3 町へ行こう
日が暮れるまでスライムを倒し続けたかいあって、ステータスを確認するとHPもMPも2ずつ上昇していた。確実に成長している…!こうして成長が数値化されているとモチベが上がるな。
「アリア!ステータスが2も上がっていた!これも指導をしてくれた君のお陰だ、ありがとう!」
「2上がっただけでよくそこまで喜べるな。大体まともにスライムを倒せるようになるまでに時間がかかり過ぎだ。日が暮れるまで戦ってようやく、ではないか」
「一歩一歩前進しているだろ?よし、もうひと頑張りするか」
ナイフを構えたところで「待て」とアリアに制止される。
「今日はもう遅い。この近くに町があるからそこで休むぞ。続きは明日だ」
「野宿はしないのか?」
「私一人ならそうしたがな。いくらこの辺りには弱い魔物しか生息していないとはいえ、旅慣れていない、しかも異世界から来たというお前には野宿は厳しいだろう。弱いしな。
町まで案内するからついて来い。私から離れるなよ」
「了解!」と元気よく返事をしてアリアの少し後ろをついて歩く。アリアによると町まで少し歩くようなので、折角だから気になっていた事を聞いてみよう。
「なぁ、さっきも言っていたが、この辺りには弱い魔物しかいないんだよな?でも俺、ここに来た時ドラゴンが空を飛んでいるのを見たんだが…アレはこの辺りの魔物じゃないってことか?」
「いや、この辺りに棲むドラゴンだろう。草原を抜けた先はドラゴンの巣がある山岳地帯に近いからな」
「?弱い魔物しかいないんだろう?ドラゴンは弱い魔物なのか?」
「勿論、上級クラスの魔物だ。しかし、ドラゴンは基本的に温厚な魔物であり、こちらから手を出さない限り襲ってくる事は無い。まぁ中には好戦的なものも居るが…大抵の場合、そういうドラゴンは自分と同等以上の者の相手しかしない。加えて言えば、ドラゴンが警戒するのもそういった実力者だ。実力の高い冒険者は兎も角、一般市民がドラゴンに襲われる事など殆ど無い。故に、安全なのだ」
加えて、アリアが言うには、中級以上の魔物はドラゴンに警戒されやすい。だから中級以上の魔物達はドラゴンを避ける為、ドラゴンの巣に近い場所に生息しなくなる。逆にスライムなどといった低級の魔物はドラゴンにとって小石同然なのでドラゴンに襲われるどころか警戒される事もないので、ドラゴンの巣の近くだろうと____むしろ外敵が少ないので好んでその辺りに生息するようになる。そしてドラゴン以外は低級の魔物しか生息しない地域となり、人が住みやすい場所ともなる。ドラゴンは基本温和だし低級の魔物はそこまで脅威じゃないから。
そういう訳でドラゴンの巣の近くには村や町がある事が多く、旅人の間ではドラゴンの巣が一種の目印となっているらしい。あと、ドラゴンを守り神として信仰している村も多いとのこと。ドラゴンはこの世界では単なる魔物ではなくて神聖なものでもあるのかもな。うん、強くなってドラゴン討伐に挑戦しようと思っていたが止めておこう。人が信仰しているものに手を出すのは良くない。
「なるほどなー。俺のいた世界ではドラゴンって強力な敵の魔物ってイメージだけど、この世界では人間と共存しているんだな」
「あぁ、そういえばお前は異世界人だと言っていたか。だからそんなにも無知なんだな」
「これから色々知っていくから良いんだよ。新しい知識が増えるのは楽しいし、ワクワクする。アリアさえ良ければもっとこの世界について教えてくれないか?」
「良いだろう。知識を身に付けるのは自分の身を守る事にも役立つしな。
__とはいえ、続きは後で、だ」
そう言ってアリアが前を見ろと促す。いつの間にか町に着いていたようで、衛兵が立つ門の前まで来ていた。槍を持ったイカつい衛兵が俺を品定めする様に鋭い目を向ける。
衛兵は俺を一瞥した後、アリアへ顔を向ける。
「…お前は冒険者のアリア・シュザインだな。この町を出るのでは無かったのか?トラブルでもあって戻ってきたか?」
「まぁトラブルと言えばトラブルだな。偶々……一般人を保護したので連れて帰ってきた」
アリアは衛兵とは顔見知りだったらしい。まぁ冒険者なら町を出入りする事も多いだろうからある程度親しくても不思議じゃないか。
「コーヘイだ。スライムに襲われていた所をアリアに助けられた」
「スライムに??」
衛兵がマジで?という様な顔でアリアを見る。「その気持ち分かるぞ…!」と言ってアリアは頷いた。ふーむ…やはりアリアの言う通り、スライムは一般人にとっても脅威とはなりえない魔物らしいな。まぁ俺ももうスライムなら倒せるようになったけど。一日でそこまで成長できるってやっぱ俺って伸び代の塊だな。勿論、アリアの指導のお陰だけど。
「そんな訳で、怪しい風貌の奴だが決して町の脅威にはならない事は保証する」
「うむ…強そうにも見えないしな。お前がそう言うなら良いだろう」
「通れ」と衛兵の許可を得た俺は意気揚々と町へ足を踏み入れた。異世界の町…!
