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青い服の少女

深夜。


新しい高層ビルが並ぶかと思えば、古くからの雑居ビルも混在する再開発途中の違和感のある街並み。

その古くからの雑居ビルと雑居ビルの間には人一人が通れる通路とも呼べない路地があった。


その路地裏を青いワンピースを着たカレンが今にも倒れそうにふらふらと歩いている。


「はぁはぁ。」


立ち止まりうずくまるカレン。


「はぁはぁ。早く終わらないと。早く終わりにしないと。」


無表情の瞳に涙が流れている。


丁度、表通りを歩いていたお年寄りがカレンに気づき、近づいてきた。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


「寄るな!」

ほんの一瞬、カレンの瞳が黒目に変わる。


「ひぇ!」

お年寄りは恐怖に慌てて表通りまで引き返して行く。


「どうか、お願い、神さま。」



数時間後。

まだ夜は明けていない。


高層ビルの屋上に青い服を着た人影が見える。

その人影が屋上の縁から地面へと落ちていく。


人影が地面に衝突する直前、そのビルが爆発し直後切り刻まれる。

すさまじい土埃にあたりが包まれる。



翌日 朝。


こるねとうさが庭で洗濯物を干している。


「こうしてちゃんとパタパタしてシワを伸ばしてから干します。」

「パタパタ。」

「そうそう。」

「こうしないと乾いた時にしわになる?」

「そう。シワがない洗いたてを着たらみんな気持ちいいでしょ。」

「みんな気持ちいい。か。わかった。」


のあがドタバタと大きな足音を立てながら現れた。


「うさうさうさー!またクッキー焼いてくれたの?食べていい?」

「いいわよ。」

「やったー!」


こるねは走り去るのあの背中に声をかけた。

「俺のも残しといてくれよ!」



のどかがお勉強部屋で端末を操作し定期チェックしてる。


「ふふんふーん。ふふんとふーん。ん?ありゃ?」


端末を叩くのどか、次第に真剣な表情に変わっていく。

のどかが押し入れの襖を開け、一階に向かって叫んだ。


「ちよっと皆んなきてー!緊急事態!集合ぉ!」


庭で顔を見合わせるうさとこるね。

ベットで読書中のあいすが起き上がる。

クッキーを食べているのあ。

ニ階に上がっていくりり。


「どした?」


皆がお勉強部屋に上がって来る。


のどかが皆に説明をはじめた。

「黒目かどうかわかんないけど昨日の夜の数値がおかしいの。各自ログチェックお願い。」


各自、席につき端末を操作する。

こるねはりりの横の補助席に座ってる。

すぐに全員がログの異常に気付いた。


「これって空間あっちゃこっちゃ?」

「むむむ?」

「こんなの今まで見たことがない。」

「誰か素粒子の衝突実験でもしたのかしら。」

「ちょっと笑っちゃう位、異常logのオンパレードね。」


あいすが提案した。

「場所はそう遠くないよ。私、ちょっと行ってみる?」


「念の為全員で行きましょう。」

検出されたエネルギーのあまりの大きさをのどかは心配したようだ。



昨夜、人影が飛び降りたビルの現場。

爆発し切り刻まれたビルの残骸。


その壮絶な状況に六人がしばらく言葉を失っていた。


「爆発して。」

「切り刻まれた様な残骸。」

「これって。」


こるねが震えていた。

「あいつだ。あいつがきた。」


「北の街を破壊したやつ?」

「間違い無いと思う。この惨状は北の街で何度か見た。」

「詳しく聞かせて。」


こるねが深く頷き、話し出した。

「あいつは・・・。」



一通りこるねが話し終えた時、のどかの携帯のメール着信音が鳴った。


「博士から衛星で捉えたここの昨日の映像があるから送るって。一旦、帰ろうか。」



自宅。


テレビモニターにビルが破壊された直後の映像が映し出される。

ビル崩壊後、土煙が収まるとそこから青いワンピースを着たカレンが現れる。


のどか映像を見ながら驚いたように言った。

「え?この子?完全に人間だけど」

「普通の女の子だよ。この後に出てくるんじゃない?この青いワンピースいいなぁのあも欲しい。」


りりが身を乗り出した。

「この直前の動画はないの?」

「爆発音を感知してからの映像だからここからしかないみたい。」


「こいつだ。」

こるねが強くこぶしを握った。


「え?」


全員がまさかと思った。どちらかと言えば大人しく優しそうな、強そうなというより弱々しさすら感じさせる少女だった。


こるねの額に汗が浮かんでいる。

