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23話 危険いっぱいな魔都

「いや〜マジでごめん」


プンスカ怒るヒサメに、私は謝る。


「ホントですよ!帰ってきたら家が更地になっていたコナタの心境がわかりますか!?寒空のもと眠る、木版の冷たさが!」


「だから悪かったって謝ってるじゃん」


流石の私も、放置して忘れていた事に罪悪感を覚える。


「それにウェンディの事も心配したんですよ?近くにいた人が"金髪の女が黒岩マンと戦っていた"って言ってて、ウェンディの事じゃないかって。コナタ、ウェンディが居ないと言葉が通じないですし」


合流して以降、ほっぺを膨らましながらずっとこんな調子だ。




昨日の夜、ホテルでたっぷり寝た私は昼に起き、その時初めてヒサメの事を思い出した。


流石に慌てて探し始めた私は、路地裏の入口で5人の不良共に絡まれ、言葉が通じずにアワアワしているヒサメを見つけた。


そして私は思った。これはチャンスだと!


不良に絡まれるヒサメ。路地裏に連れ去られ、あわや貞操の危機!そこで登場する救世主たる私!華麗に不良共をボコし、ヒサメからは尊敬の眼差し!昨日のことは有耶無耶になる!勝った!天は私に味方した!


ということで、路地裏に連れ去られるまで静観を決め込む。


しかし、様子がおかしい。


なんか普通に殴り合い始まってないか?


ヒサメはバサバサと翼をはためかせる事で、背後に回られないように立ち回っている。そして、時折ビタンビタンと尻尾を地面に叩きつけているのは、威嚇のつもりだろうか?


あ、でも普通に殴られた。殴り返してるけど、筋肉が足りてないのが分かる。ドラゴニュートって名前は強そうだけど、熊の因子持ってる奴の方がよっぽど筋肉あるしね。正直なところ、コレクションとして狩られ易い、不憫な因子だと思う。


だけどヒサメの目からは闘志が消えていない。諦めたら女としての尊厳を失うか、剥製になるか、いや、その両方が待っていると理解しているのだろう。


「流石に助けるか。」


私は不良共の背後から近づき、静観している不良のリーダーっぽい奴にドロップキックをお見舞いした。


「ぐぽぉあぁ゙!」


変な声を上げて倒れるリーダーっぽい奴。


「なんだ!?新入りがヤられたぞ!」


あいつ新入りのクセに一番後ろにいたのかよ!?新入りは前に出ろ!前に!


私は新入りを踏み潰しながら不良共の中心に躍り出る。そして脚を大きく回し、不良共の、脳の足りない頭蓋を次々と蹴り飛ばしていく。


強化していないから死ぬことは無いが、私の良く撓る脚はかなり痛い筈。逆に猫の因子を持つ者の拳は弱く、通称"猫パンチ"なんて馬鹿にされるけど。


「やぁヒサメ、大丈夫だったかい?」


全員を華麗に倒した私は、救世主に相応しい笑顔で手を差し伸べる。


「wendy!dokoniitteitanodesuka!」


私はスンッと笑顔を引っ込めた。


「ふむ。随分と田舎臭い喋り方だね?辞めたほうがいいよ。みっともないから」


知らない言語でギャーギャー騒ぐ五月蝿い田舎トカゲ。知らない人のフリしようかな?こんな田舎丸出しの奴と一緒にいたら恥ずかしいし。


その後なんやかんやあって、翻訳魔術をかけた私達は冒頭にいたる。




「それで、何があったのですか?家どころか周辺一帯が無くなっていましたが」


少し落ち着いたのか、事の真相を知りたがる好奇心トカゲ。


「好奇心旺盛だね。それは私すら殺してみせるのに」


頭にクエッションマークを浮かべる無学のトカゲ。まったく、好奇心は猫を殺すという諺を知らんのか。これだから田舎者は。


…そう言えば私の因子言ったっけ?


…まったく、私の因子すら知らんのか。これだから田舎者は。


「私の因子は猫なんだよ。そのぐらい察しろ」


眉を顰めて抗議してくるヒサメ。


「無理を言わないでくださいウェンディ。貴方はノーマルではないですか」


ノーマルとは因子が外見で判断出来ない人のことだ。


「そこはまぁ、ほら、フィーリングで?」


私の無茶振りにため息を付くヒサメ。


「少しだけ貴方との接し方がわかった気がします。話を戻しますが、何があったのですか?あれ程の広範囲が綺麗な更地になっていたのです。尋常の事ではないのでしょう?」


新しく買ったトップハットの位置を微調整しながら考える。本当のことを話すべきかどうか。


ヒサメの目を見る。真っ直ぐな瞳だ。こいつは運とタイミングがすこぶる悪いが、性格は真面目で、心の奥にしっかりとした芯を持っている強さを感じる。


「はぁ…黒死会の幹部と殺り合ったんだよ。敵が使う特殊な固有魔法のせいで、あの一帯は更地になった。本当に凶悪な組織だよ、黒死会は。」


拳を握り締め、悔しそうに嘆いてみせる。


もちろん本当の事は言わない。何処に耳があるか分からないからね。もし私のせいだとバレたら賠償金で首を括る事になる。だから全部黒死会のせいにする。これぞ普段の行いの所為ってやつだね!