中々に栄えている様で、町中には露店がいくつも並んでいて、ついつい目を奪われる。あ、なんかめちゃくちゃいい匂いがする。そういえばここに来てから何も食ってなかったな。自覚すると途端に空腹が襲ってきた。グゥと俺の腹が鳴ったのをアリアは聞き逃さなかった。
「まずは夕食にするか。何が食いたい?」
「俺、無一文だけど」
「夕食くらい奢る。あまりに高いのは無理だがな」
「本当か!?」
ご飯まで奢ってくれるなんてアリアの優しさは留まることを知らない。この町で、冒険者のクエストでもバイトでもなんでもいいから金が稼げるようになったら絶対に初収入はアリアに使おう。
「折角なら露店の物が食べたい」
「分かった。食べ物系の露店はこっちだ」
いい匂いがする方へアリアが歩き出す。素直にその後ろを付いて行くと直ぐに串焼きやら煮込み料理やら美味しそうなものが立ち並ぶ通りへと辿り着いた。うーん、どれも美味しそう。物色しながら通りを進む。「気になったものがあれば言え」とだけ言ってアリアはアリアで自分が食べたい物を買い始める。お、アリアが買ったあのケバブみたいなの美味しそうだな。
「すいません、それもう一つ下さい」
「あいよ!」
露店のおっちゃんは元気よく応えて手早く品物を用意してくれる。薄く焼かれた生地に分厚い肉と野菜がたっぷり入っており、その上には赤色のソースがかかっている。香辛料の香りがするので辛い食べ物なのかもしれない。辛いものは苦手では無いので特に気にせずかぶりつく。
「辛っ!」
思ったよりも強い刺激に思わず涙が出る。辛い、けど美味い。肉はジューシーで油がたっぷり、元の世界で言う豚バラブロックに近い。単品では重そうなその肉をたっぷり入った野菜が爽やかに包み込んでくれる。加えてこの辛いソースが更に食欲をそそる。
辛さに悶絶しながらも、止まらない美味さ故にあっという間に食べ終わる。口の中がヒリヒリする。けど本当に美味かった。元の世界で見た異世界モノの作品だと異世界の飯がマズイ、みたいな設定を度々見かけたが、どうやらこの世界の飯は美味いらしい。この町が特別な可能性もあるけどな。
「いやー、辛いけど美味かった」
「あぁ、あの店は私も気に入っている。因みにだが、あの店は辛さの調整出来るぞ」
「そうなのか?特に辛さについては聞かれなかったが…」
「私と同じものを頼んだからだろう」
という事はアリアはあの辛さがイケるって事が。辛党なんだな。
その後、口の中の辛味を落ち着かせる為俺ははちみつ揚げパンの様な食べ物を、辛党なアリアは甘みで辛味を紛らわす必要が無いので普通に串焼きを選択した。
俺は更に追加でシチューみたいな煮込み料理を食べて夕食を終わりにしたが、アリアはまだまだ食べ続けていた。他人の金で食べているという意識があったから控えめにしたとはいえ、健全な男子大学生__しかもスライムとの長時間戦闘の後__よりも大量の料理を余裕で食べるなんてアリアは大食漢らしい。うん、いっぱい食べる女性も健康的で良いよね。