「俺が見た時は瞳が黒目だった。しかもとんでもない攻撃をする時は赤くなった。あたり構わず爆発させたり切り刻んだり、逃げるだけで精一杯だった。」


「この子が。」


それぞれが疑問を口にした。

「人間なのに黒目?瞳が変化するのか。」

「とんでもないエネルギーを意識してコントロールしているのかどうか?」

「限りなく人間に見える黒目ってだけなら話は早いけど。」

「黒目に見える人間。例えば私たちの様な能力を持った人間が黒目に見えるだけとか?」

「人間型の黒目はたまにいるけど、結局は姿が人間に似てるだけで見れば人間じゃないってわかるしね。」

「でもこの青い子は人にしか見えない。」

「どちらにしてももう少しログを精査しましょ。データをもっと集めないと。」



その日の夜。

のあが一人でコンビニへと向かっている。


「お夜食お夜食♪、みんなの活力♪」

「あー肉まんが食べたい!川向こうまで行けば売ってるしな。少し遠いけど行ってみるか。」



コンビニで買い物のレジを終えたのあ。


「ありがとうございましたぁー。」

「冷めないうちに急いで帰ろ〜。」


のあが通りかかった雑居ビルと雑居ビルの隙間の路地の奥の方に、うずくまって動かない人を見つける。


「えっ?人?」


のあは急いで狭い路地を奥まで入り込んでいく。


「あのー大丈夫ですか?」


「はぁはぁ。」

虚な表情でのあに目線を向けるカレン。


「よかったらこれ。」

のあがカレンにペットボトルの水と肉まん一個を差し出した。


「救急車とか呼びましょうか?」


「だ、大丈夫だから、慣れてるから。」

かれんは弱々しくもうっすらとほほ笑んだ。


「そう、ですか。」


それ以上話もできず、のあはその少女を気にしつつもその場を立ち去った。



のあが自宅へと戻ると、ダイニングではりりとこるねが映像を確認していた。


「ただいまー。はい、みんなのお夜食と飲み物。」

「さんきゅー。」

「あれ?のあの分は?」

「あ、あの、歩きながら食べちゃった!」

「さすが食いしんぼう。」


テレビモニターに繰り返しさっきの爆発現場から現れる青いワンピースの少女の動画が映し出されている。


のあの頭の中で先ほどの路地裏の女の子と映像の女の子が重なる。

「え!」


りりがびっくりしてのあに言った

「どした?」


「なんでもない!なんでもない。」


「?」

りりは首をかしげながら再び映像に見入った。


 (さっきのあの子、間違いない黒目の子だ。どうしよう言ったほうがいいかな?でも具合悪そうだったし。)

のあが一人で考えに沈んでいると二階のお勉強部屋でログを精査していたうさ、のどか、あいすが降りてきた。


ダイニングに全員が揃っている。


まず、りりが話し出した。

「んー。のどかの壁が破られないか?あいすの速さが通用するか。こればっかりはやってみないとわからないわね。」


のどかが言う。

「データに出た数字が奴の最大値かどうかもわからないし。」


「あの、もしかして、あの、青い子はそんなに悪い子じゃないんじゃないかな。」

のあが落ち着かない様子で珍しく遠慮がちに言った。


のどかがタブレット端末でデータを確認しながら言う。

「確かに黒目の時とそうじゃない時の違いがわからないけど。」


りりがのあを見つめながら言った。

「黒目じゃなくとも目が赤くならなくともいきなり攻撃が飛んでくると思っとかないと死ぬよ、のあ。」


「あの、こるねみたいに話したらいい奴だったって事も。あの。」

のあが伏目がちに言いよどんだ。


「のあ!!」

りりの声が大きくなる。


「違うの。例え黒目になったとしてもあの子は人だよ。助けなきゃ行けない人間だよ!」

のあはうつむいたまま、しかししっかりとした声で答えた。


しばらくの間、皆の無言が続いた。


のどかが口を開いた。

「例え助けなきゃ行けない人間だとしても。」


りりが続けた。

「助け方がわからない。わからない間に何人死ぬかわからない。」


「あ、でも、なんとかならないかな。」

のあがつぶやいた。


「のあ、北の街で少なくとも数百人以上はあいつのせいで死んでるはずだ。」

こるねが断言した。


「あ。」

のあは忘れていた事実に言葉を失った。


「こるねの話だとあいつの攻撃は見えない。話しかけようとしたその一瞬で皆死んでも不思議じゃないの。」

うさがのあを諭すように言った。


「・・・うん。ごめん。ごめん。」

のあは何も言えなかった。


のあの脳裏に「大丈夫、慣れてるから」と言ったらカレンの顔が浮かんだ

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