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32話 愛とは何か

デュークの私室のにて


「へぇ〜、この子が泥棒トカゲか」


私の腰に左手を回して抱き寄せるツァラは、ヒサメの事がお気に召さなかったらしい。


「ウェンディ、この無礼な麗人はどなたですか?」


そして、ヒサメもツァラの事が気に入らないらしい。お互いに睨み合っている。


まぁ、理由は分かる。ツァラは親友が知らないところで新しい友人を作ったことに不安を持ち、ヒサメは出会い頭にビンタされたからだろう。……ツァラの方が酷くね?


「ツァラ、謝りなよ。流石にビンタはないよ。ヒサメもビックリしてたじゃん。私もしたけど」


ツァラの親友として、忠告する。


「まぁ、オレは予想付いてたけどな」


ケケケと嗤う邪悪なメイド。


「そうだね。僕としたことが冷静さを欠いていたようだ。すまなかったヒサメさん。"僕のウェンディ"が世話をしていると言うのに、手を挙げるべきでは無かったね」


…そういう問題かな?


私は、普段温厚なツァラが暴走気味な事に疑問を覚える。


「ウェンディ、なんだか、この人おかしいですよ。ウェンディとの距離感も異常ですし、情緒が不安定すぎません?」


不信感が浮かぶヒサメの目は、私を心配そうに見ている。


「今日のツァラは確かに荒れてるけど、親友との距離感なんてこんなもんじゃない?幼馴染でもあるし、昔からこんな感じだったよ」


私にとって、ツァラとの距離感はこれがデフォだ。


「その通りさ。僕とウェンディの友愛に、部外者が口を挟まないでくれないか?」


な〜んか、今日のツァラは棘がある。普段は老若男女構わずに、初対面の人だろうと礼儀正しく接しているのに。


「ツァラさぁ、なんかあった?今日はやけに強い口調を使うね。らしくないよ」


私の指摘に、ツァラは少し目を見開き、驚いた顔を見せた。そして、ツァラは目を閉じ、深く深呼吸をする。


「スゥ~、ハァ〜〜。……すまないね。ウェンディと離れていた期間が長すぎて、少し焦っていたようだ。ウェンディが君を大切にすると言うのであれば、僕も大切にしなければ。それこそが愛と言うものだしね」


ツァラは私の腰から手を離し、深々と頭を下げた。


「ヒサメさん。本当に申し訳なかった。この度は全て、僕の未熟さが招いた不徳のいたす所。僕の事は赦さなくも、どうか、ウェンディとは今後とも仲良くしてやって欲しい」


相変わらず律儀な奴。それでいて、私にはいつも過保護気味の、大事な親友だ。


「私からも謝るよ。まじごめん。」


我ながら謝罪のレパートリーが少なすぎる。だが、ヒサメには効果が抜群だったようだ!


「コナタを殴り飛ばした時でも謝らなかったウェンディが、謝った…だと?!」


なんかこのトカゲ、失礼な事考えてないか?


ヒサメは1つ咳払いをして、謝罪を受け入れた。


「ツァラさん。謝罪は受け入れます。お互いに不幸な勘違いがあったのでしょう。これからは職場を共にする機会もある事ですし、仲直りしましょう」


そう言って、身長の高い二人は握手をした。…私の謝罪って、意味あったよね?


「終わったかい?まさか来て早々、三角関係の醜さを見せ付けられるとは。謀略が得意なボクでも、流石に予想出来なかったよ」


デュークはソファに寝転びながら、呆れた声で話す。


「そうか?オレは予想出来てたけどな。コイツら結構単純だぜ?デュークも恋愛に興味持てば分かるもんさ。見てる分には最高の喜劇だってな」


予想出来てたんなら教えてくれよ。お陰でギスギスしたじゃん。


デュークはソファに座り直し、空いているスペースを指でトントンとした。


誘われた私とツァラはソファに座り、スペースが無くなったヒサメとナーナは立っている。


ナーナ、お前メイドだろ。ヒサメの椅子ぐらい持ってきてやれよ。


「ふ〜ん、君がウェンディの新しい友達かぁ。色々と雁字搦めな子だね」


デュークは眼帯越しにヒサメを観察し、ヒサメは着心地が悪そうに身体をくねる。


「コナタが雁字搦め、ですか?故郷を飛び出して出稼ぎに来るくらいには、奔放な方だと思いますけど」


ヒサメは納得いかないのか、デュークに問い返した。


「それって、家族の為?それとも、家族には恩を返すべきという社会規範の為?君はなんの為に、此処(魔都)まで来たんだい?」


ヒサメは真っ直ぐと前を向き、二人は眼帯越しに目を合わせる。


「愛する家族の為です」


「それは自分の意志で?」


「はい」


ヒサメが即答し、暫しの沈黙が流れる。そして、それを破ったのはデュークであった。


「意地悪な質問をしたね。君はルール(規則)や約束に縛られやすい性質に視えたから、つい気になってしまったんだ。それに、今も大きな枷を嵌めているのが、視えたものでね」


デュークは舌をチロリと出し、問答の真意を語った。


「いえ、枷は確かにあります。大きな枷が」


チラリとコチラを見たヒサメ。私は後ろを振り返る。誰も居ない。…なんで私を見たのかな?


そして、デュークは問う。


「その枷は外したい?」


ヒサメは答える。


「いえ。コナタにとって、今では大事な枷ですから」


はにかんで答えたヒサメに、デュークは舌をしまい笑って応えた。


「いいね、君。ボクは好きだぜ。ボクが認める唯一の(くびき)、それは愛ある軛だ。人は(みな)、何かに支配される者。ヒサメがその翼で大空を羽ばたく事を、ボクは応援してるぜ」


「あ、有難う御座います?」


……私達は絶句していた。私と、ツァラと、ナーナは。


(((デュークから高評価得てる!!!)))


私が知る限り、これ程の高評価が彼女の口から出たのは史上初である。まさに快挙。私はコソコソとツァラに話し掛ける。


「ヒサメって凄かったんだね。気が付かなかったよ」


「あぁ、僕も驚きだ。ブンヤにリークすれば、明日にでも一面トップに彼女を飾れるだろうね。」


私達がコソコソ話をする中に、ナーナも混じってきた。


「おい、ウェンディ。アイツは何処で見つけてきたんだ?オレはデュークと四六時中一緒にいるが、デュークが人を応援するとこなんて初めて見たぞ」


私はふと、思い出した。


「そういえば、ナハトフォーゲル室長がヒサメの精神性は悪くないって評価してた」


……私達は沈黙し、顔を見合わせた。


「「「ヒサメって、実はヤバい子?」」」





啓かれた知識

それは、天を舞う自由の象徴。

地を這う蛇には持ち得ないモノである。

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