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41話 権力

今、世界は静まり返っていた。それは屋敷が、デモをしていた群衆が、遠くから聞こえてくる工場の音さえも。


小鳥すら息を潜めるその理由はたった一つ。デュークによって齎された圧倒的なまでの魔力による威圧。


デュークは民衆が静まるまで待ったりしない。彼女は他者を思いやるなど一切しない。ただ、威圧的に黙らせる。


「ボクはお前たちを平等に扱ってきた。

故に、ボクはお前たちを差別しない。

故に、ボクはお前たちを視はしない。

それは外見を、地位を、因子を、民族を。

ボクはお前たちに全ての自由を与えた。

富めることも、貧することも、善行も、悪行も、言論すらも。

故に、ボクはお前たちを法で縛らなかった」


場は静まり返っている。誰も彼女の演説を止められない。


「だが、お前たちが法による救済と支配を望むのならば、望み通り縛ってやろう。



【ボクを煩わせた罪


判決 死刑


お前たちを縛り首に処す】」


始まった。彼等はあまりにも知らなすぎた。彼等は勘違いしていたのだろう。この魔都があまりにも自由だったから、共和国のような自由な国だと。


ここは"アストラリス・インペリウム"。

古い言葉で星の帝国。現代まで存続する階級制度。貴族全盛の、徹底的な封建国家である。


「怠惰で蒙昧、無為な愚民。なら黙ってボクに従えよ、


【ガベルを哭かせ、ユディカティーヴェ(司法権)】」


人々の目には黒い布が巻かれ、天から降りてきた縄が彼等の首に巻き付いた。


私とツァラとナーナは目を逸らさずに見つめ、室長は目をつむり、部長は顔を逸らした。そしてヒサメは腰を抜かし、私の腰に抱きついた。


「な、なにが……起きているのですか?」


歯を震わせ、涙目で問い掛けるヒサメの瞳には、通りを埋め尽くすほどにいた群衆が、一人残らず縛り首にされ、宙に力なくぶらりとぶら下げられた地獄が映っていた。


後に知る事になるその被害総数は1,327名。戦後最悪の大虐殺。執行された時刻が15時丁度であった事から、通称"マリオネット茶会事件"。吊るされた人々を糸繰り人形に見立てた、公爵の残虐性を示唆する悪趣味な通り名である。


「あれこそが、この国で封建制が維持されている理由。皇帝より腑分けされし継承魔法であり血統魔術"統治権"。その3つある権力の内の一つ、"司法権"。"立法権"で定められた罰を下す秩序の象徴」


続きをツァラが語る。


「だけど、法律ルールは何時だって支配者が決める。自分で決めて、自由に罰する。僕が知る限り、最も悪意に満ちた魔法さ」


権力とは暴力である。現体制を維持したければ、革命をされたくないのであれば、統治者が最も暴力的であれば良い。


それは歴史が証明している。革命において、民衆を主体とした民衆のみで成功した事例は1つもない。革命の成功の裏には、常に軍か警察の裏切りが関わっている。


故に、この国家は崩れない。なぜなら、この国家の統治者達が、軍と警察を超える最も暴力に秀でた者達だからだ。


「自分でルールを作って好きに罰せれる?なんですか、その、理不尽は」


ヒサメは静々と涙を流しながら、ナニかに対して嘆く。


「それがこの国の貴族だよ。ヒサメの故郷は民主主義だったのかもしれないけれど、この国にはこの国のルールがある。民衆がこの国に"価値"を感じ続ける以上、あの魔法は止められない」


民衆が感じるこの国の"価値"の一部を"徴税権"によって回収し、"司法権"を行使する血統魔術。他人に腑分けすることが出来る継承と、国家の"価値"を常に測り続ける特異性を持った異質な魔法。


「アストラリス帝国の国民は誰も論じたがらないし、誰もが歯向かおうなんて思わない。国家の"価値"に、個人の"価値"で対抗できるなんて思えないからね」


「だから僕はデュークを支持してる。デュークは自由であれば全てを認めてくれる。本国で富める者に成りたければ、貴族の顔色伺いが必要だけれど、此処では必要無い。僕みたいに男装をしてみたり、自由な恋愛もね。彼女は全てを認めてくれる」


未だに迷子のようなヒサメに、デュークの真意を私なりに解釈して教える。


「多分だけど、デュークが怒っているのは彼等が政府に庇護を求めたから。庇護を求めるとは、その支配下に入る事。それに加えて彼等が感情だけで動き、その結果として煽動者の良いように操られ、その事にすら気付いていなかったからだと思う」


「で、でも…それにしても!殺してしまうのは……あんまりじゃ…」


ぐずるヒサメを一瞥した私は、前を向き直して言った。


「きっとデュークならこう言うよ"お前達も自由にやれよ、ボクもやるから"」


結局のところ、強い奴がルールを作る。それは国家も個人も変わらない。


そしてデュークは強かった。だからデュークは自由というルールを私達に()した。


「おや?どうしたんだい?そんなに泣いて。可愛い顔が台無しだぜ?」


バルコニーから戻ってきたデュークは何事も無かったかのようにヒサメを気に掛ける。


「貴女が、何をしたいのか分からないのです」


涙を袖で拭うヒサメは問う。


「そうか」


デュークは自分の眼帯を少し撫でてから答えた。


「ボクはね、全ての民が、己の意思によってのみ行動を決定し、何人(なんぴと)たりとも行動を制限されることの無い社会を作りたいんだ」


「そ、それじゃあ!社会はめちゃくちゃです!」


「そりゃあそうさ。だって、人は十人十色と言うだろ?ならば社会は混沌でなければ可笑しいじゃないか。全ての人類は、ありのままを受け入れ、自由を謳歌するべきだ。そこにはきっと、新たな秩序が待っている」


そしてヒサメは、デュークに返す言葉を持ち合わせていなかった。


「人は変革によって進化した。ならば、社会も進化するべきだ」


そう言ってデュークは部屋を後にした。


だけど私は思う。


「人に自由の刑は重すぎるよ。リーデお嬢様」





啓かれた知識

統治権

皇帝が所持する"大権"から腑分けされた魔法。立法権、徴税権、司法権の三権から成る。領地を保有する貴族であれば全員が所持しており、領地によって法律が違う。継承方法は大抵の場合、20歳以上の次期当主に委任するという形で受け継がれる。

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