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30話 女の子のお買い物

翌朝、私達はホテルを出てガンショップに来ていた。


「こんなに陳列されていると壮観ですね。どれが良いとかありますか?」


壁にはボルトアクションライフルが多く飾られ、温かみのある木材のストックと、冷徹さを感じる金属の銃身が共存している。ガラスで閉じられた棚にはセミオートマチックピストルが並び、私の好きなリボルバー類は人気が無いのか、棚の隅っこに数丁あるだけ。適当に置かれた箱には、付属品やメンテナンス用品が乱雑に積まれている。


「どれが良いって言われても、私はどんな武器でも使い熟せるスーパーウーマンだからなぁ。精神性しか評価されない奴が使う武器なんて、分かんないや!」


テヘっと舌を出して、かわい子ぶってみる。だがヒサメは冷たい目しか返してくれない。ツァラなら満面の笑みを返してくれるのに。


「そういうのイイですから。真面目に考えてください」


私一人で巫山戯ていてもつまらないので、真面目に解説する。


「ヒサメの特性を考慮するなら、マークスマンかスナイパーかな。近距離用のカービンとかショットガンを使っても、使い熟せないでしょ?護身用のピストルとかは必要だけど」


私の助言にヒサメは頷き、壁にかけてある銃と、それに付随するオーロニアンで書かれた説明書きを読み始めた。


「ふむふむ。トルトット・フィールドM986。有効射程が600ヤードのボルトアクションライフルと。……ウェンディ、600ヤードって、メートルに直すと幾つですか?」


ヒサメは振り返って質問してきた。


「えぇ〜とね。大体550メートルくらいだよ」


私はさっと計算して返す。


「……あの、1つ気になったのですが。何故、ヤード・ポンド法を?」


「不滅だかさ☆」


私に聞かれても困る質問を、よく言われてる定型句で返す。


「滅べば良いと、コナタは思います」


真顔で定型句を返された。


「ゴホン。まぁ、此処に居てもしょうが無い。2階に行くよ」


そう言って私は階段を指差した。


「?、ここで選ぶのではないのですか?」


ヒサメは首を傾げて聞いてくる。


「いや、ここは通常兵器コーナーだからね。私のリボルバーみたいな、魔術道具は2階にあるんだよ。値は張るけど、室長からは経費で落として良いって言われてるから、性能の良いやつ買うよ」


そう言って、私はスタスタと2階に上がっていった。




「おぉー!これは独創的ですね!」


2階に上がってきたヒサメは、様々な形状をした多種多様なM.M.に感嘆の声を漏らした。


「まぁ、M.M.は極論、箱だしね。魔術刻印がなされた彫刻版を収容して、尚且つ魔術陣を調節できる機能さえ付いていれば、形は何でも良いんだよ。だから、お洒落だったり個性的なヤツが人気出るんだ」


そこには、私も使っているオーソドックスな懐中時計型やキューブ型。書物の形をした物から、果てはランプ型と、此の世の万物を模したのではと錯覚するほど、多様なM.M.が陳列されていた。


「こ、これ!欲しいです!」


ヒサメは目を輝かせて、ドラゴンの腕の様な、ゴツゴツとしたイカツいガントレットを見せてきた。


「そんなのあるんだ…って違う!そんな使いにくそうなの返してきなさい!日常生活で使いやすそうなのが選定の基本だよ!ていうか、M.M.を買いに来たんじゃ無いでしょ!銃器を選びなさい!」


私はオカンの気持ちになって、はしゃぐ娘を叱る。


ヒサメは素直に従い、M.M.を元の場所に戻して銃器コーナーに向かった。


「どれも刻印されてますね。なんだか幾何学的な美しさを感じます。効果はどれも違うのですか?」


ヒサメは銃の側面に刻印された魔術陣を、興味深そうに眺める。


「いや、大体同じ。模様が変わるのは、その銃に合った刻印が施されているからだよ。効果は、威力と射程距離を伸ばすのが主流だね。変わり種として、消音や銃弾の透明化があるけど、私は使わないかな」


ヒサメは気が抜けた返事だけを返して、銃選びに没頭している。暫くして、私は1つ伝えなければならないことを思い出した。


「あ、言い忘れてたけど、効果が気になるからって魔力を使っちゃ駄目だよ。その瞬間に店員に撃ち殺されるから」


私は、ニーズヘッグのガンショップ特有のルールがある事を言い忘れていた。ニーズヘッグのガンショップでは、客が身体強化や攻勢魔術などを使う為の、魔力を昂らせる行為が観測できた時点で、問答無用で撃って良いという法律がある。


