第4話 第1章・【神隠し】編=不良到来
獅子旗 藤太郎 → シシハタ トウタロウ
一応。
今日の授業が全て終わった。
僕はさっさと帰る支度をし、教室を出た。
学校はあまり好きではないのだ。
『もう帰るのか?』
ああ。居てもつまらないし。
『なら―――替われ』
えっ?
マコトがそう言った瞬間。僕の視界が途絶えた。
「・・・・よし」
軽くガッツポーズ。
「切り替え成功。アイツの声がしないって事はアイツ、寝ているんだろうな、まだ」
久し振りだな、歩くの。
人格を切り替えた。つまりは、彗からマコトに替わった。
「さてと・・・探すか」
マコトは辺りを見渡し、ある人物を探した。
「あれ~、彗君どうしたの?」
遠くの方でコイツの名前を呼ぶ声がした。コイツの事を彗君と呼ぶのはこの学校で一人しか居ない。
俺はその声の主の方を見た。
筑波詩乃。コイツと同い年なのに、見た目が幼い。
「ちょっと人を探しているんだ」
アイツと同じ口調で喋る。
「人?誰々?」
この子は思った以上に厄介かもしれないな・・・。
答えると不振がられる為、やんわりとこの場を回避する事に。
「ん~、内緒」
俺は秘密主義だから。
「えぇー、教えてよ~」
思った以上にしつこいな・・・。
ここは直ぐにでも退散した方が良いな・・。
筑波詩乃のしつこさに少し引いてしまった。
こんな時、コイツみたいな理解力と、空気を読む才能は必要だと思うよ。ホント・・・。
「お・・・僕ちょっと用事があるからもう行くね」
そう言って俺は小走りでこの場から離れる。
後ろから筑波詩乃の、「ちょっと待ってよ~」と言う声が聞こえるが、今は無視だ。
明日きっとコイツは、筑波詩乃に質問攻めに合うだろうが、それは俺には関係ない事だ。
心の中で俺は、クスクスと笑っていた。
ん~、道に迷った。
この卿宝学院は思った以上に広かった。第一校舎と第二校舎が在るだけで十分に広い。
ヤバいな・・・この歳で迷子か・・・?
俺は一度歩くのを止め、脳内に声を響かせた。
ミミ?ミミ?
『マ、マ、マ、マコト!???』
何か慌てているなぁ~。何かあった?
『何かね!何かね!何かね!ここに知らない人が寝てるの!』
ミミが言うここと言うのは【ブレーンルーム】の図書館だ。
それに、誰かって言うのは彗だろう。ミミは人見知りなのだろうか?
あぁ~、その男はそのまま寝かせといて。
『この人悪い人?』
ん~、寝てれば無害かな?
『・・・悪い人じゃない?』
返答に困るな・・・。悪い人だけど、悪い人と言ったらミミは怖がるだろうし。ここは嘘を吐くか・・・。
悪い人じゃないよ。
『・・・・嘘だ』
子供の勘は凄いと思った。
子供は自分の感覚、つまりは直感で行動し、思考する。そんな直感が、この男は悪い奴だと感じ取った。
でも、ここでミミに怖がられては困る。
大丈夫だよ。俺を信じろ?
信じろ・・・。随分安い言葉を使うもんだな・・・。
俺自身もその信用って言葉で、どれだけ損をしたか。
『・・・・本当?』
本当。本当。それに、もしそいつが起きたら、本で殴って寝かして良いぞ?
その方が俺も動きやすいし。起きられて、質問攻めは困るからな。
『良いの?』
OK。OK。
『うん・・・分かった・・・。それで、どうしたの?』
ミミに尋ねられ、俺は頼み事をする。
いやぁ~それがね。今、迷子になっちゃってさぁ~。だから【古書】の本棚から地図の本取って教えてくれないかい?
『【古書】だね?分かった!』
この前初めて会った時、自己紹介し本の説明をしておいた。
俺はモノを覚えるのは早いが、忘れるのも早い。
『どの地図?』
卿宝学院って地図。
『これだね!?』
俺今どこに居るの?
『ん~、第一校舎の化学室前だよ!』
なるほど。
それにしも情けない。この年で迷子になり、しかも10歳前後の女の子に道案内を頼んでいる自分がさらに情けない。
『どこに行くの?』
俺の予想だと校舎裏だから・・・。
第一校舎の裏へのルートを。
『分かった!』
それにしても、ミミの頭の良さに吃驚だ。
この前初めて会った時に、こんな事を予想し、ミミに文字の読みを教えた。
するとミミは、短時間で読みをマスターした。ミミの語学力は俺のそれを上回っていた。これは元が良いからなのだろうか?
『そこから真っ直ぐ行って、右にある階段で上に行って!』
下じゃないのか?
