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46話 魔女

真っ暗な室内で、小さな水面みなもが淡く光る。


『悠遠なる皆々よ。針は零を指し示し、虚偽の日が訪れた。今宵、世界は欺瞞にぬ』


『ヤッホー!ヘクセの!元気してたー?』


水面が激しく波打ち、老婆の声をかき消して元気な少女の声がした。


「エンチャントレスは元気だね。コッチはボチボチって感じ」


『ヘクセ、アンタ生きてたのかい?前回は参加しなかっただろ?死んだかと思ったよ』


「酷い言い分だねソルシエール。参加しない奴なんて珍しくないだろ?」


私は開幕の挨拶をしていた老婆とは別の老婆に向かって、水面に話しかける。


『生き死にならソルシエール婆ちゃんの方が気にするべきじゃない?何歳かは知らないけどさ』


無遠慮なエンチャントレスの声が響く。


『敬老精神のない子だね。年齢ならアタシよりストレーガの方が上だよ』


『お〜と、年齢の話はよし給えよ諸君!私達は何時までもピチピチの少女なのだから!』


若作りが得意なツァウベリンがなにか叫んでる。


『『『そうだそうだ!』』』


なにがそうなんだろう?ここの平均年齢はおそらく60を超えていると思うのだけれど。


若手の参入が望まれる業界とはまさに此処だな。


『あ、そういえば聞いたかい?魔会が大きな発表をするとさ』


『ラクインの新作見た?最高にイカしたデザインだったよね!?チッチも買おうかなって』


『最近は目が衰えてきてのぉ。何か良薬はないものか』


「牛が舐めた氷とかは?生命力を活性化できると思うよ」


全員が好き勝手話し始めた。場は混沌とし、誰が何を話しているのか聞き取れない。


そして遂に司会を務めていたストレーガがキレた。


『黙れ!これ以上の私話は後ほど各人で部屋を作って行え!』


『『『は〜い』』』


『ヘクセのヘクセの、後で少し話そ。古代の儀式について意見交換がしたいんだ』


コソコソとエンチャントレスが話しかけてきたが、多分全員に聞こえているぞ。


「分かったよエンチャントレス。私も気になってる魔法があってね。知見を借りたい」


その後も少しザワザワと私語が目立ったが、段々と水面の揺れも収まってきた。


『君たちが静かになるまで5分掛かりました』


ストレーガのしょうもないギャグにクスクスと笑い声が響く。


そして遂にストレーガが司会者として仕事を始めた。


『偉大なる皆々よ、遂にこの日が訪れた。

虚飾に溢れた日は着飾った。

虚言に塗れた日は嘘を吐いた。

虚妄に溺れた日は夢想した。

ではこれより!魔女会を開催する!

さぁ、世界の行く末を占おうか』


今日は4月1日。嘘つきの日。つまり、私達魔女の日だ。


『ハイハイ~い!しつも〜ん!ウィッチの御婆ちゃんは?』


『ウィッチ様なら腰痛で寝込んでおられる。故に、今日の司会はストレーガである私が行う。みな、異論は無いな』


魔女会の司会は基本的に年功序列だ。だが、魔女に優劣があるわけではなく、諍いを起こさないための慣習っていうだけだ。


現在の魔女会に参加している魔女の最高齢はウィッチの御婆ちゃんで、120歳。魔女会に参加してから80年が経つ大ベテランだ。


多くの魔女が身分を秘匿している一方でウィッチの御婆ちゃんの年齢が判明しているのは、魔会の会長が魔女である事を公表しているウィッチその人だからだ。


『では最初の議題だ。エーグルドレの西岸一帯の魔力濃度が0.2%上昇した。コレについて何か知っている者は?』


『一つ懸念点ならあるねぇ』


『ソルシエールか。なんだ?言ってみろ』


『ナストロンド海域が拡大したか、移動したか。気候変動の可能性があるんじゃないのかい?』


『ブラックコールがコッチにも来るって事?嫌だねぇ。怖いねぇ。ヒヒッ』


水面がざわつく。


『その事についてなら私が専門だ。現在ナストロンド海域は…』


その後も異常気象や政治、魔女会として戦争に介入するかなどの議論が交わされ、それぞれの分野を専攻している魔女達が話し合いを行う。


『では次だ。ニーズヘッグにてレベル5相当の魔法が行使されたらしい。ヘクセ、お前の活動拠点はニーズヘッグだったな。何か知っているか?』


魔法のレベルは魔会が設定している基準で判断され、レベル1なら個人規模の魔法。レベル5なら都市規模になる。


「うん。その事なら私も被害に巻き込まれたからね。よく知ってるよ。その事件の魔法使いは元々通信関係の魔法を所持してたみたいなんだけど、それが精神の耗弱に伴って固有魔法も変質したらしい」


『実に興味深いねぇ。やはり精神は魂に影響を与えるのか。実例が一つ増えたねぇ』


『嗚呼、実に喜ばしい。我らの研究材料にするべきだ。ヘクセ、検体は手に入るか?』


「無理。とっくに火葬されて土の下じゃない?魔力構造は覚えてるから後で議論しよう」


『みんな〜!あまり倫理観捨てちゃ駄目だぞぉ〜!エンチャントレスはプンプンですよ〜!』


『嗚呼、分かっているさ。我々には品格がある。知を貪る事しか能の無い俗衆とは違うのだから』


「それじゃあ続けるよ。犯人のバックボーンなんだけど、」


私が話を再開しようとしたその時、私の背後から光が差し込んだ!


