プロローグ 天国かと思ったら異世界だったらしい
伊月康平はごく普通の大学生だった。一般的な高校から一般的な大学に進学し、昼は講義を受け夜は飲食店でバイト。休みの日は友達と出かけたり、家でのんびり過ごしたり。時には試験やレポートに追われて徹夜したり。そんな平凡な日々を過ごしていた。それがずっと続くと当たり前のように思っていた。
しかし、そんな日常は交通事故に遭って呆気なく終わりを迎える。バイト帰り、夜道を歩いていたら居眠り運転の車が突っ込んできて彼は死んだ。
____筈だった。
気が付くと康平は草原に横たわっていた。そこはのどかで、見渡す限り草しかない。都内に住んでいた康平にとって馴染みのない場所だ。
「...天国?」
真っ先に思ったのは自分は死んで天国に来たのだということだった。少なくともこののどかな雰囲気はどう見ても地獄では無い。そして意識を失う前の事故。天国と考えるのも妥当だろう。
死後の裁判?とか無いんだな。それとも俺は一発で天国行き確定の良い奴だったのか。確かに昨日もおばあさんに席譲ったもんな。
自分が死んだと思ってなお、康平は悲観する事は無い。生前に未練がない訳では無い。まだ家族や友達と過ごしたかったし、彼女だって欲しかった。ただまぁ、死んでしまったものは仕方ないよね。天国を楽しも。彼は切り替えが早かった。
「にしても本当草しか無いなー。何か面白いもの無いかな」
康平は周囲を探索しようと立ち上がる。動き出す前に準備運動がてら伸びをして、どこまでも続く青い空を見上げて、
空を飛ぶ、ドラゴンを見た。
ドラゴンは康平の上空のだいぶ高い所を周回している。目を擦っても、瞬きをしても、一度下を見てもう一度空を見上げても、見えるものは変わらない。ドラゴンは康平に気付いていないのか、それとも気付いた上で放っておいているのか、襲ってくる気配は無い。悠々空を舞っている。
「......異世界転生だったかぁ」
___天国に来たと思ったが、どうやら今流行りの異世界転生をしたらしい。