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24話 迷惑なヤツら

夕陽が沈みゆく逢魔時。カモメとカラスが鳴いている。


私は今、港に近い共同墓地に来ていた。


フリークスに喰われたヒサメを埋葬するために。


というのは流石に冗談で、実際にはジョンの墓に遺言を刻みに来た。


「や〜と見つけた。ほんと探し回ったんだからな。自分の墓くらい教えに来いよ」


港に近い共同墓地にて、私は少しぽっちゃりなジョン・シュタイナーの墓を見つけた。


墓石には彼の名前と生年月日、没年月日、いくつかの追悼のメッセージ。そして、永遠の安息を祈る言葉が刻まれている。


この国ではどんなに遅くとも、7日以内には葬儀が執り行われる。そして、今日は彼が亡くなってから7日は過ぎている。

私は気絶したヒサメをホテルに送った後、彼の墓を探して墓地巡りをしていた。


「あのオッサンって人気者だったんだ」


彼の墓石の周りには、クレセンタの花束やラードル酒の瓶、パイプを模したフェルトが頭に突き刺さっているテディベアと、誰かを連想させるような様々な小物によって飾り付けがされていた。そう言えばリリーちゃんとの約束はすっぽかしちゃったな。


「見送りに来れなかったこと、許しておくれよ?君との約束は守りに来たからさ」


私は墓石の前にしゃがみ込んで、彼に話しかける。


「…考えてみたけど、特に話すこともないね!ま、初対面だったしそんなもんか!」


命を懸けるのが仕事の奴ならともかく、無関係な水夫が私の責任で犠牲になった事は、私の心に確かな重しを乗せた。


「なぁ、私の祈りは届いたか?最後噛んじゃってさ、ハハ。ちょっと恥ずかしかったんだ。でも、ヘクセを冠する私が祈ったんだ。効果は保証するよ。あ〜、だけど、私としては、君の遺言だけは叶ってほしくないかな」


