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6話 砲撃

「うおォオオオ!死ぬぅー!」


その頃、私は死にかけていた。


事態は5秒前に始まった。


私が使った奇跡は遺憾なく効果を発揮した。そりゃあもう見事なまでに。


マフィア共が目の前に来てんのに気付かない様を、管理局の中からリリーちゃんと馬鹿にしながら見ていた次の瞬間。マフィア共はパテになって吹っ飛んでいった。


ついでにその余波で結界もふっとばされ、室内は爆風が吹き荒れ、轟音と悲鳴が木霊した。


幸いなのは、最後にヘルスガードが仕事をしてくれて怪我人が出なかったことだろう。


ありがとうヘルスガード。

次は大砲にも耐えてくれ。


「お、収まったかな?」


恐る恐る瓦礫の山から顔をだし、辺を見渡す。


私の腕の中にいるリリーちゃんは白目を剥いて気絶してるが、怪我は無さそう。


「イテテテテ、なにがどうなってんだぁ?」


しばらくしたら次々と瓦礫の山から人が這い出てきて、周りの人の発掘作業を始めた。


そして周辺を見回していた私は、ある事に気がついた。


「マフィアども、全滅してね?」


無論、街の中にはまだ五万と比喩ではない程に多くの黒死会の兵隊どもが居るだろうが、さっきから見える範囲では、動いてる奴がいないのだ。

私達以外の船乗り連中も全員建物内で籠城していたはずだから、遠慮なく道路を砲撃したのだろうか?


私はコートの内ポケットに入れてあるモノクルを取り出すと、左目に掛け、少し魔力を込めて辺りを見渡した。


「うわ、まだウジャウジャ居やがる」


海から少し離れた街の奥。そこの建物の陰から魔力が練り上げられ、魔力の余波がうねりとなって天へと昇っていくのが見える。


どうやら魔術師を集めて一斉反攻をかけるつもりらしい。


「ハハ!戦艦相手に砲撃戦か!こりゃ見ものだね!その間に私が"いなければ"ね!!!」


攻勢魔術のうねりがピークに達した。


「全員!伏せろ!!」


危機感が臨界突破している彼らは、咄嗟に頭を抱えて倒れ込んだ。


ゴオォ゙


空が燃やされ、斬られ、吹き飛ばされ、様々な色合いをする2mサイズの多種多様な攻勢魔術は、およそ時速600kmの速度で私達の頭上を蹂躙しながら海へと飛んでいった。



入江に入っている戦艦との距離はおよそ1.2海里(2.2km)。人の感覚ではまず当たらない。

だが、現代の魔術はその術を構成する要素を全て書き出して構築するため、弾道計算が可能なほどの高精度を誇る。そのため、この程度の距離であれば十分に射程圏内である。



それからおよそ10秒後、迎撃が始まった。


いくつもの曳光弾が昼だというのに空を照らし、次々と魔術を撃ち落としていく。


いくつかは着弾したようだが、全くと言っていいほど効いていない。遠くまで飛ばす弊害で威力が下がったとか、そんな訳じゃない。

現代の魔術はそんなチャチな問題は解決済みなのだ。


答えは単純に硬すぎること。艦隊の装甲は素材開発の結晶たるターコノイドを用いているのに加えて、耐魔術コーティングがされているのは確実だ。


「流石はパイロットの本隊だ。強いね。ウィークポイントに着弾しそうなのはしっかり迎撃してる」


そして彼らの反撃はアマチュアどもとは比べ物にならない。観測手と管制官が砲手に正確な情報を伝達する。


そして、精鋭たる砲手の彼らにとって"たった1.2海里"などというド近距離で外すマヌケはいない。



圧倒的な砲塔の火力により攻勢魔術の光がどんどんと消えていく。


その砲撃戦の間にいる私はどうなったかだって?そりゃあこうなる。


「ギャアアア!!!!しぬぅぅぅううう!!!もぉおムリィィィ!!!お゛う゛ち゛か゛え゛り゛た゛い゛よ゛お゛ぉぉぉ〜〜!!!」


轟音に次ぐ轟音。

お互いに精度がいいおかげで当たらずに済んでいるが、戦艦から飛んでくる砲弾が低空も低空。衝撃波だけで吹っ飛びそうだ。私は必死にリリーちゃんを抱えながら叫び続ける。


しばらくして音が止んだ。砲撃が止んだのか、鼓膜が破れたのか分からなくなるまで続いていた砲撃戦はどうやら終わったらしい。


「い、生きてる。わ、私、生きてる!は、ハハ、ハハハ、アハハハハハ!!!生きてるぞー!私は今!いきている!!!」


私が生の実感をお天道様にむかって万歳三唱していると、話しかけてくるヤツがいた。


「ハハ、そりゃあ、良かった、じゃ、ねぇか…ゲフ、」


「うわ、血まみれだね、小太りのおっさん」


死んでいるのか、それともこれから死ぬのか分からないような、全身真っ赤のおっさんが其処にはいた。


「お、おめぇ、、ヒトを、小太りの、、おっさん、なんて、呼ぶんじゃ、、ねぇ、ゲフッ、ゲホ」


「あ〜たしかに?でも、名前知らないもん」


「…ジョン、、、、ジョン、シュタイナー、、、だ、」


私は青い空を見上げて一つ、深呼吸をした。


「そっか、ジョン。


墓にはなんて書けばいい?」


私は息苦しそうなジョンの下に行き、耳を近づける。


「……、……、…、…」


「…うん。うん、わかった。


おやすみ、ジョン。」


私は彼の瞼をそっと閉じて、床に転がってた彼の六分儀を握らせた。


「雄大なる海原の主よ、今あなたの子、ジョン・シュタイナーが海に還りました。彼にラードルの一瓶と一切れのパンをお恵みください。

永遠なる星海の主よ、今あなたの星屑、ジョン・シュタイナーが旅立ちました。彼が道を迷わぬよう六分儀に正しき、正しき光を、ぐすん、照らし賜え。」





啓かれた知識

ラードル

古くから船乗りたちに愛され、飲まれていた酒。

麦とリンゴを同じ樽で発酵させ、最後にレモンの果汁と一緒に瓶に詰めたら完成。

何故か黒い色をしている。

船乗り以外からはマズイと酷評されている。


対魔術迎撃用散弾砲

射程距離およそ550ヤード(503メートル)、初速1150フィート(350メートル)/s

対魔術に特化した散弾砲、毎分45発発射可能で弾薬は広範囲に拡散する。

魔力に干渉しやすい成分で構成されており、当れば術式を乱し破綻させる事が出来る。

戦艦ラーンのバトルレンジはおよそ9海里(16.6km)であり、通常の海戦で使用されることは無い。

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