第1話 終わる筈だったのに始った
樫木屋 彗 → カシギヤ ケイ
筑波 詩乃 → ツクバ シノ
一応ね。
内容は少しグダグダ気味に。BLではないよ。うん。これも一応。
彼は天才だった。
少し大雑把だったか?
否、この言葉以外に彼を現す言葉は無いだろう。
どんな人からも愛され、慕われる。
何でもこなせる天才。
皆口を揃えて言った。
『アイツは天才だ』と。
そう、だった・・・・。
「心拍数低下!!先生!!」
看護師が慌てている。
当然だ。今ここで一人の人間の命が消えかかっているのだから。
「彗君ッ!彗君ッ!」
誰かが俺の名前を呼んでいる・・・。
誰だ?少し幼く聴こえるが、綺麗な声。
「これはいかん!」
医者が叫ぶ。
そうか・・・僕は死ぬのか・・。
不思議と平気。死ぬの。
だってもう・・・疲れたんだもん。
天才?まぁ、そう呼ばれていた。神童とも呼ばれた。
くだらない。
なんてくだらないんだ。
そんな大層な呼び名も、死ねばただの音の羅列だ。
本当・・・くだらない。
「彗!いやああああああ」
誰かが叫ぶ。さっき僕を呼んでいた人とは違う声。大人びた、いや、疲れ果てた声だ。
「目を覚ませ彗!!」
次は男の声だ。誰だ?こちらも疲れ果てている。
「お願い!目を開けて!!!」
この声はさっき聴いた。
てか・・・君達は誰だ?
医者が僕の胸に何かを当てた。そして叫ぶ。
「離れて!!」
あぁ~お決まりの・・・。
もし死んでも『最善を尽くした』と言い訳をする為の行為・・・くだらない。
死なせてくれよ・・・頼むから・・・。
「――――――俺―――――――良い――」
え?誰か喋った?聴こえない・・・あぁ、もう死ぬのか僕。
「お前――――俺が――返っても良い――」
誰だ?男の声。しかも俺と変わらない歳の。誰?
それよりも、何て言っているの?聴こえない。
「お前が死ぬ―俺が――返っても良いか?」
何だ?少し聴き取れるが、意味は解らない。
僕が死ぬ・・・で何だ?
「お前が死ぬなら俺が生き返って良いか?」
は?今・・・は?
死の間際でこれか?おいおい・・・神様これは何て言う仕打ちだ?
確かに・・・僕は自ら命を絶とうとした。でも、死の間際にこれは・・・悪趣味過ぎる。
「知らねぇーよ。お前の事は。俺は生き返れば良い」
随分口の悪い。きっと僕はこの男とは友達にはなれないだろうな。
「だから知らねぇーって。ホントはお前みたいなカスの身体借りるなんて嫌だけどよ。我儘言えない状況なんだよね」
何言っている?意味が解らない。理解出来ない。それより君は誰だ?
「説明する意味あんの?」
・・・それもそうだな。どうせ僕は死ぬんだ。聞いても意味は無い。
「そうだよな。だから説明はしない。てか、面倒だからしない。んで、時間ないから俺もう生き返るわ」
時間?何の話だ?
「だから説明する意味あんの?」
口調が荒いな。これが最近の若者ってやつか?世も末だ。
「自殺きめこんだ奴に言われてくねぇーよ」
ふんっ!僕の気持ちが君に解るか?解らないだろ?君みたいな奴に僕の気持ちなんて。
「はぁ?何で俺が自殺したお前の気持ちを理解しないといけないの?てか、死ぬ奴の気持ちなんて理解したくないわ。んじゃ、もう時間だ。もうそろ、お前も迎が来るぜ?」
なっ!おい!どう言う意味だ?迎え?時間?何だそれは?説明しろ!!!
と言うか、君僕の事馬鹿にし過ぎじゃないか?名誉棄損で訴えるぞ?って、今のは冗談だけどね。てか、何とか言えよ!オイ!オイ!オイ!
「おいいいいいいいいいいい!!!!!」
起き上った。叫びな・・・・起き上った?いや、死ぬ人間が起き上った?じゃ、ここは天国ってやつか?まぁ、僕は死後の世界なんて信じないけど・・・あれ?
