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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第21話:雨の日の拾いもの、そして第2次ニート大戦(修羅場)の幕開け

世界を救ってから一ヶ月。  季節は梅雨に入り、東京は連日の雨に沈んでいた。


 俺、佐藤悟の生活は、驚くほど変わっていなかった。  相変わらず昼に起き、ゲームをし、結衣のご飯を食べ、アリスに家賃を(体で)払い、未羽と対戦ゲームをする。  平和だ。平和すぎて、背中にカビが生えそうだ。


「……カップ麺の買い置きが切れた」


 深夜二時。  激しい雨音が窓を叩く中、俺は空腹に耐えかねてコンビニへ行くことにした。  ビニール傘を差して、サンダルをぺたぺたと鳴らしながら歩く。


 アパートへの帰り道。  ゴミ捨て場の横を通った時だった。


「……ん?」


 濡れた段ボール箱が置かれていた。  その中から、ガサゴソという音と、小さな気配がする。  捨て猫か?  俺はため息をついた。ウチのアパートはペット禁止だ(大家のアリス権限で特例はあるかもしれないが)。


「悪いな、俺は自分の面倒を見るので精一杯なんだ」


 通り過ぎようとした。  その時、段ボールの隙間から、細くて白い手が伸びてきて――俺のジャージの裾を、ギュッと掴んだ。


「……たす……けて……」


 猫じゃない。  俺は慌てて傘を傾け、箱の中を覗き込んだ。


「おい、大丈夫か!?」


 そこにいたのは、ズブ濡れの少女だった。  銀色の髪が肌に張り付き、体はガタガタと震えている。着ているのはボロボロの貫頭衣かんとういのような布切れ一枚。  裸足の足は泥だらけで、あちこちに擦り傷がある。


 少女は虚ろな瞳で俺を見上げ、掠れた声で呟いた。


「……あったかい……匂い……」


 ドサッ。  少女は俺の足元に倒れ込み、そのまま意識を失った。


「お、おい! しっかりしろ!」


 見捨てられるわけがない。  俺は傘を放り投げ、少女を抱きかかえた。  軽い。羽毛のように軽い。そして、熱い。高熱がある。


「くそっ、厄介ごとの予感しかしねぇ!」


 俺は少女を背負い、雨の中をアパートへと走った。


 ***


 翌朝。  雨は上がり、雀の鳴き声がチュンチュンと響いていた。


 俺はソファの上で目を覚ました。  昨晩、拾った少女を風呂に入れ(もちろん目は瞑って洗った)、俺のブカブカのTシャツを着せてベッドに寝かせた後、看病していたらいつの間にか寝落ちしていたらしい。


「……そうだ、あの子」


 俺は慌ててベッドの方を見た。  いない。  もぬけの殻だ。


「まさか、出て行ったのか?」  俺が立ち上がろうとした、その瞬間。


 ギュッ。  背中から、何かが抱きついてきた。


「……?」


 振り返ると、そこには銀髪の少女がいた。  彼女は背後から俺の腰に腕を回し、顔を俺の背中に埋めている。  まるで、親木にしがみつく蝉のように。


「お、おい。起きたのか?」 「……ん」 「体調は?」 「……ん」


 少女は無表情のまま、さらに強く抱きついてくる。  俺が歩こうとすると、そのままズルズルと引きずられてついてくる。  離れない。強力な磁石だ。


「あのな、ちょっと離れてくれないとトイレにも行けないんだが」 「……やだ」 「やだ、じゃない」


 困った。完全に懐かれた。  野生動物の刷り込み(インプリンティング)か何かか?


 その時。  運命の時刻が訪れた。


 ガチャリ。  玄関のドアが開く音。


「サトルお兄ちゃん! おはよー! 今日はお休みだから、朝からフレンチトースト作るね!」


 元気いっぱいの結衣の声。  続いて、


「佐藤、今月の家賃の徴収に来たわよ。……あと、新作の紅茶も」  アリスの高飛車な声。


「サトル、昨日の対戦の続き……」  未羽の眠そうな声。


 いつものJSトリオが、三点セットで来訪した。  そして、彼女たちは見た。


 部屋の中央で立ち尽くす俺。  その俺に対し、Tシャツ一枚(下は穿いてるが見えない)というきわどい格好で、背後から密着抱擁している見知らぬ美少女を。


 シン……。  時が止まった。  結衣が持っていた卵パックが床に落ち、グシャリと割れる音が響く。


「……お兄ちゃん?」


 結衣の声から、感情というものが完全に消え失せていた。  瞳のハイライトが消失し、代わりに暗黒物質ダークマターのような黒いモヤが背後に立ち上る。


「……説明、してくれるよね? その、泥棒猫・・・・は誰?」


「あら、奇遇ね。私も同じことを聞こうと思っていたの」  アリスが優雅に扇子を開いたが、その手はギリギリと音を立てて震えている。 「私の許可なく、新しいペットを増やすなんて……どういう教育的指導が必要かしら?」


「……サトル。ボクという二番手がいながら、新しい女?」  未羽がPCを取り出し、何かの攻撃コードを打ち込み始めた。


 殺気。  世界を救った時以上の、濃密な死の気配が部屋に充満する。


「ち、違う! 誤解だ! こいつは昨日の雨で拾っただけで……!」 「拾った? 女の子を? 警察も呼ばずに連れ込んで? ……お兄ちゃん、ついに一線を超えたの?」


 結衣がキッチンの包丁立てに手を伸ばそうとする。  待て待て待て!


 すると、背中の少女――セツナが、のっそりと顔を上げた。  彼女は虚ろなオッドアイで三人の少女を見回し、そして俺の首筋に顔を擦り寄せながら、ボソッと言った。


「……マスター。この、排除していい?」


 ブチッ。  何かが切れる音が、三人同時にした。


「「「マスターっ!!??」」」


 結衣の髪が逆立つ。  アリスの背後に不動明王が見える。  未羽のPCから「Lock on」の音声が流れる。


「上等じゃない……! どこの馬の骨か知らないけど、私の領土で随分と大きな顔をしてくれるわね!」 「お兄ちゃんから離れて! そこは! 私の! 場所ポジションなの!」


 セツナは俺にしがみついたまま、獣のように小さく「ウーッ」と唸り声を上げた。  一触即発。  俺の部屋が、核戦争の爆心地になろうとしている。


「頼むから落ち着いてくれぇぇぇッ!!」


 俺の絶叫は、乙女たちの嫉妬の嵐にかき消された。  こうして、新たな波乱――『謎の少女セツナ編』の幕が上がった。

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