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少女は少女たちと共に

四人が何やら相談しながら二杯目のお茶を飲み終えた頃、博士とこるねが散歩から帰って来た。


と同時にのあが山盛りのサンドイッチをテーブルに上に並べた始めた。


「はーいできたよー、お待たせお待たせ!博士もこるねも早く席に着いて!」


「どれどれ料理の腕前は進歩したかいの。」


「はい召しあがれ。」

のあがふざけてお嬢様風に博士の前にサンドイッチを差し出した。


りりがパンをめくって中身を確認する。

「サンドイッチの中味は、レタス、トマト、ハム、ピーマン。おっ、まぁ、のあにしたらまともじゃん。」


「今日は博士もこるねもいるから頑張った!」


「美味しい美味しい!」

「美味しいね?ん?」

「ちょっと待って。」


あいす、のどか、うさが褒めたが三人とも一斉に顔をしかめだした。


「これ、辛っ!!」

「からーい!なに入れたの!」

「これピーマンじゃなくて青唐辛子入ってる。」

うさがサンドイッチの中身から刻まれた青唐辛子を見つけた。


のあは全く気にする様子もない。

「冷蔵庫にあったから。」

「だめだよー。キムチつけるのに買っといた辛いやつだよ。」

「でも美味しいよ。」

「もう!悪気のない笑顔やめて~。のあは辛いの平気だから。皆はそうじゃないの!」

うさがいつもの事となかばあきらめながらのあに抗議した。


「あ、博士食べてない。」

あいすがサンドイッチに手をつけてない博士に気づいた。


「ほっほっ。そんなことだろうと思ってな。唐辛子をどけて食べれば。むぐむぐ、うん、んまい。料理上手になったの、のあ。」

「でしょ!のあちゃん成長!」


「ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!」

その時、二階のお勉強部屋から警報が鳴り響いた。


「ピー!ピー!ピー!」

と同時に博士の着けているベルトからもアラーム音が鳴り出した。


博士はのんびりと立ち上がった。

「来たかいの。」


皆は急いでお勉強部屋へ駆け上がると、それぞれの端末を操作しだした。

博士とこるねは部屋の入り口近くに立ち、博士は真剣に、こるねは不思議そうに、スクリーンに流れて行く数字や幾何学模様を見つめていた。


先ほどとは全く違う真剣な表情でそれぞれが報告する。

「重なってる、ほぼピッタリ。」

「近くはないけど遠くもないわね。」

「スピン、方曲線も一致。こないだの黒目だ。」

「やっぱりきちゃうか。」


りりが振り返り声をかける。

「博士!」


りりの声を受けて博士は力強くこるねに話しかける。

「ん。こるね頼むぞ。」


こるねは自信なさげに答えた。

「お、おう。」



都市部から離れた風情ある田舎景色。

その田んぼの中を半透明な少年の姿をした黒目がゆっくり歩いている。

その黒目を少し高くなった舗装されていないあぜ道から皆は見下ろしていた。


「いやー、のどかでいいねえ。」

「空気が綺麗だ。」

「すべての攻撃を跳ね返す少年の姿をした黒目ですって。」

「はぁ。りりとうさの二人がかりで無理だったんだから、私らにはお手上げですね~。」


あいすとのどかが田舎の空気を味わいながら、まるで他人事の様に話をしている。


「余裕だな。」

対照的にこるねは黒目の少年を前にし緊張している様子だ。


りりはすでに能力で生み出した槍を握りしめている。

「やっぱりあいつの周りの空間が消失してるな。」


「農家さんが育てた日本のお米が!」

のあは本気で憤慨しているのか目を吊り上げて怒っている。



「目的があるんでしょうか?」

「目的なんてないじゃろ、黒目からはこの世界がどう見えてるかも想像がつかんよ。」

うさと博士が言うと、続けてりりがこるね言った。

「とりあえず住宅地に近づく前に仕留めないと。こるね頼むよ。」

「うん。ふぅー。」


深呼吸し右手の手のひらの上に光の玉を三個出すこるね。