辺りを見渡す。医者・看護師二名。
それに・・・。
「彗!」
疲れた顔をした女性。あっ・・・母さん。
「彗!」
こちらも疲れた顔をした男性。あっ・・・父さん。
「彗君!」
僕と同い年であろう女の子。あっ・・・幼馴染の詩乃。
「奇跡だ・・・」
医者が涙を流しながら呟く。
奇跡?何が?
父さんと母さんが老けた事?
「良かった」
看護師二人が涙を流しながら呟く。
何が?この様子だと・・・俺、死に損ねた?
父さん、母さん、そして詩乃が僕に抱きつく。
そして涙を流しながら「良かった」を連呼する。
は?何が?何が良かったの?俺死に損ねたんだよ?
じゃあ、あの飛び降りて看板にぶつかった痛みは?
無駄?あんなに痛かったのに?無駄?
おいおい・・・嘘でしょ・・・。
「大丈夫か?彗!?大丈夫か?」
父さんが僕の肩を掴みながら尋ねる。
あっ・・・何か言わないと。
「うん。大丈夫だよ」
笑顔。作り笑顔。
その顔を見て、僕の周りに居る父さん達は安堵の笑みを浮かべる。
騙されている事に・・・気付いてすらいない。
僕は今まで演じてきた。天才なんて言われたから、演じた。周りのイメージが壊れないように。演じた。
そして、皆そんな僕の演技に騙されていた。簡単だ。
アカデミー賞貰えるだろうな、僕。
『はんっ!ただの詐欺師だろ?もしくはペテン師』
頭に声が響く。あぁ、事故のショックか・・・。これ後遺症とか残るかな?
『何ホザいてるの?テメェーのせいで成功しなかったんだぞ!?何でお前生き返るのかなああああああ!』
五月蠅い。と言うか、この声さっきも聴いたな・・・。
『思い出さなくて良いよ。どうせお前追い出すし』
何言っているんだ?この天の声は。
『おいおい。俺をバラエティーとかのと一緒にするなよ。てか、くたばれよ。速攻で。音速で』
あああああああ!君はさっきの!?
『思い出さなくて良いって。面倒だから』
君、さっき僕の事無視しただろ!?僕が―――。
『おいおい・・・。何かお前の周りの奴がお前の事見ているぞ。何か不思議な目で』
あっ!辺りを見渡す。
父さん達が僕の事を見ている。
声・・・出ていたのか?いや・・・これは心配する目だ。多分僕が黙ってしまったから心配しているんだ。
『ご立派な推理だな。三流小説も真っ青だな!』
五月蠅い。
僕は一度目を瞑り、そして笑顔を作った。
『詐欺師スマイル!』
黙れ。
「大丈夫だよ・・・少し疲れているだけだから」
僕がそう言うと、また皆安堵の笑みを浮かべる。
まぁ、その心配はごもっともだよ。だって10階のビルから落ちたんだ。それなのに生きている。奇跡とも言いたくなるさ。
『10階?中途半端だな。飛び降りるなら高層ビルとかから落ちれよ』
黙れ。
「そうだな・・・彗は暫く休んでいなさい」
父さんは僕の肩を掴んだまま、僕を寝かした。
別に眠たくないけど、ここは言う通りに。
「大丈夫?辛くない?」
母さんが僕の手を握りながら尋ねて来る。
僕は笑顔で「大丈夫」と言う。
「ホント?」
幼馴染の詩乃が身を乗り出し尋ねる。
・・・何で詩乃ここに居るの?
まぁ、一応笑顔で頷く。
それを見て、詩乃は笑みを浮かべる。
『へぇ~可愛い幼馴染だな。テメェーの女か?』
頭の中でゲスな男が喋る。
『おいおい。ゲスは酷ぇーな。てかお前も十分ゲスだろ?人騙しているんだからな』
何言っているんだ?僕は誰も騙してない。これはただの演技だ。
『どの口が言っているんだ?騙して快感を得ている様な変態さんが?』
なっ!何を言っている!!!
『動揺してんなぁ~。まぁ、俺はお前の事何でも知ってるからな!』
なっ!何を出鱈目な!
『樫木屋彗。17歳・高校2年。成績優秀・運動神経抜群・容姿はソコソコ。誰にでも慕われ、そして天才と呼ばれる超の付く人間』
うんうん。良く解っているな。
『その半面。自分以外の人間を下に見て、ある不良を使って邪魔な人間を排除。人を騙す事に快感を持っており、多数の詐欺紛いの事をしている。だが、父親が警察のお偉いさんの為下手に手出しできず、皆逆らえない』
なっ!で、で、で、出鱈目だ!
