第1話:俺の命の値段は、思ったより安かった。
俺の命の値段は、思ったより安かった。
……いや、正確には“殺す権利”の値段、か。
それでも、妹の治療費にはギリギリ足りる額だった。
目の前のスマホ画面に映るのは、「殺人権取引プラットフォーム」 のページ。
「一生に一度、人を殺しても罪に問われない権利」を、合法的に売り買いできるサイトだ。
俺には関係ない世界の話だと思っていた。
だが、選択肢はなかった。
「中村直人さん:売却申請を受け付けました」
画面にシンプルな通知が表示される。
あとは、オークション形式で買い手が付くのを待つだけ。
次の瞬間、最初の入札が入る。
——5,000円。
「……は?」
思わずスマホを持つ手に力が入る。
冗談だろ? 俺の殺人権は、たったの5,000円?
その後も、金額が少しずつ上がるが、それでもクソみたいな額ばかり。
8,000円。12,000円。20,000円。
バイト代かよ。
「バカにしてんのか……」
イライラして、ページを閉じそうになったそのとき——
新しい入札通知が届いた。
『落札者:バイヤー 落札価格:1,500,000円』
……1,500,000円。
ようやく、まともな値段が付いた。
それでも安すぎる気はするが、妹の治療費には足りる額だ。
俺は深く息をついて、売却確定ボタンを押した。
数秒後、取引完了の通知が届く。
『売却完了 購入者:バイヤー』
どこかの金持ちがコレクションにでもするんだろう。
それなら、俺の殺人権が使われることはないかもしれない。
……そう思っていた。
だが、数分後。
『指名通知 対象:中村直人』
血の気が引いた。
まるで待ち構えていたかのように、購入者が即座に俺を指名してきた。
なぜだ? 何のために?
指名された以上、誰にも助けを求めることはできない。
警察も、政府も、この制度を認めている。
俺がこれからどうなるかは、すべて購入者の気分次第だ。
静かすぎる部屋の中で、スマホの画面だけが不気味に光っていた。