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1 伸び代しかないステータス

 俺は伊月康平。ごく普通の大学生だったが、バイト帰りに車に轢かれ、異世界に転生したらしい。何を言ってるんだって話だけど、実際に俺の上空でドラゴンが飛んでいるのだから、少なくともここが現実世界ではない事は確かだ。因みに頬をつねったら痛かったので夢でもないと思う。




 さて、まぁ異世界だろうがなんだろうが来てしまったものは仕方ない。切り替えていこ。とりあえずステータスの確認かな。どうやるんだろ。


 一先ずステータスと念じながら胸の前で指を振ってみた。すると目の前にウィンドウのようなものが現れる。OK、これがステータスね。こういう異世界転生ってチート能力あったりするけどどうなんだろ。



 ワクワクしながらステータスを見る。えーとジョブは無し、まぁ当然か。使える魔法...無し。スキル...無し。HPやMPもゲームでいえばLv1のステータス......。




「伸び代しかないな」



 ステータスはこれから伸ばしていけばいい。ジョブもこれから自分で自由に選択出来るだろ。使える魔法やスキルはこれから増やしていけばいい。何なら自分で魔法やスキル選ぶ余地もあるかもしれない。初めから神様とやらに決められてるより楽しそうだなヨシ。


 さて、それじゃまずはステータスを上げよう。MPを増やさないと魔法を覚えても使えないからな。

 だが、問題はどうやって上げるかだ。ドラゴンが居るからにはこの世界には魔物が存在するのだろう。ゲームなら魔物を倒せばLvが上がり、ステータスも上がる。取り敢えず魔物を倒したい所だが...流石にドラゴンを相手にするのはなぁ。そもそも魔法使えないから飛んでる相手に攻撃手段がない。石を投げようにも手近な石がない。ま、そもそもあんな所まで石を投げられる肩は持ってないけど。クソっ俺がプロ野球選手であれば...。


 ま、出来ないものは仕方ない。ゲームでも何でも段階踏んでいくのが基本だからな。まずはファンタジー定番の序盤魔物であるスライムから倒していこう。ここら辺に居るかは知らないが、まぁ居ないならスライムの生息地まで歩くだけだ。早速動くか。




 そして俺は記念すべき第一歩を踏み出した。ここから俺の冒険が始まると思うとワクワクするな。いつかドラゴンを相手に出来るくらい強くなって戻ってこようか。




 ・・・・・・


 打倒スライムを目標に足を踏み出した俺は、歩き始めて数分でスライムを発見する事が出来た。ポヨポヨとした水色の体の中に、目玉のようなコアが浮いている。あのコアが弱点なのだろうか。一先ず攻撃してしみよう。

 俺はスライムに近付く。スライムが俺に気付く__と物凄いスピード突進してきた。柔らかい体でもスピードがあると結構痛い。HPが減った気がする。というか、スライムってこんなに好戦的なのか...。まぁ魔物だしな。



「次はこっちの番だ!」



 俺はスライムめがけて拳を振るう。しかし手応えはなかった。スライムはにゅるりと体をうねらせて拳を躱す。もう一度…!と振るった拳も躱される。意外とやるな……!ゲームみたいにいかないこの難易度、やり甲斐があるぜ。

 俺は諦めずに何度も拳を振るう。スライムは躱す事に集中しているのか最初の一撃以降攻撃をしてこない。何度も殴りかかる内に段々と攻撃のタイミングが掴めてきたのか、俺の拳がスライムの体を掠める。これはイケる!!




「____ここだ!」



 とうとうスライムにまともな一撃を入れる事が出来た。しかし、ぷよぷよの体に打撃はあまりダメージがないらしい。さして弱った様子もないスライムは、今度はこっちの番と言わんばかりにまた突進をしてくる。が、その攻撃は先程より威力はない。見た目より弱っているのかもしれない。これなら倒せる____!





 もう一度スライムに一撃入れようと拳を構えた瞬間、空気を切る音と共にスライムが真っ二つになった。呆然とする俺の耳に少し低い女性の声が届いた。




「スライム相手にこんなに苦戦してる人、初めて見た」



 そう言い放った女性は、現実世界にいたらモデルにスカウトされる事間違いなしの長身美女だった。燃えるような赤髪は凛とした顔立ちによく似合っている。背筋はピンと伸びており、その佇まいは光沢感のある銀色の鎧も相まって騎士を彷彿とさせる。

 彼女はスライムを切り裂いたであろう幅広の剣を鞘に収め、口を開く。



「スライムなんて武器さえあれば子供でも倒せる魔物だぞ?いくら素手だったとはいえ、そんな魔物相手にそこまで苦戦するとは……。箱入り息子か?」

「いや、ごく普通の一般家庭生まれだ。異世界の、だけどな」



 俺の答えを聞いて彼女___暫定的に騎士の姐さんと呼ぼう___は訝しげな顔をする。まぁ普通は異世界から来た、なんて言われても信じられないよな。当然の反応。




「………異世界人、だというのか?お前が?」

「信じないならそれでも良いぞ」

「いや、時たまに異世界から来る人間がいるという話は聞いた事がある。だが、そういう奴らは大概特別な力を持っているとも聞いたぞ。お前にもあるのか?スライムに苦戦していたのに?」

「いやない。俺にあるのは伸び代だけだ」



 キメ顔で答えると、騎士の姐さんは目を見開いた。



「よくそんな自慢げに言えるな。ようは今は何の力もないという事だろ?」

「そうなるな。これから強くなる予定だ。その為にまずはスライムを倒そうかと」



 騎士の姐さんは盛大にため息をつく。頭が痛いと言わんばかりにこめかみを抑える。




「………まぁ、スライムが初心者向け___というか子供向けの弱い魔物なのは確かだから、その行動は正しいな。下手に意地をはって自分の力量以上の魔物に挑むよりずっと良い。ただ、それなら武器の一つでも使え。スライムには多少とはいえ打撃耐性があるから、素手で戦うのはお前レベルでは厳しいぞ。倒すのにも時間もかかる」




 やはり打撃耐性あったのか。ぷにぷにボディだもんな。確かに打撃より斬撃の方が効きそうだ。しかし____




「俺、身一つでこの世界に来たから、武器もないし、ついでに武器を買う金もない」




 騎士の姐さんは、言いたい事がありすぎて何から言えば良いのか迷うように口を開いては閉じるを繰り返す。エサを待つ鯉みたいだな、と昔学校で飼っていた鯉を思い出した。懐かしいな。




 やがてもうツッコミを諦めたのか、騎士の姐さんは何も言わず手に持っていた袋から一本のナイフを取り出す。袋のサイズは巾着くらいなのに、ナイフを出してもまだパンパンに膨らんでいる。アイテムボックス的なやつかな。マジックアイテムを実際に見られる日がくるなんて...テンション上がる。



 「一先ずこれをやる。使ってみろ」

 「え、貰っちゃって良いの?」

 「この付近は平和とはいえ、流石に武器も何も持たずに大した実力も持たないお前が彷徨くのは危険だ。このまま放ってはおけない」

 「ありがとうございます...!」



 めちゃくちゃ良い人だな騎士の姐さん...!異世界転生して初めて出会った人がこんなに優しい人なんて、俺って本当ついている!

 優しい騎士の姐さんは、ついでに戦闘指導もしてくれるらしい。本当にこの人には足を向けて寝られない。





 そうして俺は騎士の姐さんの指導のもと、スライム討伐チャレンジを再開するのであった。

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