『見事な裏表だな。てか、裏の方が酷いな。こりゃ~やっぱり死ねば良かったんだ』
何勝手な事言っているんだ!?てか、何で君の声が僕の頭の中で響いている?これは何だ!?
『ちなみに好きな女のタイプは年下』
何言ってるんだあああああああああ!!!!!???
『あぁ~だから幼馴染が側に居るのか。タメでもこの子、少し幼く見えるもんな?てか・・・ロリコン?痛いなぁ~~~』
だから!さっきから勝手な事言うなよ!てか、僕の質問に答えろ!
『質問?あぁ~俺は顔で女は選ばないよ?』
そんな事聞いてない!!!!!
『でも胸はあった方が良いかな?あるに越した事はないからな!』
だ・か・ら!!!!どうでも良いよ!そんな事!!
『短気だな~。俺にも表みたいに接しろよ』
接して、僕になんの得がある?
『損得で動くとお前人間ダメになるぞ?』
ふんっ!損得で動かない人間がどこに居る?
『俺とか』
それは嘘だな。
『決め付けんなよ!!俺は情にアツい男さ!』
本当五月蠅いな、君。
『・・・・・・・』
おい?
『・・・・・・・・・・・』
無視か?
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
・・・・寝るか。
僕は考えた。多分暫くは退院出来ないだろう。
両親が過保護だからだ。短くても一ヶ月か?
まぁ、面倒な学校に行かなくて良いだろう。
それよりも、この僕の中に居る男をどうするか・・・。
あぁ~ダメだ。眠い。もう・・・。
男は漂っていた。まるで重力が無い様に、身体が浮いている。
『これは、これは・・・酷いな』
思わず呟いた。
この身体の持ち主である、樫木屋彗。思った以上に酷い。
男は記憶を漁っていた。樫木屋彗の記憶だ。
本人が忘れている事も、脳は覚えている。
だからここは、樫木屋彗の弱みの宝庫だ。
『だが・・・口にできない様な事ばっかだな・・・』
脳の中。まぁ、今はこの様な表現の仕方が正しいだろう。
だが、別に血管が通っていたり、何かグロいモノが有る訳ではない。
脳の中。まぁ~ここでは【ブレーンルーム】と呼ぼうか。
だが、【ブレーンルーム】と言うけれど・・・。
ぶっちゃけると、図書館だ。
樫木屋彗の・・・ここでは【主】と呼ぼう。
その【主】の【ブレーンルーム】だが、ここは【主】は干渉出来ず、唯一この男が自由に何でも出来る。だから図書館なのだ。
男は見るよりも読む方が覚えやすいと思い、この様な形にしたのだろう。
本棚は全部で5つ。
【主】の過去の記憶が書かれている書物が入っている棚。
【主】の今までの思考や行動・性格が書かれた書物が入っている棚。
【主】の今まで覚えた知識が書かれた書物が入っている棚。
【主】の夢・理想などの事が書かれた書物が入っている棚。
【主】の周りの人・物の事を書き込んである書物が入っている棚。
端から。
【古書】
【シナリオ】
【雑学】
【夢物語】
【エキストラ】
とでも名付けようか。
男は【エキストラ】の本を一冊手に取り、ページをめくる。
『・・・・これがあの子か』
ページの結構最初の方に書かれている。
筑波詩乃。17歳・高校2年。容姿端麗・才色兼備。だが、容姿が少し幼く。それがコンプレックス。幼馴染。両親が2人とも教師。
容姿の事を言うと激怒する。少し天然。運動は苦手・・・・・・おいおい、この後に書いてある事は口に出したらヤバそうな事だぞ?
絶句した。説明が短い。殆ど18禁な事書いてるよ。
軽く犯罪の匂いが・・・。
この子も可哀想に。幼馴染がこんな変態なクソ野郎なんて。
その後も男は様々な本を手に取り、読み漁って行く。
暫くし、男は読んでいた本を棚に戻し、背筋を伸ばした。
『んん~~~っん・・・いあやぁ~疲れたな』
ここで男にある答えが。
この男はダメ人間だ。
勉強出来て、運動出来て、周りに愛されている?