「黒死会、聞いたことがあります。マフィアの親玉だとバイトリーダーが言っていました」


ゴクリと喉を鳴らし、怪談を話すように語るヒサメ。


「間違ってない認識だよ。傘下を含めれば組織の人数は10万を超えるからね。この魔都における一大勢力の1つさ」


これに関してはしっかりと本当のことを教える。ヒサメが躰目当てで狙われるとしたら、この組織が一番候補に上がってくるからね。


「だから良く言われるのは、路地裏に行かないことと、下層区画には行かないこと。それと、蛇が杖に巻き付いたタトゥーをしている奴には気を付ける事かな。ただ、タトゥーを見せびらかすような奴は大抵下っ端だけどね」


私は路地裏の入口を顎で指しながら忠告する。


ヒサメは真面目な顔をして考え込み、手を顎に当てながら質問してくる。


「成る程。勉強になりますウェンディ。他に気をつけたほうが良い事はありますか?コナタは暫くこの魔都で生活しなければならないので、知っておきたいのです」


暫く?借金を返すまでの7年間は手放すつもりは無いのだが…この借金トカゲは理解しているのだろうか?


「そうだね。他に危ないところはパンドラとか、宗教家達とか、下水道とかの地下空間とかかな?」


中層区画で暮らす上で出くわしそうな奴らを羅列する。


「どういうことですか?宗教家とは僧侶のことですよね?パンドラも聞いたことがありませんし、地下には浮浪者が居るからですか?」


腕を組んで、何から話すべきかを考える。


考えがまとまった私は、一息ついてから解説する。


「まずパンドラなんだけど、これに関しては完全なる俗称だよ。そんな組織があるって噂されてるだけの、デューク直轄の諜報組織のこと。貴族街で悪さをしなければ大丈夫。基本的にはね」


パンドラという名前ですら、実際には正確ではない程、情報が秘匿された組織だ。


「デューク。ディーラーと呼ばれる人の一人ですよね。公爵なのですか?」


流石に知っていたか。ドクターやデュークという異名は、魔都の住人が付けたモノだ。名は体を表すというように、異名を聞いただけでどういった人物かは判るようになっている。


「そうだよ、彼女は公爵だ。危ない人だから近づかない方が良い」


私はしみじみと感情を込めて答える。ソニア以外のディーラーは危ない奴らばかりだ。ヤバイ奴の集まりの中、まだスレずにいる可愛いソニアに想いを馳せる。


壊れた塔が視界に映った。


いや、アイツも十分ヤベー奴だったわ。


「え〜と、後は宗教家共だね。コイツラに関しては千差万別だから一概に危険とは言えないんだけど、中層区画に多くいる。最近は変革主義者が増えたおかげで、私ですら勢力図を把握できてない」


この魔都で縄張りが分からないのは、地雷原が分からないのと同義だ。毎日何処かしらで爆発してる。昨日は私が爆発させたが…


「?、ウェンディはこの魔都では長いのですか?随分と詳しそうですけど」


首を傾げて疑問を持つヒサメは、「私ですら」という言い回しが引っかかったのだろう。


「ん?言ってなかった?私はニーズヘッグ生まれだよ。所謂、開拓組の二世とか三世って言われてる」


ヨルムンド大陸の開拓が始まって50年近く経つが、このニーズヘッグの歴史自体は40年くらいだ。だから最初に入植した者達は、現在において60代から80代くらいの計算になる。


ヒサメは何か閃いたのか、ポンと手のひらを鳴らし、得意気に発言した。


「ウェンディの口が悪いのも納得しました!育ちがわr」


不穏な事を言いそうになったクソトカゲを、1発殴っとく。


さて、この調子に乗ったクソトカゲを、地下に巣食うフリークス共の餌にしてやるか。


私は気絶したヒサメを引きずって、表通りを歩き出した。





啓かれた知識

黒岩マン

『ソイツは黒き濁流の姿をし、轟音と共に現れる。全てを呑み込みながら街を喰らうそのUMAは、最後には全てを巻き込み自爆すると言われている。

ソイツを目撃した者の証言によると、人を喰い散らかし、文明を破壊する悪虐の徒であったという。

一説には、フリークスの変異種であるとか、ディーラーのペットであるとか。

真相を確かめる為、我々記者団は魔都の奥地へと向かった。』

ヌガエ新聞社によって発行された夏のオカルト雑誌より一部抜粋。

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