表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/51

25話 低俗な争い

翌朝、私はヒサメを連れて貴族街を歩いていた。


50mを超える威圧感のある尖塔が乱立する街並みは、一昔前の、古き良きネオゴシック様式が目立つ。

中層区画と比べて清潔感があるのは、鉄製の壁面や剥き出しの配管がなくなり、錆や蒸気が表層に出ていないからだろう。


私はいつもの仕事着である、ピシッとしたレディースのスーツベストに、トレンチコート。トレードマークの黒いトップハットも忘れずに被っている。

モノクルはお洒落の一貫として、魔力を込めずに伊達眼鏡としてかけている。


対してヒサメは、尻尾の付け根を隠すための藍色のロングスカートに、翼を通せる穴が空いた白いトップス。ブラウンのオーバーサイズの冬用カーディガンを羽織っている。

元々のヒサメの格好は、少し野暮ったくてダサかったから、私が全て買え揃えてやった物だ。やはりペットを飼うには金がかかる。


ヒサメは貴族街が珍しいのか、周りをキョロキョロとよく観察している。お上りさん丸出しで恥ずかしいから止めて欲しい。


「大分街の雰囲気が変わりましたね。流石は貴族街です。庶民から税金を巻き上げて豪遊しているのでしょうね」


街の雰囲気の変化を一人で勝手に納得し、間違った解釈をしているヒサメ。私は外国人がよく持つ誤った認識を正してあげる。


「貴族街に貴族は公爵しか居いよ。大半が資産家と官僚。単純に金持ちが多いってだけ。ていうか、この国の貴族の総数自体がそんなに多くないから、1つの区画を形成出来るほどの人数が居ないんだよね」


貴族街と呼ばれてはいるが、実際には貴族が多いのでは無くて、富裕層が街の中心に密集しているだけである。


「じゃあ何で貴族街なんて呼ばれているのですか?富裕街とか上級地区とかでも良いと思いますけど」


「う〜ん、理由はいくつかあるよ。1つが公爵の館を中心に発展したからっていうのと、昔は公爵以外にも開拓に来ていた貴族が居を構えていたから、その名残ってとこかな」


ヒサメは納得したのか話を切り上げ、アッチにフラフラ、コッチにフラフラと、目的地とは関係の無い場所を見て回る。


「お〜い、迷子になるぞ〜」


貴族街とはいえ、人通りの多い朝は混み合い、見通しが悪い。


「でも、気になりますウェンディ。あの店頭に飾られている服を見ましたか?装飾が多くて歩きづらそうですよ」


服屋のショーウィンドから見えるマネキンは、フリルが多く着けられた真っ赤なドレスを着飾り、堂々とポーズを決めている。


「あのねぇ、あれは特別なパーティーとかで着るやつ。普段は着ないから歩きづらくても構わないの。それより早く行かないといけないから、フラフラしないでね」


私は好奇心旺盛トカゲの尻尾を無造作に鷲掴み、リードを引くように引っ張る。


「?!ちょっ!ちょっと待って下さいウェンディ!先端は握っちゃ駄目なところです!それに引っ張らないで!つ、付け根が千切れちゃいます!」


尻尾の付け根の部分は、スカートで隠れて見えなくなっている。その為、実際に付け根が千切れそうになっているかは分からないが、良識ある私は手を離してあげる。


「ヒサメ、次勝手にどっか行ったら、首輪つけるからね。わかった?」


人差し指をヒサメの首に向けて注意する。


「うぅ…なんかコナタの扱い雑じゃないですか?初めて会ったときの優しいウェンディは何処に行ったのです?」


少し涙目のヒサメは抗議してくるが、私は無視して歩き出す。




数分後。


「結局、ウェンディはどこの組織に所属しているのですか?」


建築群を眺めながら大人しくついてくるヒサメは、私が未だに教えていない所属と、これから向かう場所が気になるらしい。


「統計調査委員会だよ。地方政府である議会とは別の組織体系に属してるけど、れっきとした公職。つまり私は、表向きには公務員。どっかの誰かとは違ってね?」


私はどこかの無職トカゲにウィンクして、マウントを取っていく。


「コナタだって働きたかったんです!その為にニーズヘッグに来たのですから!それに、解雇されたのだってコナタだけの責任ではない筈です!バベルの塔が壊れたのが全部の元凶ですし…」


モゴモゴと言い訳を続けるヒサメを見ていると、私のトカゲをイジメたいゲージがムクムクと上昇していく。


「でも、それってさ、アストラリス語を話せないような、学の無い奴が悪いよね?」


「うっ、で、でも!募集要項には言語不問と書かれていました!それに、アストラリス語なんて、アストラリス人以外は使いませんよ!オーロニアン(オーロリア語)ぐらいなら少しは話せますけど、まぁ…ほんの……少しだけですけど…」