そんなのは表だ。裏はとんでもない。やりたい放題だ。
『俺が一番嫌いなタイプだ。見ているだけで殴りたくなる』
溜息を吐く。そして仰向けに寝転び、目を瞑る。
そして、後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔。
焦り過ぎたな・・・チャンスとばかりにコイツに決めたが、しかもコイツ生き返るし。
自殺しようとした理由も、同情が出来る様な、もんじゃなかったしな。
『アナタ・・・誰?』
声がした。ゆっくり起き上がり、辺りを見る。
そこでまた絶句。
『アナタ・・・・誰?』
幼い少女が立っている。10歳前後だろうか?
栗色の髪・大きな少し茶がかかった瞳・目元のホクロが何とも可愛らしかった。
服装は白いワンピースの様な・・・ごめん、俺あんまり詳しくないから説明出来ないわ。
そんな可愛らしい少女が、本棚の後ろに隠れながら『誰?』と言っている。声も年相応の可愛らしいモノだった。
『俺に聞いてるのか?』
ワザと惚けた感じに聞き返す。俺以外誰も居ないから俺に決まっているのだが。
『・・・・うん』
コクりと少女が頷く。
俺・・・ロリコンじゃないけど・・・可愛いな。
・・・・はっ!危ない・・・もう少しで何か大切なモノを捨てる所だった。
『で?どうした?』
俺は少女を見ながら聞いた。だが、目が合うと、何故か少女は俯く。
嫌われたか?
『誰?』
少女は俯きながら聞く。
素直に名前を言おうか悩んだ。でもここで言わなければ、俺この子に完全に嫌われるな。
子供に嫌われるの、嫌だからなぁ~・・・。
『俺は・・・・マコトだ。マコト!』
カタカナ表記。理由は・・・なんとなくだ。
『・・・マコト?』
少女が俺の名前を呼びながら顔を上げる。
『そうだ』
俺は少女を見てゆっくり頷く。
『マコト・・・怖い人?』
いきなり。俺なんかしたか?
『違うよ。俺は子供には優しい』
本当の事。下に、弟と妹二人が居た。そのせいか子供が好きだった。
世話したり、遊んだりするのが。
あぁ~これがロリコンって言うのか?
定義は解らないから何とも言えないな・・・。
『・・・・ホント?』
尋ねる少女。
『あぁ~嘘はつかない主義だ。秘密主義だけどな』
少女は表情をパァ~とさせ、俺の方に近づいて来た。
『私のね!私の名前はね!ミミって言うの!このね、耳と同じ名前!』
満面の笑顔で、ミミと名乗る少女は自分の両耳の耳たぶを摘み、俺に言う。
良い子だなぁ~。しみじみ思う。
『そうか。可愛い名前だな』
俺もその満面の笑顔に、笑顔で返す。
可愛いと言われたのが嬉しかったのか、ミミはその場でぴょんぴょん跳ねた。
何でこんな子が・・・。
俺は考える・・・まさか・・・いや、決め付けるのは早過ぎる。まだ考えの範疇に収めておこう。
一人で納得する。
『どうかしたの?』
ミミは俺の顔を見ながら聞いてくる。
てか、いつの間にかミミは俺の前に座り込んでいた。
『大丈夫だよ』
顔に出ていたのか。柄にも無く考えたりしたからか。
『ホント?』
再度ミミが確認する。俺は笑みを浮かべ、『大丈夫だ』と再度言う。
ミミは満面の笑顔で、俺の耳たぶを摘む。
『なっ!?』
いきなりでビックリし、情けない声を出す。
『ミミはどこにでも居るんだよ?だから大丈夫だよ?』
意味は良く解らなかった。けれども、何故かホッとする。子供の温かさが俺の中に流れてくるようだった。
『そうだな・・・ありがと』
俺はボソッと呟いた。ミミは笑顔で首を傾げる。聞こえなかった様だ。聞こえる様に言ってないから当然か。
『ありがと』
でももう一度言い直した。なんとなくだ。
するとミミは嬉しそうな顔をする。
あぁ~世の中残酷だ・・・。
不意に、思ってしまった。
誤字脱字の指摘があればどしどし。
自分で読み返してないから何とも言えない。
だって長いもん!
あんまり今は書くことないかな、次の後書きはいっぱい説明を書きたいと思います。
それにしてもミミ可愛いな・・・別にロリじゃないよ!?
えぇーでは次回・・・。