『その階段下に行ったら外に出れないの。だから一回上に行って、違う階段で下に行かないと!』
この学校を設計した奴は誰だ?避難する時大変だろ。
分かった。
『そしてね、上に行ったら、左に曲がって、真っ直ぐ』
了解。
『ねぇー、ねぇー。ミミちゃんとお手伝い出来てる?』
おう。凄く助かってる!
『えへへ~』
俺が助かってると言うと、ミミは嬉しそうに笑った。なんとも可愛らしい。
俺はミミが教えてくれた通りに道を行く。
この前にある階段で下に降りて良いのか?
『うん!下に降りたら後はもう分かるよ?』
了解。ミミお疲れ様。
『また何かあったら読んでね?』
直ぐ呼ぶよ。
『えへへ~』
最後にミミは笑って会話は終わった。
直ぐに呼ぶと言うのが嬉しかったのだろうか?
俺は階段を下りた。すると、靴箱の前に着いた。
「どんな構造だ?」
本当に設計者の意図が読めないな。
さてと、行くか・・・。
俺は校舎裏に向かった。つまりは探し人を見つけにだ。
でもまぁ~、校舎裏と言えば、定番のあれだが。
「チガウ・・・コイツモ・・・・チガウ」
低くかすれた声。
暗闇の中、その声の主は嘆いた。そして激怒した。
「ナンデ!ナンデ!ナンデ!ドコニイッタ!?ドコダ?ドコダアアアアアア!」
叫ぶ声の主。その声の主の前に、誰かが倒れている。
だが、人と呼べるモノではなくなっている。赤い液体が流れ出る傷口は、無惨にも体中にあった・・・・。
呼び出された。でも、この学校の奴じゃない。この学校で俺を呼び出すのは、樫木屋彗ぐらいだ。
教師も俺の事を滅多には呼び出さない。
何故なら、俺がこの学校では珍しい、不良って奴だからだ。
自分で言って少し恥ずかしくなる・・・。
で、俺を呼び出したのは、他校の不良だ。
色々樫木屋の命令で他校の不良を潰していたら、目をつけられた。面倒な事だ。
「オイ!獅子旗よぉ~。テメェー最近調子に乗ってんじゃねぇ~か?」
金髪ロン毛の男が、言ってくる。でも無視だ。面倒だから。殴りかかってきたら殴り返えせば済む話だ。
ところで、何故俺が他校の生徒に呼び出されたのに、この学校の敷地内かと言うと、この学校が馬鹿デカイからだ。
下手に違う所に呼び出すより、この学校の敷地内に呼び出した方が見つからないし、通報もされづらい。その為、この不良達はわざわざここまで来たって言う事だ。
数は5人。一人相手に恥ずかしくないのだろうか?これでは、一人では勝てないから人数集めましたって、言っているもんだ。
「オイ!聞いてるのか!?」
金髪ロン毛の隣に立っている、赤髪短髪の男が叫ぶ。
随分髪の毛の色にレパートリーがあるもんだ。
だが、五人なら勝てるかな。それぐらいは余裕だ。
「オイオイ?まさか勝てるとか思ってるか~?」
金髪ロン毛が前に出ながら言う。
そしてら金髪ロン毛は、後ろにいるアフロもどきに言った。
「オイ。もう良いだろ?」
そう金髪ロン毛が言うと、アフロもどきが頷き、後ろに走って行った。
4人になった。潰しやすくなるのは好都合。
すると、俺の予想もしない事が起こる。
アフロもどきを先頭に、何十人の奴等がやって来た。
オイオイ・・・。これはいくらなんでも・・・・。
つまりは伏兵か?いやいや、多過ぎるだろ。一人相手に何十人って・・・。
しかもこの伏兵を出すタイミングも悪過ぎだろ?それだったら最初から居ろよ。
「怖気ついたかぁ~?獅子旗?」
ウザいなこのロン毛・・・。
コイツ先に倒せば終わるかな?
「おぉ~居た、居た!」
後ろから声がし、振り返った。
・・・・何で?
校舎裏、校舎裏・・・・こっちかな。
無事に校舎裏に着たが、まだ見つからない。
ここじゃないのか?まさか第二校舎とか?
それは困るなぁ~。面倒だし。
「―――・・・聞い―――」
ん?声が・・。おっ!ビンゴなんじゃないか?
これ曲がったところか?
俺は覗いてみた。
・・・他校らしい奴が五人と・・・おぉ~居た。獅子旗藤太郎。
ん~、どんぐらいか見てみたいから加勢はしなくて良いか。あんな奴等に負けるならダメだしな。
俺は覗き見を続行。
すると、金髪ロン毛の男が、後ろに居るアフロもどきに何かを言っている。
それにしても、髪のレパートリー多いな。
すると、アフロもどきはどこかに行ってしまった。
4人か?それなら余裕だろ。
すると、アフロもどきを先頭に、後ろからぞろぞろと何十人の男共がやって来た。
オイオイ・・・多過ぎだろ?
