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21話 "人の価値"を問う

「アッツ!」


地面を転がり消火を試みる私の傍には、バロックが立っていた。


「確かに俺の固有魔法が弾かれたのは驚いたが、それだけだ。お前の魔術には欠点が多くある」


火が消えた私は、寝転がりながら話の続きを聞く。


「魔術的な支配力としては強力だが、物理的には弱すぎる。燃やしてしまえば唯の塵だ」


ぐぅの音も出ない正論をぶつけて来る。


「確かにそうだね。でも、私からしたら値千金の魔術だよ」


私は土埃を払いながら立ち上がる。


コートは燃えてボロボロになってしまった。とても気に入っていたのに残念だ。


「ほう?花畑がか?」


バロックは馬鹿にする気持ち半分と、私の解答に興味半分と言ったニュアンスで問いかけてくる。


「そうだよ、その花畑がさ。綺麗なもんだろ?実に私に似合ってる」


バロックは燃やしたことで支配権が失われた土地から銑鉄を補充し、私の答えに落胆した音色で返す。


「くだらん答えだ。花畑に"価値"は付かん」


「そうだね、でも建造物は?」


魔術の講義をするかのように問いかける。


「何が言いたい」


やはり"価値"に関する話題は気になるのか、会話は続く。


「分からないなら教えてあげるよ。作られたばかりの建造物に魔術的な"価値"は付かない。触媒にできないモノの1つには空間があるからね。例えば長年暮らした家でも玄関の扉に"価値"は付くかもだけど、玄関という空間全体に"価値"は付かないとされている」


ここまでの話は少しニッチだが知られている話だ。


バロックもここまでは知っているのか、無言で話の続きを促す。


「じゃあ家があった土地はどうかな?」


お利口に大人しく聴いている生徒に問いかける。


「大地に"価値"は付かん。故に触媒に用いることもできん」


一般的には満点の解答をされ、私は調子良く続ける。


「その通り、ただし一般的にはね。実際には逆だ。土地や空間は触媒に用いることが出来ないから"価値"は測定できない。結果的に"価値"が"無い(N/A)"と判断されただけだよ」


私は周囲から私達の認識や観測を阻害する魔術を展開する。


「なぜそれが逆だと言える」


ここからは他人には教えられない話だ。


「だってそうだろ?人は土地に"価値"を付けるじゃないか」


バロックは手を口に当てて考え込む。


「一理あるな、だがどうやって証明する」


バロックは完全に戦意より"価値の探究者"としての知的好奇心を優先し始める。


「カジノでは何でも賭けることができるだろ?土地の権利書とかさ」


私は解答用紙をめくっていく。


「まて、何が言いたい」


面白い答えはこれからだ。


「つまりは私の固有魔法さ。私の固有魔法は"たった一人のカジノ"。私は自分の所有物を"全て"賭ける事が出来る」


私は自分の固有魔法をさらりと開示する。


バロックは数秒フリーズした後に反応した。


「な、に?·········まさか!?····お前は!!!"神の創造物"すら触媒に出来るのか!!!!?」


神の創造物。

それは生きた人や大地、空間などの"価値"があると予想されるが触媒には出来ない物の総称であり、諦観を込めた俗称。


「That's right!」


私は元気に答えながらリボルバーを片手で構え、バロックに向けた。もう花畑は咲き誇っている。


【28番術式起動】


私の固有魔法にあり得ない"とある可能性"を感じてしまったバロックは動きを止め、高速で実現可能かを推理する。


「確かに私の血統魔術は貧弱だ。でも、私は魔術的な支配権を得ることが出来る。つまりはこの一帯、薔薇が咲いた場所は魔術的には私の所有物だ」


【プレイ・バカラ。ベット、私の所有する不動産全て】


「さて質問だバロック!この貴族街に近い土地一帯の"価値(時価総額)"はいくらか予想がつくかい?想い出が蓄積した空間()の"価値(重み)"は?」


周辺の土地と建造物全てが瞬時に燃え尽き、大量の塵が舞う。


あまりのあり得ない"意味不明な現象(固有魔法)"にバロックは愕然としている。


「だから言っただろ?私にとってこの血統魔術は"値千金"だと」


塵が去ったあとには、半径200mの範囲が1mほど陥没して低くなり、更地と化した元住宅地に大勢の人が転がっていた。


そして逡巡の後、バロックはあり得ない可能性に到達した。


「ウェンデル。お前はまさか、"人の価値"を測れるのか?」


鎧が崩れ、素顔を露わにしたバロックが、これ以上無いほど真剣な目で問いかけてくる。


「測れるよ。

ただし、賭けた時。

塵となるその瞬間。

"価値"は解る」


バロックは天を仰ぎ、目を伏せ、思想する。




私は知っている。


この1年間、スパイとして黒死会の調査をしていたのだから。


彼らが"人の価値の探究者"である事を。


なぜ人は生きるのか。


我々に生きる"価値"はあるのか。


我々の人生に"価値"はあったのか。


スラムで生まれ、犯罪に手を染め、同仕様もない糞みたいな人生で、それでも一生懸命生きた我々は、

"価値ある人間"なのだろうか。


自分の"価値"を見いだせなかった人間が集い、結成された探究者の組織。


そして最も強く、暴力において"最も価値がある"と認められたドクター。


彼をトップに据え、彼らは初めて"自分の価値"を識ることができた。


ドクターのもとでなら、ドクターという絶対的な暴力の基準により、暴力において、どの程度の"価値"があるかを判別することが出来たから。


そして彼らは、



暴力によって"人の価値"を探究し、



"生きる価値"があるかを問う、



"人を選別する者(黒死会)"を名乗った。





「さようならボス。1年間お世話になりました」


私は黄金に輝く弾丸を、撃鉄を下ろして撃ち出した。


全てがスローモーションに見える。


轟く銃声、廻転して飛翔する"高き価値"ある黄金の弾丸。


バロックに当たる直前、私は彼と目があった。


そうか、バロック。貴方はそれを選択したのか。


目を閉じ、再び開いた其処には、塵となって消えゆく"価値ある人間"の残滓だけがあった。






啓かれた知識

神の創造物

『誰もが知りたい自分の"価値"。

しかし世界は応えない。

誰もが持ち得ない人の天秤。

だけど私だけは持っている。

私が全てを賭ける時、

私は自分の"価値"を識るだろう。』

ウェンディーナ・ヘクセ・ローゼンクランツの独白

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