39話 お勉強
月が輝く夜半にて。
「え〜であるからして、血統魔術とは日常の全てを儀式とみなした魔術であり、日常の行動によってその性質や効力は変動するものである。………聴いてるか?クソトカゲ」
私はウトウトしているヒサメを蹴飛ばした。
「フギャッ!」
椅子から転げ落ちたヒサメは転倒し、間抜けなポーズを決めた。
「起きろー。授業中だぞー」
相変わらずホテルの一室で授業をする私達は、此処最近の生活リズムにだらけきっていた。
「だってぇ〜、毎日毎日、授業授業授業…。………正直、飽きたのです」
「はぁ〜〜〜。これだからユトリ世代は。私が幼少の頃は、この100倍は勉強してたぞ」
大きなため息を付いた私は、やれやれと手を振る。
「嘘つかないでください。1日は24時間しか有りません。万国共通です。それに、ウェンディとコナタは同世代ですよね」
私はトカゲの思考を鼻で笑う。
「発想が貧弱だな、君は。私が100人に分裂して勉強したに決まってるだろ?つまり、100倍は勉強したのさ。そういう魔法もあんるだよ。覚えときたまえ」
「そ、そんなインチキ魔法があるのですか!?コナタも使ってみたいです!」
あるわけ無いだろ。ホントコイツ馬鹿だな。
「ん〜、まぁね。いつかその魔法使いを紹介してあげるよ。真面目に授業を受けることが前提だけどね」
呑気に笑顔を浮かべてご機嫌なトカゲ。
「さぁ!続きを教えてください!コナタは何時でもどんと来いですよ!ウェンディ!」
「やる気があるのはよろしい。だがその前に、一旦振り返りと行こう!ではヒサメ君!魔法について解説したまえ!」
ヒサメは翼をバタつかせ、元気よく手を挙げた。
「はい!魔法とは、魔導学に分類されていない原理未解明の魔術の総称です!代表的なものは人が持つ固有魔法や、一部の聖遺物が持つ奇蹟です!この場合の奇蹟とは、魔術において慣用的に用いられる用語の奇跡とは別物であり、よく混同されているから注意が必要です!」
「うんうん。教科書を丸パクリしたような説明ご苦労。では、次は血統魔術をお願いするよ」
「はい!血統魔術とは、上から、魔導学、魔術学、儀式魔術学、血統魔術学に分類される儀式魔術の一種です。最も大きな特徴は子孫に遺伝する事で、他にも、日常の全てが儀式と見做される特異性を持っており、最も長い儀式として知られます」
「うむうむ。先程から読んでいる教科書は一旦閉じようか。先生としては、君の理解度を試したかったのだがね」
ヒサメはアハハと愛想笑いをして誤魔化そうとしているが、似合ってないぞ。私としては、ツァラみたいなクール系を目指す事を勧めるね。
「さて、他に血統魔術の特筆すべき点を補足するなら、あまり知られていない事として発動の速さが挙げられる。この理由としては、実際に発動する際は魔術を完了させるだけで良いからだ。いわば、長々と祝詞を詠んだ後に、最後の一文を詠むようなモノ。つまり、儀式はほとんど終わっているという状態が常にキープされているんだ」
「なるほど。では、日常における儀式に関する特定の行動は、儀式の最後に付け足していっているという認識で良いわけですか?」
「そうだね。大きくは間違ってない。何処で儀式を終わらせるかは、術者が決めれるからね。付け足せば付け足すほど、効力は上昇していく」
「ウェンディの血統魔術は薔薇の花畑を咲かせるのでしたよね?先週起こったあの集団催眠事件の登場人物と関係はあるのですか?最後の方で、曹長と呼ばれていた白髪の男性が見事な花畑を出現させていましたが」
私は髪をくるくると指で回しながら答える。
「いや、それがよく分かんないだよね。私の血統魔術に、あんな出力は無いはずだし。それに、薔薇を咲かせる以外の事もやってたっぽいし」
あの事件では、魔都の大半の住民が短時間に映画1本分の情報を体験した。
そう、体験だ。
「それにしても嫌な事件でしたね。コナタなんて20回は死にましたよ。20回。しかも、終わったと思ったら2周目行かされましたし。どれだけの人がトラウマを抱えたかことか…。ウェンディは抜け出せたのでしたよね。羨ましいです」
ため息を付くトカゲ。幸せが逃げたような顔をしている。
「私だって3回死んだよ。スナイパーがウザすぎて、途中からカウンタースナイプに集中してたもん」
お互いにため息を付く。
「まぁ、それは置いておこう。魔都じゃよくある凶悪事件の一つさ」
「いやな街ですね」
私は黒板に書かれた文字を消し、授業の道具を片付け始める。
「良い時間だし、今日は此処までにしよう。明日は朝から呼び出しされてるし、そろそろ寝ようか」
ヒサメもノートや筆記用具を片付け始め、寝る準備を進める。
「そうですね。コナタも、もう限界です」
そう言って、私達は灯りを消し、それぞれのベッドに横になった。
月も沈んだ深夜。私はなんだか息苦しくて目が覚めた。
「はぁ…」
額に手を置き、ため息を付く。
(似てたな。お父さんに)
思い出すのは、私の父が写っていると言われた、軍人達が肩を組むモノクロの集合写真。
写真はボヤけ、顔なんてよく分からないけれど、どこか似ている気がした。
あの体験の中では名前も顔もどれもが不鮮明だったから、それが逆に、私にあの写真を思い起こさせた。
私はベッドから立ち上がり、少し間隔が空いて設置された隣のベッドを覗き込む。
そこにはヒサメがヨダレを垂らして、幸せそうに眠っている。
「相変わらず間抜けな顔」
私はボソッと呟き、静かにヒサメのベッドに潜り込んだ。
(あったかい)
私は目を閉じた。
(なんだか…苦しい…)
ウェンディは密着するデカい塊を無意識に蹴飛ばした。
ドスン
ナニかが落ちた音がした。
(快適…)
「ヒサメー。なに床で寝てんの?早く起きなー。デュークに呼ばれてんだからさー!」
目をゴシゴシとして起きるヒサメ。
「うぅ…。あれ?コナタは何故床で?寝相は良い方なのですが」
「知らないよ!それより早く準備!私、先にモーニング行ってるからね!」
「ちょっと待ってください!一緒に行きましょう!ていうか、今日の分の翻訳魔術忘れないでくださいね!」
それから数十分後。ドタバタ騒ぎながら、その二人組はホテルを後にした。
啓かれた知識
ザ・ハロー・ヒルズ・ニーズヘッグ
『評価:☆4.5
総評:
1週間滞在しましたが、サービスと施設は充実していて良かったです。食事も美味しかったですし、スパも気持ちよかったです。次仕事に来た時も、泊まろうかと思います。ただ、隣室がうるさかったので☆4.5です』
フロントに置かれたアンケート用紙より一部抜粋