「えぇッ!?それは忘れちゃ駄目なやつですよ!M.M.触ってた時、魔力を流すか迷ってたんですけど!」


おお〜。危なかったね。死ぬ所だったじゃん。


私とヒサメはチラッと、椅子に座ってる店員を見る。スキンヘッドに筋肉質な肉体。火薬に汚れたエプロンを掛け、新聞を読んでいる。


間違いなく戦闘経験者だ。


魔力は目で見えないが、魔力回路で感じることは出来る。少しでも魔力を漏らせば、その瞬間に新聞を投げ捨てて撃ってくるだろう。


「ウェンディ、あの店員さん怖いですね。見てくださいあの入れ墨。極道みたいですよ」


ヒサメは私の耳元でコソコソと話しかけて来る。だから私もコソコソと話す。


「いいかいヒサメ。ああいう人と仲良くなる為には、挨拶をした後に笑顔で中指を突き立てるんだ。さぁ、挨拶しておいで」


私は笑顔を浮かべて、友達になる為の秘訣を伝授する。


「ウェンディはコナタのことを馬鹿にしすぎです。流石にその程度のハンドサインの意味は知ってます」


引っ掛からなかったか。いつか他のも試そう。引っかかるまで。


「まぁいいや、銃は決めたの?」


ヒサメは、棚から1つのスナイパーライフルを持ち出して見せてきた。


「コレにしようかと思います」


ヒサメが持ってきたのは"Schütze-77(シュッツェ-77)"。

全長1,100mm、重量4.5kg、弾薬7.92×57mm、装弾数5発、有効射程1,000ヤード(910m)

作動方式はボルトアクションで、8倍と16倍の可変スコープが付属している。第二次ニーズヘッグ戦争でも採用された、信頼性のあるスナイパーライフルだ。


「良いチョイスじゃん。特にアストラリス製なところが。精度と耐久性のどちらも優れた信頼できる銃だよ」


ヒサメの良いチョイスに、私は太鼓判を押してやる。


「刻印魔術を起動させれば、射程距離は1,800ヤードまで伸びるそうです!大体1,600mですか?ロマンがありますね!」


喜ぶご機嫌トカゲを見ていたら、私も嬉しくなってきた。


「それじゃあ、後はメンテナンス用品と銃弾。それとスナイパーに必要な付属品も買って帰ろうか!」


私はスナイパーに必要な付属品を思い浮かべる。バイポッドにサプレッサー、射撃マットと風速計、弾薬ポーチとデータブック。こう考えると意外と多いな。


「あの〜、ウェンディ。M.M.を買ってもらうことは…」


強欲トカゲは、チラチラと未練がましくガントレット型M.M.を見てる。


「高いから駄目。それに、欲しかったら私が造ってあげるよ。ガントレット型以外でね」




あの後、私達はヒサメの護身用の自動式拳銃と、K&K28の.45ACP弾を追加で買い、会計を済ませて店を出た。


「いや〜、いっぱい買ったね!予想以上の大荷物だ!」


私は紙袋に詰まった弾薬と、いくつかの付属品を抱えて歩く。


「んふふ。銃を買ったのに不謹慎ですけど、なんだかワクワクします」


ヒサメは質の良い革で出来たライフルケースを背負い、下手くそなスキップをしている。


「ホテルに荷物置いてランチにしよっか!今日はもう疲れたし、銃の手入れの仕方とか魔術の講義は明日にしよう!」


「そうしましょう!コナタもお腹が減って来たところです!」


「即身仏に成りそうな程?」


「成りそうな程!」


「「アハハハハハ!」」


私達は下らないやり取りに爆笑しながら、大通りを歩くのであった。





啓かれた知識

第二次ニーズヘッグ戦争

979年に勃発したアストラリス対エーグルドレ&オーロリア連合の戦争。

ニーズヘッグから南に40kmの地点を主戦場とした戦争は、終戦まで約3年間続いた。

開戦理由はニーズヘッグ港を利用するにあたっての不平等な関税の撤廃と、ニーズヘッグ議会への参政権を求めてのモノだった。

結果として、ニーズヘッグまで侵攻される事は無かったものの、実質的なアストラリス帝国の敗戦による講和という形で終戦に至った。

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