少女たちの救助活動
ある日の夕方。
公園のブランコにこるねが一人で揺られていた。
野球帽をかぶり汚れたままのシャツとズボンは遊び疲れた少年の様にも見えた。
夕焼け空の下、彼女は感情のない声で歌を口ずさんでいる。
「海は広いな大きいな月は登るし日は沈む。海にお船を浮かべたらきっと沈むし溺れるな。」
歌い終えると、こるねはブランコから降り、ゆっくりと歩き出した。
その少し先で、街のビル、六階あたりが突然、大きな音と共に爆発した。
こるねは、一瞬だけ足を止め、爆発した方向へ流し目を送ったが、すぐに何事もなかったかのように歩き出し、再び同じ歌を歌い始めた。
「海は広いな大きいな月は登るし日は沈む。」
騒然としたビルの爆発現場。
ビルの1階外には何人もの怪我人が寝かされていた。
その間をりり、あいす、うさ、のあ、のどかの5人が忙しく動き回っていた。
のどかは、怪我を負った人々を次々と能力で回復させている。
彼女の周囲では、のあが慌てた様子でタオルや水などを手渡しできる限りの看病をしていた。
「のどか、どう?」
りりが心配そうに声をかけた。
「重症者が多過ぎて。」
のどかの表情は疲労の色を隠せない。
「もうすぐ救急車もくるから、なんとか命だけは繋いで」
りりは励ますように言った。
「うん。」
のどかは頷き、治療を続けた。
のあは、別の怪我人のそばにしゃがみ込み、懸命に声をかけていた。
「大丈夫だからね、痛いの痛いのとんでけー!折れてるダケだから大丈夫だから。」
あいすが爆発現場のビルの六階から一階の外へと、瞬間移動してきた。
「倒れた壁の下敷きになってる人がいるの、うさ来て!」
あいすは緊迫した声で言った。
「うん。」
うさは迷うことなくあいすの手を掴んだ。
瞬間、二人の姿は六階の爆発現場へ移動した。
その時、ビルの上階から剥がれ落ちてきた外壁が一階へ落ちてくる。
「きゃー。」
のあは悲鳴を上げ、咄嗟に近くにいた怪我人を自分の体で庇おうとした。
「危ない!」
りりは即座に反応し、具現化させた槍で落下してきた残骸を打ち払った。
「りりちゃーん!」
のあがうるうるしている。
ビルの六階、爆発の中心部。
うさは、倒れて下敷きになっている人を覆っていた壁の残骸をまるで軽い荷物のように持ち上げ、勢いよく投げ飛ばした。
「よっこらどーん。」
あいすは、壁の下敷きになっていた子供を抱き上げ一階へと瞬間移動した。
「のどかお願い!」
あいすから子供を受け取ったのどかは、すぐにその場に寝かせると回復能力を発動させた。
子供の顔色を見つめ続けながら集中している。
「後は誰もいないと思う、念のためうさが探してるけど。」
あいすは周囲を見回しながら言った。
「うん。」
りりが頷いた。
けたたましいサイレンの音と共に、何台もの救急車が現場に到着した。
のどかは、回復させた子供を救急隊員に引き渡した。
「あとはお願いします。」
そう言った瞬間、のどかの体はぐらりと傾き、そのまま意識を失うように倒れた。
咄嗟にりりが駆け寄り、倒れるのどかの体を受け止めた。
「のどか!」
「のどかちゃん。」
のあも心配そうに駆け寄った。
夜。自宅の寝室。
ベッドの中でのどかは静かに眠っている。
その枕元には、のあが椅子に座り、心配そうな表情で眠るのどかを見守っていた。
「そりゃ頑張り過ぎちゃうよね。のどかにしか助けられないんだもん。」
「私にもなにか能力があればよかったのに。役に立たなくてごめんね。」
のあの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。