「三つを一つの大きな玉にして。確実にあいつに当たるように投げる。」


こるねは野球のボールを投げるように右手の光弾を黒目の少年めがけて投げつけた。


「ドーン!」


光弾は黒目の少年から外れて田んぼに落ちて爆発する。


「ご、ごめん。」

「焦らなくて大丈夫。」

「もう一回。」


再び三つの光弾を一つにし黒目を狙うがまた外れる。


「あ。」

「こるねゆっくり集中して。」

「頑張って!」

「集中はしてるんだけど、くそっ。」



こるねはもう一度集中しながら目を瞑った。

今朝の博士との散歩での会話を思い出していた。


博士とこるねが自宅近所の土手を歩いている。

博士が話しを切り出した。


「実はのぉ、この間この街でも厄介な黒目が出た。」

「どんなやつ?」

「すべての攻撃を跳ね返す奴じゃ。」

「どんな攻撃も?」

「どんな攻撃もじゃ。」

「まじかよ無敵じゃねぇか。」

「しかもそ奴が歩いたところは周囲の空間が消失する。」

「ってことはほっといたらいずれ街がなくなる?」

「そうじゃの。」

「逃げるしかない?」

「そうかもしれんが逃げるわけにはいかん。黒目の動き次第では何人死者がでるかわからんし。なにより皆が逃げるわけなかろう。」

「勝つ方法はないのか?」

「なかった。」

「なかった?」

「が、お主が現れて話が変わった。」

「?」

「お主の力で勝てるかもしれん。」

「俺の力?北の街からも逃げてきたのに。」

「お主が現れなかったら勝算のある作戦すら立てれなかった。だが今はお主がいる。お主の力と…。」

「俺の力と…。」



こるねは目を開くと一歩前に踏み出し、黒目の少年をにらむように見つめた。


「絶対に次で当てる。ふぅ。」


全員が祈る。


再びこるねは手のひらに作り出した光弾を黒目めがけて投げる。

がまた外れる。


「なんで。」

顔を覆うこるね。


博士が白衣のポケットからゴーグル型の機械を取り出すと何やら調整を始めた。

皆が無言で見守る中、博士はこるねにそれを渡した。


「これをつけてやってみ。」

「ゴーグル?わかった。」

「次は当たる。心配せんと最大の力を込めるんじゃ。」

「わ、わかった。」


「次は当たる。疑うな。」

りりが力強く断言した。


頷くこるね。


こるねが力を込め光弾をつくり黒目に向かって投げる。


今までになく力強く光弾が黒目に向かって飛んでいく。


「当たる!」

全員が確信したその時、りりが動いた。


「よし!行くぞ!」


光弾が黒目に向かって飛んでいく一瞬、突然、りりがその光弾に向かって槍を構え突っ込んで行った。


「うりゃ!」


りりの槍が光弾を突き刺す。


その瞬間、爆発のような落雷が起こり、辺りはすべてが破壊されたかのような強烈な光と音に包まれた。


光と音が収まり、全員の目が再びうすぼんやりと視覚を取り戻すと少しづつ黒目の姿が見えて来た。


少年の姿をした黒目は、所々、剥ぎ取られた様に欠けていた。

そして欠けた部分が徐々に広がっていき、やがて全てが蒸発して黒目の存在が消えた。


「消えた?」

こるねがびっくりしたように呟いた。


そのこるねの言葉をきっかけにしたように全員が飛び跳ねた。

「やった!」

「やっつけたぁ!!」

「やったねこるね!」

「ナイスこるね!ナイスりり!」


りりがこるねに抱きついて喜んだ。

「こるね!」


こるねは抱きつかれるまま、まだ状況が理解できないでいた。

「なにが起こった?」


りりがこるねを抱きしめたまま答えた。

「物質と反物質の対消滅。」

「対消滅?」


博士が嬉しそうにこるねに説明をはじめた。

「知っとるか、カミナリつまり落雷は反物質を生成するんじゃ、反物質はできた瞬間、近くにある物質とペアになって消滅する。お主の電気の玉にりりの槍で電気をつまりカミナリを増大させ、発生した反物質は近くの黒目を構成していた物質と対消滅した。つまり黒目も消滅したというわけじゃ。」


