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8 バイト、順調中…?

 ミシェルの所でバイトを初めてから3日。



 相変わらずあんパンの売れ行きは悪く、俺はこの3日間売れ残りのあんパンを食べて生活していた。ミシェルのあんパンは美味しいし、飽きてはいないが、流石に栄養バランスが心配になってくる。アリアもあんパンばかり食べている俺の身体を心配してか、よくサラダや野菜スープ、串焼き肉まで買ってきてくれる。




 今日もバイトが終わり、売れ残りのあんパンを抱えて町を歩く。



 うーん……なんでこんなに売れないんだろうなぁ。俺的には今まで食べた中で1、2を争うくらい美味しいあんパンなんだけど。


 この町の人間は馴染みのないものには手を出さないのかもしれない。消極的というか…。それはそれで自分の身を守る事にも繋がるし、悪い事ではないけど。でも今ばかりはもっと積極的になって欲しい。ウニとかナマコとか一見食べ物に見えないものを食べた先人達を見習おうぜ。





 あ、そうだ。なら人の目のある所であんパンを食べてみるか?今までは量も多いから宿に持って帰って食べてたけど……誰かが食べてるのを見たら興味が湧くかもしれないし。安全な食べ物って事も分かって貰えるだろ。




 という訳で早速人の多い広場であんパンを頂く。うん、美味い。いくらでも食べられる。





「__あれ?君は……」

「ん?…あぁリード!久しぶりだな」




 無心であんパンを食べている俺に話し掛けてきたのは、アリアの元パーティーメンバー、リードだった。クエスト帰りだろうか、装備や顔が汚れている。




「コーヘイ、だったよな。1人か?アリアは一緒じゃないのか」

「アリアならクエストに行ってる。俺は冒険者登録もしてないし、残念ながら留守番だ。まぁ仕事もあるからどの道行けないけどな」

「仕事?何か始めたのか?」

「あぁ、露店の売り子をな。ほらコレ」




 そう言ってあんパンをリードに差し出す。リードは不思議そうに受け取った。



「貰っていいのか?」

「沢山あるしな」

「そうか。じゃあ有難く頂くよ。あ、スープか何かあった方が良いか。ちょっと買ってくるよ。コーヘイもいるか?」

「ストップ、リード」



 スープを買いに露店街の方へ足を向けたリードを制止する。




「スープは無しで、食ってみてくれ」

「スープ無しで…?そういう風に食べるパンなのか?」

「そうだな。食えば分かる。あと、変なものは入ってないから、中に何が入っていても取り敢えず食べ進めてみてくれ」




 リードは「よく分からないけど…」と不思議そうにしながらも、あんパンを食べ始める。一口、二口目で餡に到達したのか、パンの中に入っている餡子を食べて目を見開く。少し手が止まったものの、三口目に突入した。



 そのままあっという間に食べ終えたリードは「ご馳走様」と丁寧にお礼を言う。




「初めて食べたパンだけど、美味しかったよ」

「そうだろ?あんパンっていうんだ」

「あんパン…聞いた事ないな。どこかの地方の料理か?」

「あぁ。俺が働いてる露店の店主の地元料理で___」




 リードは俺の話に耳を傾けつつも、チラチラと俺が持っている沢山のあんパンを見ている。もしかしてまだ食べたいのか?




「リード、まだ欲しいならいくらでも食べていいぞ」

「良いのか?」

「あぁ。ここにあるのは売れ残りだしな。食べられずに捨てられるより、誰かに美味しく食べて貰った方が良い」

 「ありがとう」




 言うやいなや、リードはパクパクと凄い勢いであんパンを食べ始めた。いい食いっぷりだ。アリアといい、この世界の人間は大食漢が多いのかもしれない。沢山食べる人は見てて気持ちいいのでドンドン食べて貰いたい。





 「___ふぅ、本当に美味しいな、コレ 」

 「気に入ったなら良かったよ」

 「食べ過ぎてしまったし、やっぱり代金は払う。タダでこんなに美味しいものを貰うのは気が引ける」

 「気にしなくていいぞ?どうしてもって言うなら、今度は店に買いに来てくれ。ちょっと奥まった所にあるんだけどな。



 友達とかも連れて来てくれるともっと嬉しいな。その分客が増えるし」

 「……分かった。是非行かせてもらうよ」





 その後、リードと沢山話をした。彼は甘党らしく、あんパンが大層気に入った様だ。今の所店には売っていないが、他にもクリームパンとかメロンパンなどの菓子パンもある事を伝えると、とても興味を示していた。

 今はミシェルが一番得意なあんパンしか売っていないが、今度メニューを増やしてみても良いかもな。クリームパンなら、クリームは餡子より馴染みがあるだろうし受け入れられやすいんじゃないか?






 「__っと、少し話し過ぎてしまったな。パーティーメンバーと待ち合わせをしているから、オレはそろそろ行くよ」

 「そうか。じゃあ、良かったらコレ、持って帰ってくれ」

 「あんパン?こんなに良いのかい?」

 「あぁ。パーティーメンバーと食ってくれ。そんで他の奴らも気に入ったのなら店に来てくれると嬉しい」

 「分かった。きっと皆も気に入るよ」



 「じゃあな」

 「じゃあね」



 手を振ってリードと別れる。さて、俺もそろそろ宿に帰るか。




 リードはあんパンを気に入ってくれたし、彼が食べている所を通行人が興味深そうに見ていたりもした。リードもあんパンを広めてくれるって言っていたし、明日からはもう少しお客さんが増えるかもな。




 明日は忙しくなるかもしれない。その為に今日はゆっくり休んでおくか。

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