それに出すタイミング間違ってね?それなら最初から居ろよ。
これは・・・・流石に一人はキツイだろうなぁ~。
加勢・・・してやるか。
ぶっちゃけ、俺自身が誰かを殴りたかっただけだけど・・・。
「おぉ~居た、居た!」
俺はワザとらしく、手を振りながら獅子旗藤太郎の所へ歩いて行く。
俺を見た、獅子旗は間抜けな顔をしていた。
当然だろう。樫木屋彗はこんな所に来るような奴ではない。アイツは裏で操って甘い汁を啜る、変態ロリコン野郎だから。
「な、何でお前が・・・?」
小声で獅子旗が俺に尋ねる。
少し演技しようか迷ったが、その必要は無いと判断し、マコトで行く事に。
「お前を探してたんだよ」
コイツからは想像も出来ない口調の荒さだったのか、獅子旗はまだ間抜けな顔をしていた。
「訳わからねぇーよ。何でお前が・・・樫木屋が俺の事を」
「樫木屋?違ぇーよ」
俺がそう言うと、獅子旗は異常者を見る様な目をで、俺を見る。
「何言ってんだ?お前樫木屋だろ?」
説明をはぶりたかったが、説明しないと色々と面倒だ。
「違う。俺は、マコトだ」
「はぁ?」
「樫木屋彗と人格を切り替えた」
「えっ・・・樫木屋って二重人格とかなのか?」
「そうであってそうじゃない」
俺と獅子旗の二人が会話を始めてしまい、他校の不良共が取り残されてしまった。
その事に気付いた金髪ロン毛が叫ぶ。
「オイオイ~俺等の事忘れてんじゃねぇ~の?」
そう言って前に出ようとした為、俺は手を前に出した。
「今話してるからちょっと待て」
俺がそう言うと、金髪ロン毛は「お、おう」と納得した様だ。
・・・馬鹿なのか?
まぁ~そんな事はどうでも良い、説明せねば。
「詳しい話は後でするが、俺はマコトだ。でも、コイツの別人格ではない。強いて言うなら、違う存在だ。ただ、今はコイツの中に居るだけで、身体は違う場所にある」
俺はコイツと言った時に、自分の親指で心臓を指した。
「な、なんかのSFか?最近そんなジョークが流行ってるのか?」
まだ理解できないか。当然だ。コイツの理解力が可笑しかったんだ。普通ならこうなる。
「ジョークじゃない。事実・真実だ。俺は―――」
説明しようとした時に、赤髪短髪が痺れを切らして叫ぶ。
「何やってんだよ!?ぶっ殺すゾ!?」
「黙れ!」
俺は思わず叫んだ。
それには他校の不良達も驚いて、アホな顔をしている。
そして、獅子旗も驚いた顔をしていた。
当然だ。優等生の格好をした男が、ドスのきいた声で叫んだのだ。驚きもする。
「お、お前・・・本当に」
俺は獅子旗を見た。
「信じるのはお前だ。だが、信じてくれるなら、俺の右に居ろ。俺と共に行動しろ。俺には、コイツと違ってお前が本当に必要だ」
必要と言う言葉効いたのか、獅子旗は少し涙目になっていた。
「ヨシッ!おい!獅子旗・・・いや、藤太郎!お前に背中を預ける」
臭い台詞だが、こんな場面ではこんな言葉も出てしまう。
少し俺のテンションも上がっているみたいだ。
「あ、後でちゃんとした説明しろよ?」
獅子旗改め、藤太郎が俺の後ろに立ち、言う。
「分かってるって・・・」
俺はかけていた眼鏡をはずし、片手で握り潰した。
コイツの握力では無理だと思っていたが、どうやら人格が俺に切り替われば、ちゃんと俺になるみたいだ。
それに、今の俺にはコイツみたいな頭脳は持ってない。
成程・・・まぁ~、喧嘩が出来るなら何でも良いが・・・。
眼鏡をとっても、視界はぼやけてなかった。俺自身は目が良いからだ。
容姿は違うが、完璧に俺って事か・・・。面白いな。
そして俺は、両手で前髪を掻き上げながら、言った。
「お前等・・・・全員ここで終いだ!!!!」
そう叫び俺は突っ込んで行った。
不眠症になりかけの龍門です。
えぇー今のところ後書きに書く事がないので・・・登場人物の名前のイントネーションを
樫木屋 = 殺し屋
筑波 = 鍛冶屋
獅子旗 = どこそこ?
みたいな感じです。あってるかな?自身はない。もしこの中のキャラの名前を言う時(あるかそんな時?)使ってみてください。
それでは、無駄な事してないで。
次も読んでください。