。  アイスを食べていたセツナの手が止まった。  彼女の獣のような耳が、雑踏の中から「ある足音」を拾ったのだ。


「……来た」 「え?」


 セツナの顔から血の気が引き、スプーンが床に落ちてカランと音を立てた。  ガタガタと震えだす体。  彼女の視線の先――フードコートの柱の陰に、一人の男が立っていた。


 季節外れの灰色のトレンチコート。  目深に被った帽子。  その男は、周囲の親子連れに溶け込むように、しかし明確な殺気を持ってこちらを見ていた。


(……なんだ、あいつは)


 俺の背筋に悪寒が走る。  ただのチンピラじゃない。立ち方が、プロだ。  男はゆっくりと、こちらへ歩いてくる。


「……№007(セブン)。迎えに来たよ」


 男の声は、優しげだが、底冷えするような響きを持っていた。  セツナが悲鳴を上げそうになり、口を押さえる。


「さあ、帰ろう。実験はまだ終わっていないんだ」  男が手を伸ばす。


 その手がセツナに届く直前。  俺は立ち上がり、男の手首を掴んだ。


「……人違いじゃないですかね」 「おや?」 「ウチの子に、気安く触らないでくれませんか。不審者さん」


 俺は笑顔で、しかし全力で握りしめた。  男は表情一つ変えない。  逆に、俺の手首を掴み返してくる。  ミシミシッ……!  万力のような力だ。俺の骨が軋む。


一般人シビリアンが介入するな。……指が折れるぞ」


 痛い。激痛だ。  だが、俺の後ろではセツナが震えている。  ここで引いたら、男じゃない。


「……アリス!」  俺は叫んだ。


「分かってるわよ!」  アリスがスマホを取り出し、緊急ボタンを押した。


「モール内の全警備員、および西園寺セキュリティ部隊! フードコートへ集結せよ! 不審者一名を確保!」


 ビーッ! ビーッ!  館内に警報音が鳴り響く。  一分もしないうちに、屈強な警備員たちが四方八方から駆け寄ってくる。


 男は周囲を見回し、少しだけ残念そうに肩をすくめた。


「……西園寺財閥の令嬢か。今は分が悪いな」


 男は俺の手を離した。  その瞬間、俺の手首に赤い痣が残る。


「№007。今日は引こう。だが、忘れるな」  男は帽子のつばを持ち上げ、セツナを見据えた。


「君は『兵器』だ。首輪のない猛獣は、いずれ飼い主を噛み殺す。……その時が楽しみだよ」


 男は雑踏の中に紛れ込み、煙のように消え失せた。  警備員たちが取り押さえようとした時には、もう影も形もなかった。


「……はぁ、はぁ」  俺はへたり込んだ。  手首がズキズキと痛む。


「マスター……ごめんなさい……私のせいで……」  セツナが泣きそうな顔で俺の手首をさする。  俺は痛む手で、彼女の頭に被せたベレー帽をポンポンと叩いた。


「気にするな。……それより、アイスが溶けてるぞ」 「……え?」 「せっかく可愛い服を買ったんだ。今日は最後まで楽しむぞ。あんな幽霊野郎のせいで台無しにされてたまるか」


 俺は強がって笑ってみせた。  結衣と未羽も、不安そうだが笑顔を作ってくれる。


 だが、俺は確信していた。  今の男――『追跡者ハンター』。  奴は必ずまた来る。  そしてその背後には、ヨルムンガンドとはまた違う、より冷徹で強大な組織がいる。


(……やれやれ。俺のニート生活、ハードモードすぎないか?)


 俺は溶けかけたアイスを口に運び、甘さと共に苦い予感を飲み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