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4 アリアの事情

 露店での食事を堪能し、ひとまず身体を休める為に宿へ向かうことになった。因みに宿代もアリアが支払ってくれる。早く自分で稼げるようになってお礼しなくちゃな。初収入どころか給料3ヶ月分はお礼に回さないと割に合わないかな。なんか“給料3ヶ月分”って結婚指輪の宣伝文句を思い出すな。つまり贈るのは指輪…?いや、戦闘の邪魔になってもいけないから止めておこう。あ、でもバフ付きの指輪だったら大丈夫か…?給料3ヶ月分で足りるかは分からないけど。




 真剣に考えて歩いていたせいで不注意になっていた俺は足元にある木箱に気付かず、それに足をとられる。アリアは俺の前を歩いてるので転びそうになる俺に気付かず、そのまま地面に激突_____





 はしなかった。ぐいっと後ろから誰かが俺の腕を引いて支えてくれた。どうにか体勢を立て直し、助けてくれた人にお礼を言おうと振り向く。




「ありがとう、助かった」

「怪我がなくて良かったよ。この辺りは露天商の荷物もあって物が多いから、気をつけて」




 爽やかに答えた青年。革製の装備に身を包み、腰には片手剣。清涼飲料水のCMに抜擢される事間違いなしの元気かつ爽やかで整った顔立ち。相当に身体は鍛え上げている様で、装備の隙間から筋肉質な身体がチラチラと見える。だがゴツいという印象はなく、細マッチョなスポーツ好青年、って感じだ。

 アリアも美人だし異世界って顔面偏差値高いな。見劣りしないよう俺も努力しなければ…。まずはお金がなくてもできる筋トレからだな。




「コーヘイ、どうかした……か………」




 俺がついて来てない事に気が付いたアリアが小走りで戻って来た___と思ったら好青年を見て目を見開く。好青年もアリアを視認すると同じ様に驚く。そして2人とも気まずそうに目を逸らす。




「あーー…、てっきりもう町を出たと思ってたんだけど……まだ、だったんだな、アリア」

「…………出るつもりではあったんだがな。色々あってコイツを保護して戻って来た」

「そっか……」



 どうやらアリアと好青年は知り合いらしい。まぁアリアは衛兵とも顔見知りだったし、この町にそれなりの期間滞在しているか、あるいはこの町出身かもしれない。どっちにしても町中に知り合いの一人や二人いてもおかしくない。何か気まずそうな雰囲気だからあまり仲は良くないのかもしれないけど。




 …………。沈黙が流れる。2人は気まずそうなまま固まってしまった。言葉を探すように好青年が視線を彷徨わせる。よし、ここは俺が明るく助け舟を出すべきだな。




「お兄さん、アリアの知り合いだったんだな。俺はコーヘイ!町の外で魔物と戦っていた所をアリアが助太刀してくれたんだ」

「そっか。オレはリード、よろしく。

 それにしても町の外にはそんな危険な魔物は居なかったはずだけど……もしかして危険な魔物が棲みついたのか?ならギルドに報告しなければ……」

「いや、そいつの言う魔物はスライムの事だから報告の必要はない」

「え?」



 アリアの言葉の確認をとる様に好青年改めリードは俺を見る。事実なので俺は自信を持って深く頷いた。リードは「ええ……」と脱力していた。



「安心してくれ、スライムはもう倒せるようになった」

「いや、そんな自慢げに言う事ではないだろう。日が暮れるまで戦い続けてようやく、だろ。しかもまだ確実に一撃で倒せない」

「確実に成長しているだろ?明日にはもっと楽勝にスライムを倒せるようになってるはずだ。なんなら次の魔物にも挑戦できるかもな」

「例え次のランクの魔物を倒せる様になったとしても、それでもまだ子供以下だ。ついでに言えばお前はまだ次のランクの魔物に挑戦出来るレベルでは無い。スライムの急所くらい確実に狙える様になってから言え」




「アリア……そこまでにしておこう」



 俺とアリアが話していると、リードがアリアを嗜める様に言う。強い口調ではないものの、その語気は強く、視線も厳しい。さっきの気の良い好青年感が三割くらい失われている。

 アリアはアリアでリードの言葉に肩を揺らす。「やってしまった」とでも言う様な顔をした後、静かに目を伏せて「すまない…」とこれまた彼女らしくない覇気のない声で謝る。何故か俺に向かって。え、本当なんで?俺謝られるような事されたっけ??アリアには優しくされた記憶しかない。



「すまない。アリアが色々言ってしまって。彼女に悪気はないんだ?

