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住所不定無職、佐藤悟(28)。実は世界を救う伝説のハッカーですが、隣の女子小学生(10)に餌付けされて生きてます  作者: RIU


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第13話:メゾン・ド・サトウ防衛線! 家電たちよ、牙を剥け

深夜二時。  草木も眠る丑三つ時だが、メゾン・ド・サトウ203号室は、電子の熱気でサウナのようになっていた。


「……来たわよ。一階の植え込みに二名。裏手のゴミ捨て場に一名」


 赤外線サーモグラフィの映像を見ながら、未羽が緊張した声で告げる。  画面には、赤く光る人影が、音もなくアパートを取り囲んでいく様子が映し出されていた。  プロだ。足音ひとつ立てない。


「チッ、ゴキブリみたいに湧きやがって……」


 俺はPCの前で舌打ちした。  結衣はベッドですやすやと寝ている。この安眠を妨害する奴は、たとえ神でも許さない。


「佐藤、どうするの? ここの壁、蹴れば穴が開くくらい薄いわよ?」


 アリスが不安そうに壁をコンコンと叩く。  失敬な。確かに築四十年だが、俺の青春と怠惰が染み込んだ聖域だ。


「安心しろ。物理的な壁は薄いが、電子の壁は要塞並みだ。――エヴァ、防衛モード『ホーム・アローン』起動」 『了解ラジャ。スマート家電リンク、オールグリーン。いつでもいけます』


 俺は不敵に笑い、エンターキーに指を置いた。


「ようこそ、我が家へ。お茶は出せねぇが、ビリビリくる刺激おもてなしはたっぷり用意してあるぜ」


 ***


 敵の第一波は、玄関のスマートロックへのハッキングから始まった。


「へえ、ブルートフォース(総当たり攻撃)? 芸がないわね」


 未羽が鼻で笑いながら、キーボードを叩く。  彼女が仕込んだのは、パスワードを間違えるたびに、敵の端末に『大量のネコの画像』を送りつけてメモリをパンクさせるカウンタープログラムだ。


 外から「くそっ、なんだこの猫は!」という小さな声が聞こえる。


「よし、次は物理攻撃だ。ベランダ側の窓に張り付いたぞ」


 俺は画面を切り替えた。  ベランダに潜む黒服の男が、特殊なカッターで窓ガラスを切ろうとしている。  甘い。そこはすでに俺の支配下だ。


「エヴァ、ベランダの『人感センサーライト』を……ストロボモードで全力照射!」


 カッ! カッ! カッ!  直視できないほどの強烈なLEDの点滅が、暗闇の中で炸裂した。


「ぐあぁっ! 目が!」 「追撃だ。スマートスピーカー、音量最大!」


 部屋の外に設置してあるスピーカーから、デスメタルの重低音が爆音で轟いた。  近所迷惑? 知るか、今は非常事態だ!


 男が怯んだ隙に、俺は次の手を打つ。


「いけっ、ルンバ一号改め『キラー・ルンバ』!」


 ウィイイイン!  ベランダに放置していたロボット掃除機が起動した。  そのバンパーには、護身用のスタンガン(改造済み)がガムテープで固定されている。


 ルンバは猛スピードで男の足元に突撃した。  バチバチバチッ!


「ぎゃああああ!?」


 男は感電し、白目を剥いてベランダの手すりを乗り越え、一階の植え込みへと落下していった。  ドサッ、といういい音が響く。


「……えげつないわね」  アリスが若干引いている。


「褒め言葉として受け取っておく。だが、まだ終わりじゃないぞ」


 正面玄関。  しびれを切らした本隊が、ドアをバールでこじ開けようとしていた。  ガンッ! ガンッ!  ドアが歪む。さすがに物理攻撃はずるい。


「未羽、時間を稼げ! アリス、例のモノはまだか!」 「今、到着するわ! 座標ズレなし!」


 アリスがスマホアプリの画面を見せる。  その瞬間、夜空から重厚なプロペラ音が響いた。


 ブォォォォォン……!  アパートの上空に現れたのは、冷蔵庫でも運べそうな巨大なドローンだ。  機体には『SAIONJI LOGISTICS』のロゴ。


「西園寺特急便よ。お届け物は……『小麦粉(業務用20kg)』!」


 ドローンのアームが開き、玄関前で密集していた敵部隊の頭上に、白い粉袋が投下された。  バフンッ!!  袋が破裂し、あたり一面が真っ白な煙幕に包まれる。


「げほっ! ごほっ! なんだこれ!?」 「視界ゼロだ! 退避しろ!」


 粉まみれになった黒服たちが、たまらず後退していく。  俺たちの完全勝利だ。


「やった! 撃退したわ!」  未羽がガッツポーズをする。  アリスも「ふふん、私の財力を思い知ったかしら」と扇子を開く。


 だが。  俺の表情は晴れなかった。


「……いや、まだだ。奴らは諦めてない」


 モニターを見る。  一度退いた敵部隊が、遠巻きに再集結している。  そして、その中から現れた一台のワゴン車。  屋根には、パラボラアンテナのような装置が積まれている。


『マスター。強力なジャミング波(電波妨害)を検知。……通信、切断されます』


 プツン。  エヴァの声が途切れ、モニターの映像が砂嵐に変わった。  スマホも圏外。Wi-Fiもダウン。


「なっ……電波を切られた!?」  未羽が悲鳴を上げる。  俺の最大の武器であるネットワークが封じられた。  IoT家電も、ドローンも、もう操作できない。  ただのボロアパートに逆戻りだ。


「……本気ってわけか。なりふり構わず、物理で押し潰す気だ」


 俺は唇を噛んだ。  このままここにいれば、じり貧だ。  夜が明ける前に、突入されて終わりだろう。


 その時。  ベッドの方から、衣擦れの音がした。


「……んぅ……お兄ちゃん? なんかうるさいよぉ……?」


 結衣が目を覚ました。  眠い目をこすりながら、起き上がってくる。  俺たちは慌てて殺気立った顔を隠し、笑顔を作った。


「あ、ああ、ごめんな結衣ちゃん。ちょっと……ゲームで盛り上がっちゃって」 「ゲーム? ……あ、アリスちゃんと未羽ちゃんもいる。お泊り会?」


 結衣は状況を理解していない。  無垢な瞳。  この瞳を、恐怖で曇らせるわけにはいかない。


 俺は覚悟を決めた。


「……ここを出るぞ」 「え?」 「このままだと、近所迷惑になるからな。場所を変えて、決着をつける」


 俺はクローゼットから、埃を被ったバックパックを引っ張り出した。  中には、かつて俺が世界中を放浪していた頃の装備――サバイバルキットと、特殊な通信機材が入っている。


「アリス、未羽。結衣を連れて裏口から逃げろ。俺が囮になって正面から出る」 「はあ!? あんた死ぬ気!?」 「死なねぇよ。俺は『Unknown』だぞ? 逃げ足の速さは世界一だ」


 俺はUSBメモリを首から下げ、ジャージのチャックを上げた。


「それに……反撃の狼煙のろしを上げる場所は決めてある」


 俺は壁に貼ってあった東京の地図に、ダーツの矢を突き立てた。  そこは、敵の電波妨害が届かない場所であり、日本最高の通信設備がある場所。


「目指すは『東京スカイゲート・タワー』。……あそこの放送設備をジャックして、奴らの悪事を全世界にばら撒いてやる」


 ニートの籠城戦は終わった。  これより、反撃作戦カウンター・アタックを開始する。

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