42話 どんより
暗い、ていうか重い。何がって?部屋の空気がだよ!
「ヒサメ〜。元気出しなよ。くよくよしてても良いこと無いよ」
普段はホテルに付属したレストランで食事をする私達だが、ヒサメたっての希望で部屋で食事を摂っている。
だが、その張本人は俯きながらフォークでお皿を突くだけで、お皿の中身は減っていない。
「ほら、考え方を変えてみな?もし、あの群衆が暴走して暴徒になってたら、館に押し込んで来て大変な事になってたかもよ?デュークはそれを事前に防いだんだよ」
私はなんとか納得してもらう為に発想の転換を申し出る。
「皆殺しにしてですか?」
あ、無理っぽい。
「あのねぇ、確かにデュークはやり過ぎだと思うけど、殺人を全て否定するのは、この魔都では危険だと思うよ」
ヒサメが赤くなった目で睨んできた。
「どういう事ですか?」
「例えばだよ。例えばヤク中が居たとして、ソイツが理性的な判断が出来ると思う?無理でしょ?無差別に銃を撃ってくることだってあるんだし。もし、そんなヤク中に絡まれた時は、撃たれる前に撃ったほうが合理的でしょ?」
「それは、そうかも知れませんけど。でも、今回の件とは別ですよね。彼等は理性的な判断が出来た筈です」
「そうかな?民衆って云うのは感情で動く。自分にとって都合の良い大義と、それを煽る扇動者がいれば、彼等はどんなに残酷な事だって出来る」
ヒサメは勢い良く立ち上がり、叫んだ。
「じゃあ!ウェンディはデュークが正しいって言うんですか!!!」
私の心はしぼんでいき、タジタジになっていく。
「い、いや、其処までは言ってないけどさ。ある程度妥協した方が生きやすいかなって…」
指を突き合わせてモジモジしながら答えた私は、恐る恐る怒ったヒサメを見上げる。
「このわからず屋!!!」
そう怒鳴ったヒサメは部屋を飛び出していった。
「えぇ…」
誰か教えてくれ。この空気の変え方を。私はシリアスな雰囲気が苦手なんだ。
どうして、どうして、どうしてなのですか?
コナタは当てもなくホテルの廊下を歩く。
この街は、コナタの知っている世界とあまりにも違った。人が通りで喧嘩しているのはしょっちゅうだし、銃声だって聞こえる。それに加えて今日の惨劇。
コナタは衝撃を受けた。デュークが多くの人を殺した事に。そして、その事について然程衝撃を受けていなかったウェンディにも。
コナタは、ウェンディの事を気の合う友達だとか、新しく出来た家族だとか、そんなふうに、この魔都で分かり合える大事な人だと思っていた。
でも、でも…
「貴女が、何を考えているのか分からないのです…」
ヒサメは歩く。ホテルを出て、月が顔を出し暗くなった通りをトボトボと。心配そうにコッソリと着いてくる友達に気付かずに。
「夜は出歩くなって言ってるのに。あの馬鹿」
ここは魔都。ヒサメの故郷の治安と同じだと思うなよ、馬鹿トカゲ。
だけど、気まずくて話し掛けれない私も大概かと苦笑する。
「ツァラだったらなんて言うんだろ」
私は脳内でツァラを召喚し問い掛ける。
『フッ。迷っているのかい子猫ちゃん。そういう時はね、黙って抱き締めて、一緒に居てあげるだけで良いんだよ』
流石ツァラ。頼りになる。
私はイマジナリー・ツァラを仕舞ってヒサメの隣を目指して小走りする。仕舞われる寸前にウェンクを飛ばしてくるほど私の中のツァラ像は再現度が高い。
「お〜い、ヒサ」
「おい!其処のドラゴニュート!面貸せやァ!」
は?タイミング被せてくんなし。
私の横を歩く、私と同時に声を上げた不良と目が合う。
「誰だテメェ」
「コッチのセリフだよ不審者」
お互いに無言となり睨み合う時間が過ぎていく。そして同時に動き出す。
「「取り敢えず死ねやぁ!!!」」
お互いに拳を突き出して殴り合う。
「えぇ…」
ドン引きするヒサメ。だが、彼女は一つの真理を見つけた。
「なるほど確かに。理性的な人はこの魔都には居なさそうです」
コナタも含めて、ですけど。
彼女はそう言って、負けそうな友達を助けるために、喧嘩に混ざりに行くのであった。
啓かれた知識
喧嘩の流儀
『一つ、チャカは抜くな。
一つ、身体強化はするな。
一つ、殺しと喧嘩は別物である。
一つ、これらを踏まえて大いに楽しめ。
以上を持って罪には問わん。』
法を敷かない魔都にて自然と作られた掟