私はポケットから魔術陣が描かれた紙を取り出した。


【刻印せよ】


紙は燃え尽き、墓石には遺言が刻まれた。


その遺言はデカデカと墓石を横断して彫られ、他の言葉を見えづらくする。


私は胸元から取り出したロザリオに口づけをし、振り返らずに墓地から去った。



一般人からすれば迷惑千万な遺言には、こう書かれていた。


 【Ich werde das Meer mit Radel füllen】

  【海をラードルで満たしてくる】





「それでウェンディはいつもの毒舌が少ないのですね。納得しました」


レトロな雰囲気を出し、蓄音機からはクラシックなジャズを流すホテルのレストランで、ディナーを嗜む私達。

出掛けていた理由を話してみれば、酷いことを言うヒサメ。トカゲにはブルーな気持ちってもんが理解できないらしい。


「あのね〜ヒサメ君。あまり人を傷つける事を言うんじゃない。私がいつ毒舌を吐いたね?」


肘をテーブルに乗せながらプチトマトをフォークで転がす私は、対面に座るヒサメに問う。


「ウェンディ、頭がおかしくなったのですか?」


ブチッ、プチトマトが弾けた。


「はぁ!?このクソトカゲ!今なんつった!剥製にすんぞ!」


テーブルに上半身を乗り出し、キレる私。


「ほ〜ら今言った!今言った!間違いなく今毒舌吐きました〜!」


キャッキャッと騒ぐ狡猾トカゲ。


私は静かにナイフを握りしめる。


「お客様、当店ではお静かに願います」


低く落ち着いた声で注意された。


私達はピタリと動きを止め、静々と席に戻る。


テーブル横に佇み、ニコリと笑う品の良いウェイターと目が合った。


「あの、これ、どうぞ」


私は財布から取り出した紙幣を、迷惑料込みのチップとして渡す。


「有り難く頂戴致します」


黒のフォーマルなベストを着たウェイターは、一礼して去っていった。


「それで、その後はどうしたのですか?また出かけて行ったではないですか?」


ヒサメは食事を再開し、サラダをモグモグと食べる。


「あ〜、あの後ね。職場に手紙を出しに行ったの。長期のプロジェクトが終わったから、その報告も兼ねてね」


プチトマトの群れを、ヒサメの深皿に弾き入れながら話す。


「長期の事業ですか?そういえばウェンディの仕事を聞いていませんでしたが、何をやっているのですか?」


私はワイングラスに入ったシードルをくるくる回しながら答える。


「それ聞いちゃう?私がちょっとアングラだって事、気づいてんでしょ?」


私が黒死会の幹部と戦闘を行ったことを知っているヒサメは、察しが付いている筈だ。コイツは冷静であれば意外と頭が回る。


私は数秒ほど壁に飾られた絵画を眺め、小さく呟く。


「どうしよっかな〜」


チラリとヒサメを見るが、私が答えを出すのに時間がかかると察したのか、食事に集中している。


正直なところ、ヒサメのことはまだ信頼出来ない。出会って数日だしね。だけど、どこかのスパイや、私の人事調査に来た人間だとも考えていない。


理由としては、ドラゴニュートの因子は印象に残りやすく、諜報活動に向かないからだ。


私の猫の因子は珍しくはないが、それでも尻尾を切除されたくらい印象とは重要だ。例えば誰かが私を捜索する際、情報に因子の有無があるか無いかだけで捜索難易度は劇的に変わる。

金髪碧眼の女と、金髪碧眼で猫の尻尾がある女では、対象人数が違いすぎる為だ。


だからヒサメが諜報員ではないことは推察できるが、コイツの目的を聞いていない。


「ヒサメってさぁ、何でここに来たの?ユグル大陸の東から来たんでしょ?距離にして何千キロよ?」


プチトマトを口に入れてモグュモグュしているヒサメに、渡来の目的を聞く。暫く咀嚼していた彼女はゴクンと飲み込み、話し始めた。


「一言で言うなら出稼ぎです。それに」


「アハッ!やっぱり貧乏国家の田舎者だ!やーい、やーい!貧乏者〜!」


セリフを被せるように煽ってやる。やられたらやり返す!倍返しだ!


「こ、こいつ!コナタの国を!」


私は当初の目的を忘れ、ヒサメを馬鹿にする事に全力を注ぐ。


「お?なんだ?否定できるのか?言ってみろよ」


ニヤニヤしながら煽る。


「育ちが悪い人に言っても!どうせ理解できません!」


その後暫く低俗な罵り合い合戦は続き、ボルテージも次第に上がっていく。


「お客様、お出口はあちらで御座います」


スンッと静かになる店内。


周りを見渡せば、出入り口付近に座る身なりの良いオバサンに舌打ちされた。


食事が終わっていた私は席を立ち、椅子に掛けてあったコートを腕に抱えた。


「ヒサメ、早く行くよ」


急いで残りのサラダを口に詰め込む毒舌トカゲ。


「す、少し待ってくださいウェンディ!」


私はヒサメを置いて先に出口に向かう。ついでにオバサンの横を通り過ぎる際、中指を突き立てるのを忘れない。


私の後ろを急いで追ってきたヒサメがオバサンに罵倒されているが、きっと日頃の行いが悪いせいだろう。


(ヒサメは出稼ぎ組か。となると、現金を渡さないと流石に可哀想だな。)


現在のニーズヘッグは好景気であり、世界中から労働力を募集している。応募すれば運賃を前貸しされ、飛行船や船のチケットを手配してくれる。その為、ユグル大陸の東からでも渡来する事は可能だ。


(まぁ、ヒサメが悪人とは思えないし、室長に言って職場紹介してもらうか。後で追加の手紙も出しとこ。)


私は本来の上司である室長を思い浮かべ、可愛い部下のお願いが聞き届けられる事を祈った。





啓かれた知識

治安の悪化

『ニーズヘッグ当局は先週に比べ治安指数が0.6ポイント上昇したことを発表した。原因はバベルの塔の機能不全による失業率の増加、住民同士による異国籍を理由としたトラブルの増加、低所得者が多く在住する地区のホームレスの増加などが指摘されている。これに対し地方議会はなんの対策も発表しておらず、一部の専門家は「公爵のスタンスが議会の正常な運営を妨げ、事態の悪化に拍車を掛けている」と指摘する』

AIZ新聞社より発行された地方紙より一部抜粋

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