「ウェンディー!夕ご飯できましたよ〜!」


自室の扉を開けてヒサメが入ってきやがった!


「ちょっと開けないでよ!今良いところなんだから!」


『お?なんだ?親凸か?』


『おやおや、ヘクセの本名はウェンディかね?』


あ〜〜!ほら!色々漏れちゃってるから!


「部屋を暗くして何やってるんですか?明かりを付けてください。目を悪くしますよ?」


「いいから出てって!あとノックもして!ご飯は後で食べるから!」


「えぇ〜、でも冷めちゃいますよ?一緒に食べましょうよ」


「もぉ〜〜〜!」


私はこの大きなママを追い出すのに必死になる。


『今頃夕飯かと思ったが、ヘクセはニーズヘッグか。時差を考えれば18時頃かな?ならば納得だ』


魔女会は日が切り替わる0時を基準に始まる。そして魔女会が基準とするのはユグル大陸に属するオーロリアだ。ヨルムンド大陸にあるニーズヘッグとはおよそ6時間の時差がある。つまり、ニーズヘッグは現在3月31日の18時である。


『ヘクセのの本名はウェンディちゃんか〜!可愛いね!私は好きだよ!』


『親と同棲してるとは10代かねぇ?若いねぇ。羨ましいねぇ』


『ククク、此処で本名は禁止ですよ?称号で呼ばなければ。ねぇ?ウェンディ。貴女もそう思うでしょ?』


コイツラぁ゙!人の個人情報を弄びやがってぇ!


「ウェンディ、あの光ってる桶はなんですか?浴室の桶ですよね?何に使ってるのかは知りませんが、キチンと戻しておいて下さいね。出しっぱなしはいけませんよ?」


「あぁ、もう分かったから!一回出てって?」


私は無理矢理ヒサメを部屋の外へと押し出し、扉を閉める。


『えー、桶で儀式してたのー?だっさー』


『マジないわー』


「色々あって儀式道具不足してんだよ!許せ!あとさっきのは親じゃない!同棲してる友達だから!」


『ヘクセのってもしかして苦学生?お金貸そうか?私いっぱい持ってるよ?』


『指の爪一枚5万でどうだい?最近は入手ルートが少なくなってねぇ』


『こら、お前達。身元の詮索は控えなさい。本名が分かっても呼ばないように。いいな?…よし!コレでもう大丈夫だぞ!ウェンディ!』


コイツゥうううッ!!!


魔女の大半は性格が悪い。性格が良いと言えるのはエンチャントレスと私くらいだ。


…今、私の性格が悪いだろと思った奴は後で覚えとけ。


『そうだヘクセ。折角だ、占ってやろうかね?』


「いや結構です」


魔女の占いには二種類ある。破滅を示唆するものか、栄転へと至る分岐路か。そして性格の悪い魔女がどちらを占うかは火を見るより明らかだ。


『ふむふむ。これはこれは。興味深いねぇ』


そして最悪なのが、魔女の占いとは、"占った結果、災厄に見舞われる"という因果が逆転する現象が稀に起きる。つまり、占われたら未来を知れる代わりに不幸に成ってしまう事があるのだ。絶対に占われたくない。


『なになに?!何が見えたの?』


『早く教えなさいよ!』


『勿体ぶるのは淑女の嗜みでは御座いません事よ?』


『我々の時を無駄に消費させるべきではない。我々の一秒は凡人の一生に相当するのだから』


お前達はそんなに私の未来が知りたいのか?!もうこの話題はやめようよ!


『ヘクセの魔女よ。老婆心から忠告しよう。よく覚えておけ』


『え?なに?ヘクセのに、そんなにヤバい予言が出たの?』


『"汝、忘れるなかれ。貴殿の朋友は名を失う。貴殿は喜びを忘れ、苦悩を忘れ、出会いを忘れる。貴殿が試練を乗り越えし時、貴殿は盟友を得るだろう"』


『え〜なになに?どういう事〜?ヘクセのの友達が大変な事になるの〜?』


え?マジでどういう事?


『なるほどな』


「え?ストレーガは分かったの?」


『名を失う。つまりは死ぬって事だろう?ヘクセ。お前の友達が死ぬって事じゃないのかい?』






啓かれた知識

ストレーガ

魔法連盟及び魔術道具評議会の評議員の一人。70年前にM.M.を開発した魔女。現代魔術の祖とも言われ、研究テーマは魔術のコード化。全ての内容を定義し記述することによって、魔術における効力のブレを最小限に収める事を目指している。

アストラリス帝国からは第二種準E級に指定されている。

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