続けてのどかがまたもや出番とばかりに早口にまくしたてた。

「説明しよう!落雷からショートバーストガンマ線が放出され窒素同位体13Nが生成、その窒素同位体13Nがベータプラス崩壊をおこしその結果反物質が生成され対消滅か起こるのだ!わかるかなぁ?」

「わかりません!」

こるねとのあが同時に答える。


ゴーグルをはずしながらこるねはやっと息をついた。

「ふぅ。博士、このゴーグルのおかげでちゃんと光の玉をコントロールできた。」

「はて、そのゴーグルにそんな機能はついてないぞ?」

「え?だって。」

「こるね、お主、左右の目の視力がだいぶ違うじゃろ、左目だけ視力が悪いようじゃ。」

「え?気づかなかったけどそうなのかな?」

「そのゴーグルは左目だけ近視用に調整しただけじゃ。明日にでも眼科に行ってみなさい。」

「う、うん。」


すかさずあいすがこるねの肩を叩いた。

「私も一緒に行くよ。病院とか苦手でしょ?」

「あ、ありがとう。」


皆に囲まれたこるねを見ながら博士は一人思った。

(こういうのは身近にいる家族や友人が気付くものじゃが本当に1人で生きてきたんじゃのこの子は。)



数日後。


あいすとこるねが眼科から帰って来る。


「ただいまー。」


「おかえり!どうだったこるね?」

うさをはじめ全員が玄関まで出迎えている。


「ん、博士の言うとおり左目だけ視力が悪いって。生まれつきじゃないかって言われて、コンタクト作ってもらってきた。」


のあがこるねの顔を覗き込みながら言った。

「え?カラコンカラコン?」


「違うよ。普通のだよ。」


靴を共同の下駄箱にしまいながらあいすがこるねをからかった。

「ちゃんとコンタクトできるように慣れないとね。」

「入れるの怖いんだよコンタクト。」


りりが控え目な声でささやいた。

「あいす、例のやつ準備できたから。」

「おぉ!言っちゃう?」

「言っちゃお言っちゃお。」

あいすとのあをはじめ、こるね以外の全員がは何やら嬉しそうにはしゃぎだした。


「えーではこるねさん、こちらへどうぞ!」


りりがおもむろに二階への階段下にある一つのドアを開けこるねを招き入れた。

その小さなドアはいかにも一畳程度の物置部屋の入り口としか思えなかった。


こるねがその部屋に入ると予想外に、地下へ降る階段が現れた。


「え?何?地下室?」

「うんまぁ倉庫だったんだけど。」

こるねの後ろからあいすが答えた。


りりが先頭で地下室に踏み入れると待ちきれずにこるねをせかした。

「はい、こるね入って!」

「倉庫?」


地下室に足を踏み入れるこるね。


「あ。」


倉庫だったといわれた地下室は、広さ6畳程度、明るいオレンジのカーペットが敷き詰められ、きれいなベットに本棚、タンスまでピカピカに揃えられた明るい空間が出来上がっていた。


茫然としているこるねにあいすが愛嬌たっぷりに言った。

「はーい。ここに誰の部屋でもない部屋ができてまーす。ってことは~?」


全員が声をそろえた。

「ここはこれからこるねの部屋でーす!」


「俺の部屋?」


信じられないという表情のこるねにそれぞれが声をかける。

「そうだよ。」

「うちらもう仲間じゃん。」

「家族だよ。」

「よろしくね。」

「またのあにお姉ちゃんが増えたの!でものあの方がここでは先輩なのです!ね、こるね!」

「あ、俺、毎日ここで寝ていいのか?毎日ここに帰ってきてもいいのか?」

「もちろん!」


「これからはお料理当番もやってもらうからね。」

「やる。教えてねうさ。」

「二階でのお勉強も覚えてもらうからね。」

「覚える。のどか教えてくれ。」

「寂しくなったらあいすのベットで一緒に寝てもいいからね。」

「うん。」

「戦う時はいつも一緒だ。」

「うん。」

「のあちゃんバズーカが守ってあげるから頼りなさい。」

「頼むぜのあ。」


「こるね泣すぎ。あはは。」


こるねは笑いながら涙をあふれさせていた。


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