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4話 バベル

燃えていたのは港と貴族街の間にある、高さ100mもあるバカでかい石造りの塔。


"バベルの塔"の中腹だ。


港にいる私は、その開けられた風穴から黒煙が勢い良く吹き出し、バラバラと破片が零れ落ちるのがよく見える。


「まさか!」


ハッとして海原の方に振り向けば、入江に入ってくる軍艦の数々。


それは重厚な鈍色をしていた。


その巨体は150mを超える全長を持ち、排水量は驚異の18,000トン。

いくつものボイラーで魔鉱石を燃焼させ、二基のタービンを回しながら噴き出す黒煙は山火事の如し。

多くの巨砲を甲板に並べ、木造のマスト代わりに、鉄の艦橋が建っている。


鉄と蒸気に身を包むその彼女()の名は"戦艦ラーン"。



キャプテンのご帰還だ。



砲塔の一つから白煙を吹き出している戦艦ラーンは、数隻の巡洋艦と駆逐艦を従え、悠然と近づいてくる。


港は阿鼻叫喚だ。

一般人は悲鳴を上げながら街の奥へと走り去り、水夫は近くの倉庫や港湾管理局に逃げ込んでいく。


水兵は比較的落ち着いており、少しの動揺は見られるが、直ちに集合し、戦闘準備を整えている。


「まさか、ここまでやるとは。流石に予想できないよ、キャプテン」


歴史的にも魔術的にも、そして何より、実用面において絶大な効力を発揮する超重要施設であるバベルの塔に対する砲撃。

どうやらキャプテンは本気でブチギレているらしい。


「さて、私も逃げないと。間違いなくディーラーが出てくる。彼らとヤり合うのは今じゃない」


しばらく絶句していた私は、とっととこの戦場予備軍からの退散を決め込んだ。


だが、どうやら私は、幸運の女神の前髪を掴み損なったらしい。


街の方からはゾロゾロとガラの悪いマフィアの男共が拳銃片手に出てきやがった。


流石に野蛮な彼らの間を、この可憐(恥知らず)で、清楚(一応未経験)で、ひ弱(殺人経験あり)な、美少女(自称)たる私が通り抜けるのは無理がある。


私は咄嗟に方向を転換し、港湾管理局の建物に向けて走り出した。


「すまないが私も入れてくれ!!!」


入口にバリケードを設置している職員達に聞こえるように大きく声をかけ、なんとか滑り込む。


中の設備はまさにお役所といった具合。木造の受付にコンクリートの床。壁にはこの港の歴史が資料として飾られている。


職員たちは女子供を優先して奥にある地下室へ避難させており、エントランス付近では武器を手に持つ水夫たちが話し合いをそこらで行っていた。


「おい!誰かパイロットから話は聞いていないのか!?」


「クソッ!しらねぇよ!聞いてたら女房を連れてこなかった!」


「あぁ…おしまいだ。皆死ぬんだ。こんな建物でどうやって身を守るんだ!」


どうやら此処にはまともな防衛戦力は無いらしい。


彼らが恐れているのは黒死会だ。

勘違いしてほしくないが、パイロットは彼らの味方であり、戦艦からここに砲撃が飛んでくることなんて、万に一つもない。

現にバベルの塔はキャプテンの保護下にない建造物だ。


ただ、この街のシンボル的存在ではあったが…。


私は太ももにあるリボルバーの感触を確かめながら選択する。奥に避難するか、ここの防衛に参戦するか。


「そんなの、最初から答えは一つじゃないか」


馬鹿みたいな選択肢を思い浮かべてしまったことに自嘲し、リボルバーを引き抜く。


「アテンション!!!」


机の上に立ち、リボルバーをよく見えるように天井へと掲げ、よく響く声を腹から出した。


他者に己の命運を託す気など一切無い私は、行動する。


「これより防衛方針を発表する!!!」


急に現れた女に唖然としている水夫たちに向け、一方的に作業内容を説明していく。


「まず!魔術に心得がある者は、私と共同で防御魔術の結界を張る!!!次に工作ができる者は、弾除けの装甲を窓に貼れ!それ以外はエントランスで武器を持って警戒態勢!工作班のリーダーは最も役職が高いものが務めること!魔術班は私の下に集合!以上!各員行動開始!!!」


防衛方針などと銘打ったが、水夫に組織的な防衛行動など期待できない。

少しでも纏まってくれれば御の字だ。


そしたら早速近づいてくる人物がいた。


「おいアンタ、やるじゃねぇか」


「おや?奇遇だね。あなたはついさっきの水夫さんじゃないか」


話しかけてきたのは、さっき会話をした小太りのおっさんだ。


「まぁな。お互い、一番近いのがココだったんだろうよ」


「確かに。それで?私に話しかけてきたって事はもしかして?」


「ああ、ビンゴだ。オレはアカデミーを卒業してる。だいぶ前の知識だがまだ使えんだろ」


No problem(無問題)さ!魔力回路が開いてて祝詞が唄えればね!」


「あ、あのぉ〜、私もできますぅ」


どうやら人が集まってきたようだ。


周りを見渡せば偉そうなお爺さんが矢継ぎ早に指示を出し、人を動かしている。

一度組織だったら行動が早いのは船乗りの強みだろう。


「よし!集まったね!」


最終的に集まったのは、小太りのおっさんと港湾管理局職員の自信無さげな猫耳のお姉さん。そして他に水夫が三人。

私も入れて合計6名が魔術班のメンバーだ。


「お姉さん、何か触媒になるもの保管してたりしない?」


「は、はい!確か、船舶用の浄化フィルターが検品で来ていたはずです!さ、最新のだから分解すれば相当量のクレセンタ煤が手に入るはずです!」


「ナイス発想だお姉さん!それで行こう!案内してくれ!水夫諸君は分解を手伝って」


「おう、まかせとけ!」


彼らの返事を聞きながらお姉さんの後を追う。


その時、銃声が響いた。


ババン!


どうやら外で銃撃戦が始まったらしい。


身近な死の音にパニックを起こしたのか、お姉さんが立ち止まった。ビクつきながら顔色を蒼白にし、ペタンと耳を閉じて、小刻みに震えてしまっている。


そんなお姉さんの手を取り、落ち着かせるために話しかける。


「大丈夫、まだこっちには来ないよ。パイロットの人たちが頑張ってくれてるからね。だから、ほら、息を吸って。もっと、もっと吸って。吐いて」


目線を突き合わせ、見本を見せながら深呼吸をさせる。


彼女はこの後に結界の補助をしてもらうのだ。今のうちから冷静になってもらわねば困る。


「あ、ありがとうございます。お、落ち着きました」


「そう?じゃあ行きましょう。案内はよろしくね?」


少し頬の赤いお姉さんに先導されて廊下を歩く。


さて、速攻で結界を張らねば蜂の巣だ。





啓かれた知識

バベルの塔

高さ105m 直径22m

世界有数の大規模魔術"バベル"を常時展開しており、ニーズヘッグ内では全ての言語は自動的に翻訳され、対象者の最も慣れ親しんだ言語に変換される。

微妙なニュアンスも完璧に再現するのはまさに言語学、脳科学、魔導学の叡智の結晶。

ただし、意図的に翻訳前の相手の言語を聞き取ろうとすると、バグる。

超が幾つもつく最重要施設。

頂上は灯台の役割もこなしているのだが、キャプテンには関係ないようだ…


一言コメント

バベルちゃん「私何もしてないのに!」

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