43話 新居
「新居だー!我がニューキャッスル!ここに顕現!」
「何言ってるんですか?只の賃貸でしょ」
此処は南東寄りの中層区画にある2LDKのアパート。玄関を開けて直ぐにキッチンとリビングがあり、リビングの横にはトイレと脱衣所がある。脱衣所の先にはバスルームがあり、シャワーと浴槽が分かれているタイプの少し良いやつだ。リビングの奥には寝室が二部屋並んでおり、寝室の先には簡易なベランダがある。ベランダは横に広く、ベランダからもお互いの寝室に行き来できる。
「いや〜、ラッキーだったね!こんなに好条件な部屋が空いてるなんて!」
現在のニーズヘッグは常に人が入って来る為、治安の良い中層区画の部屋は何処もいっぱいだ。だから入居はもっと手こずるかと思った。
「そうですね。コナタが来た時は何処も空いていなかったので、出稼ぎ者用の部屋を借りていましたし。まぁ、クビにされた事を伝えたら直ぐに追い出されたんですけど」
「ホントにラッキーだったね!きっと何処かで、生意気な民族の集団解雇でも起きたのかもね!」
何故か、何処かの憎きエーグル共が職を追われて部屋を追い出された気がしたけれど、私の知ったこっちゃない無いしね!
「え?此処ってそういう…」
「まぁまぁ、イイじゃないか。前の入居者の事なんてイチイチ考えないでさ。それよりも荷物整理しよ!」
私達はリュックサックや手持ちのバックに詰め込んだ荷物を荷解きしていく。中には衣服からお互いのマグカップ、歯ブラシを含む日用品、魔術に用いる道具と様々な物が出てくる。
「…面倒臭いな」
中身を改めた私は整理を諦めた。
「ヒサメ、あと全部やっといて。私カフェ巡りしてくる」
「え?まだ荷解きしただけで始まってすらいないですよ?」
「甲は乙に対し労働で支払うこと。契約したよね?借金返すまではヒサメが家事全部やっといてね」
「うっ、覚えていましたか」
そしりゃあ忘れるわけ無い。1,200万が実質タダで転がり込んできたのだから。
私は靴棚の上にあるフックに引っ掛けていたトップハットを取ったら、恨めしい目をしながら頬を膨らませるトカゲを無視して出掛ける。
「これをコナタ一人で、ですか」
目の前にある大荷物。大半がウェンディの私物である服と魔術道具。
「でも、コナタが今生きていられるのも、全部ウェンディの御蔭なんですよね」
数日前のデュークによるあの惨事。あの日、コナタはアチラに居たのかもしれない。ウェンディに出会わなければ、コナタは身体を売り、政府を恨み、デモに参加し、何も知らずにデュークに殺される。充分あり得た現実的な予測。
「恩返しの道も一歩から。まずはこれ、片付けちゃいましょうか」
ウェンディは気付いていない。触媒なんて使って無くて、嘘をついていることがコナタにバレている事を。だって、貴女が教えたんですよ?貴女はコナタの、魔術の先生じゃないですか。
「本当に、手のかかる友達です」
「此処のチーズケーキ美味しいな!」
私は女性向けのお洒落なカフェで舌鼓を打つ。
「お注ぎ致しましょうか?」
「ああ、お願いするよ」
女性のウェイトレスは、私の空になったカップに紅茶を注ぎ入れる。
「いや〜それにしても、未だに騙され続けてるトカゲはチョロくて最高だな!ダージリンが旨い旨い!」
私の楽しそうな雰囲気につられて、ウェイトレスの子もニコニコしている。
「シュヴァルツヴェルダーキルシュトルテは如何ですか?最近流行りのケーキなのですけれど、当店でも人気なんですよ」
「う〜ん、どうしよっかな〜?夕飯はヒサメが手作りしてくれる筈だし…」
「ふふ、それでしたら無理強いは出来ませんね。ただ、とても流行っていて、最先端のお菓子なのですけれど…」
流行、最先端……ナウでヤングのイイ女。
「ま、まぁ、1ピースだけならね?」
「ありがとうございます!(この娘チョロくて可愛いわぁ〜!お持ち帰りしようかしら?)」
お互いにニコニコしていて場の空気は暖かい。私はこういう雰囲気が好きなのだ。
その後私は追加で3つのケーキを食べたのであった。
「ウェンディ?コナタのご飯が食べられないとは、どのような了見ですか?貴女が作れと言ったのですよね?コナタの国で、お残しは死罪なのですが?ユディカティーヴェが必要ですか?」
その日、私は正座と言うものをさせられ、ヒサメに泣かされたのであった。
啓かれた知識
大権
初代皇帝から受け継がれし継承魔法。制定権、主権、統治権の三権からなる。主に立法権の上にある憲法について規定する。例として、主権を持つ者に対してユディカティーヴェは行使できない事や、統治権の腑分け方についての取り決めがされる。