オーロニアンとは、世界中で比較的広く使われている言語だ。オーロリア国を起源とする言語で、一応アストラリス帝国でも公用語の1つとして指定されてはいるが、日常的に使われたりはしない。挨拶や返事を少し洒落た感じにしたい時に、使われる程度だ。また、オーロリア人を指すこともある。


「へぇ〜、結局オーロニアンも話せないじゃん。何語なら話せるの?トカゲ語?魚語?あ、1つ言っておくけど、田舎国家の言語って、人が話す言語に含まれないからね?」


このトカゲは怒ると、尻尾と翼をパタパタさせて少し可愛いんだよな。反応も良いし、つい、からかいたくなってしまう。つまり、私は悪くない。だから徹底的に、思う存分イジメてやる!


「前から思ってましたけど、コナタの祖国である八洲国やしまこくは田舎ではありませんよ。ユグル大陸の東端にある島国ですけど、一応、大国規模の人口はありますから」


……なに?…そんな馬鹿な…こんな野暮ったい雰囲気の、イケてない奴が大国出身だと?冗談は間抜けな寝顔だけにしてくれ。


「ゴホン。1つ聞くが、ヒサメ君。八洲国の人口と経済規模は?」


片目を閉じて、流し目で尋ねる。


「人口は5千万を超えていますよ!経済はちょっと戦争の影響で低迷してますけど、充分に立派な大国です!」


ドヤ顔で宣言する生意気トカゲ。


「ぐはッ!?嘘だ!あり得ない!何でウチと人口でため張ってんの?!そこは1千万に届かない弱小国家の筈だろ!?」


私が驚いたことに気を良くしたのか、ヒサメの追撃が始まる!


「フッフッフ。まだ驚くのは早いですよ、ウェンディ。首都の人口は400万です!」


「グボォぁ゙!」


口から血反吐を吐く私。

ヒッヒッフーと、瀕死寸前の口呼吸は、まるで陸に打ち上げられた魚のようだ!


「な、何故だ!何故ニーズヘッグよりも多い!それじゃあまるで、ニーズヘッグの方が……いや!そんな筈はない!あってはならない!」


必死に自己弁護をする私。私の愛する魔都が、劣っているなど!あってはならない!


「ハッ!そういう事か!ヒサメ、君は出稼ぎに来たと言ったね。それに経済が低迷しているとも」


私が言いたいことに察しがついたのか、苦虫を噛み潰したような顔になるヒサメ。


「大国のくせに、態々外国に出稼ぎに来るとは。さては、金回りが良くない貧乏国家だな!」


そう!このアストラリス帝国、ひいてはニーズヘッグにあって、八洲国に無いもの。それこそ金!やはり金!金こそが国の基盤であり、国際的順位の基準!人口など飾りにすぎん!つまりニーズヘッグこそがNo.1!優秀!偉い!魔都サイコー!


「でも、ニーズヘッグって周囲が荒野に囲まれてるなんちゃって都市じゃないですか。歴史も浅くて」


「あー!あー!聞こえなーい!聞こえなーい!なんにも聞こえなーい!」


大通りの中心で騒ぐ私たちは、品の良い住民の方々からすれば、さぞおかしな珍獣に見えることだろう。目的地に朝早く行く筈だったのに、それすら忘れて私達はお喋りに夢中になっていた。




数分後


「ほら!ヒサメ!速く走って!時間に間に合わないから!」


私はヒサメの右手を握りながら走る。


「ウェンディ!職場のこと詳しく聞いてないんですけど!結局何してるんですか!?コナタは何をすれば良いんですか!?お仕事は貰えるんですよね!?」


デカい胸を揺らしながら走る疑問符トカゲに、私は答える。


「着いたら話す!忘れてなければ!」





啓かれた知識

簡易な地理

ユグル大陸西端の北方面には、アストラリス・インペリウムが領土を保有し、周辺国家に幅を利かせている。

そして、アストラリスから見て南であり、ユグル大陸の西端の中点から食い込むように、広い内海である地中海が存在する。

地中海を挟んで南側にグランデ・レーニョ・エーグルドレが広大な領土を保有し、地中海の入口から西に50kmの地点に、オーロリアが島国として存在する。

オーロリアから更に西に大洋を渡って行くと、ヨルムンド大陸に行き着くが、航路の発見は容易ではなかった。

ニーズヘッグはヨルムンド大陸の東端に位置し、広さはおよそ300平方km(半径10kmの円)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