「??いや、謝られるような事されてないけど。何の話??」

「え、いや……君の事を“子供以下だ”とか言っただろう?それで気を悪くしたんじゃないかと…」

「全くしてないが」



 俺の言葉にリードは目を見開いたが、直ぐに「そうか…」と優しい笑みを浮かべる。



「良い相手に巡り会えたみたいだね、アリア」



 どこかホッとした様子で、リードはアリアに向かって満面の笑みを見せる。アリアは少し気恥ずかしそうにしている。そんなアリアを見てリードはまた笑った。先程までの気まずさはどこへやら。まぁ仲がいいのはいい事だ。やっぱ仲良しが一番だよな。


 

 その後、リードは「オレは邪魔になりそうだからここで失礼するよ」と立ち去った。立ち去る前に近くの安くて綺麗な宿の情報も教えてくれた。流石アリアの友達(?)、優しい。


  ・・・・・・


 リードに教えて貰った宿は言葉通り安くて綺麗な宿だった。こじんまりとしていて、大通りからのアクセスはあまり良くないとはいえ、アリア曰く宿の平均的な代金が60~80Gになのに対して、この宿はその半額、30Gである。その上木造の建物はどこもかしこも綺麗に磨かれていて、落ち着く木の香りに包まれている。

 部屋もワンルーム程の広さで、テーブルと椅子、ベット、クローゼットが備え付けられている。ベットは少し固いが、眠れない程ではなく全然気にならない。風呂の類は無いものの、その代わりに宿の隣に石風呂…というかサウナがあり、宿泊客は無料で入れる。加えて朝食付き。なんだこの激安宿。立地の悪さを補って余りある高待遇。ここを教えてくれたリードには感謝しかない。深々と1人部屋の中でここにいないリードに感謝の念を込めて頭を下げる。


 さて、何をしようか。スライム狩りで疲れているし、休みたい気持ちもあるが折角の異世界最初の夜、最初の宿。もっと楽しみたい気持ちもある。

 取り敢えずサウナにでも行ってみるか、と考えていると、コンコンと扉がノックされる。「どうぞー」と応えればアリアが入って来た。



「アリア、どうかしたか?」

「……お前に、話しておきたい事がある。リードと私についてだ。



 私とリードは元々パーティーを組んでいた__と言うか、昨日まで同じパーティーだった」




 そう切り出して、アリアはぽつりぽつりと自分の事を話し始めた。




 アリアは王国騎士を目指していて、王都に向かいつつ冒険者として己を鍛えていた。道中、それぞれの理由で同じく王都を目指す4人と出会い、彼らとアリアで5人組のパーティーを組んだ。そのパーティーリーダーを務めていたのがリードだったらしい。


 メンバーのジョブはタンクのアリア、剣士のリード、それと攻撃型の魔法使い、サポートが得意な僧侶、敵を撹乱し、罠を見抜くアサシン。バランスは良く、戦闘においてもチームワークとリードの魔法使いの攻撃力で次々と敵を薙ぎ払っていった。パーティーの戦闘能力という点では群を抜いていた。



 だが、それ以外に大きな問題があった。



 アリアは直情的な性格で、お世辞は苦手で思った事を直ぐに口に出してしまいがちらしい。加えて本人はそんなつもりは無くとも、言い方と凛とした顔立ち__悪く言えば鋭い目付きのせいで、言葉にした事が〝自分を見下した発言〟と相手に捉えられやすい。また、口下手というか言葉な足らずな所も勘違いに大きく拍車をかけた。その悪癖が影響してパーティーの空気を悪くしてしまう事が多くあった。

 それだけならまだしも、他の冒険者達や町の人とのトラブルに発展する事も度々あった。その度にリード達が間になってその場を収めて来たが………それも限界がきたらしく、昨日、アリアはリードからパーティーを抜けて欲しいと懇願された。



「リードや他の奴らは悪くない。そう懇願されるのも当たり前な程私は彼らに迷惑をかけてきた。パーティーを抜けて欲しいと頼まれた時も、皆心底申し訳なさそうにしていたし、私が承諾するとお詫びとしてその時パーティーが持っていたポーションやらの消費アイテムや、パーティーで管理していた共用財産の半分を分けてくれた。次の町までの限定パーティーを探そうか、とまで提案してくれた。



 本当に、良い奴らなんだ」



 アリアの話を一通り聞いて、俺は納得する。さっきリードがキツくアリアを嗜めたのはああいった言葉のせいでトラブルになった事があったんだろう。アリアが落ち込んだのも自分がまるで成長していないと思ったからかもしれない。

 リードが良い奴なのは、俺がアリアの言葉を気にしていないと言った時の顔を見てもよく分かる。多分パーティー間の不和とか、他の冒険者との関係の悪化とか、色々考えて、パーティーリーダーとしてアリアが居ない方がいいと判断したんだろう。




「私の悪癖はパーティーをクビになったても直る事は無かった。お前にも色々と失礼な事を言ったと思う。……改めて、すまなかった」

「別にいいって!全く気にしてないし。



 それに、アリアのそれは悪い面ばっかじゃないだろ?素直って事は褒め言葉は心からの称賛って事になるからとても嬉しいし。悪い所教えて貰うのも改善する良いきっかけになるしな」




「要は考え方次第!」と言えばアリアはポカン、と口を開けた後、そのまま大口て笑い出した。



「ハハハッ!お前という奴は…そんな風に考えられるなんて本当にお気楽な奴だ!






 ___あぁそうだな。お前の様に考えるなら、パーティーをクビになったお陰で町から離れようと外に出て、お前みたいな面白い奴に出会った。そう思うとクビになったのも悪くはなかったのかもな」

「そうそう!いい方向に考えた方が楽しいだろ?」

「そうだな。





 ____コーヘイ、ありがとう」





 そう言ったアリアの笑顔は実に晴れ晴れといて_____美しかった。



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