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17話 裏切り者

「ねぇウェンディ、私心配したのよ?あなたが遂に野垂れ死んでしまったって。怪我をして療養していたのは解ったけど、生きていたなら手紙の一つくらい送ってくれても良かったんじゃないかしら」


「はい。おっしゃる通りです」


受付に座り懇懇と正論と説教を垂れるのはベル・クッシュマン。久しぶりに会った気がするのは、この1週間に色々あったせいだろう。


「それに他の人達も心配してたわよ。"あの生意気なウェンデルが墓と結婚したなら祝杯を挙げなきゃなガハハ"って、後で挨拶しておきなさい」


「はい。後でしっかり"アイサツ"しておきます」


多分、言ったのはジャスパーの豚野郎だな。後で出会い頭に私の拳と挨拶させてやる。


「ああ、それとボスが「ウェンデルが出社したら呼ぶように」とも言っていたわ。後でボスにも挨拶しときなさい」


「うぅ…分かりました。話変わるんだけどさ、賞金首の回覧版見せてもらえない?私の友達が賞金首になってるかもしれなくてさ」


先程の会話にベルから懸賞金の話は出てこなかったから、私は見逃されたのかもしれない。ドクターって何考えてるのか分からないしありうる。


「ふ〜ん、あなた友達いたのね?まぁ、良いわ、最新版のがあるから持ってくるわね。少し待ってて頂戴」


通称回覧板。

それは情報屋が所持している賞金首の一覧が、簡易的なプロフィールと一緒になって載っている冊子だ。毎週発行され、うちの事務所では購読している。




「はい、これ。昨日周って来たやつよ。先週の回覧から何人か減ってはいるけど、常連はどいつも生き残ってるわね。ヤれそうなのがいたら教えてちょうだい」


回覧板を渡したベルはそれだけ言うと受付の奥に引っ込み、タイプライターを打ち始めだ。


私はパラパラと冊子を捲り、一心不乱に自分の名前を探す。


「え〜とWは最後のほうだから、Walker、Wasp、William、Xavier、良かった!載ってない!」


私は自分の表向きの名前であるWendellが載っていなかったことに安堵した。


「ふむふむ。ということは?考えられる事は2つ、頭が可笑しいドクターが私の事を見逃したか、私の事を特定出来なかったか。後者の方が有り得そうだな」


この街には銃を持った金髪の女なんて五万と居る。ドクターの前ではウェンデルを名乗ってないし、野次馬共は纏めてふっ飛ばされていたから私を目撃した者は案外少なかったのではと考える。


ということは?ボスのボスであるドクターの腸をぶち撒けてやったことを、ボスに気づかれていない?ボスは私が心配だったから顔を見せるように言っただけってこと!?


「勝った!天の加護は我にあり!」


勝利を確信した私は、階段を上ってボス部屋に挑む。


「お、ウェンデルか、久しぶりに見たな。死んだかと思ったぜ」


話し掛けてきたのは、二人いる門番の内の一人であるガルウィッチ。背広を着て赤い髪をしっかりセットしているボスの護衛の一人だ。


「どけ中ボス、下っ端に用はない」


いつもの様に挨拶をする。


「ハハハ、残念ながら今日ばかりはそうはいかなくてな。そこで止まれ」


ガルウィッチは座っていた椅子から立ち上がり、扉の前に立ちはだかった。


おかしい、いつものギャグが通用しない。


「は?意味分かんないんだけど。私はボスに呼ばれてんだよ?来客でも来てんの?」


「いーや、客は来てねぇ。ボスからはお前が来たらチャカを取り上げとくように言われてんでな。オレは知らねぇけどよ、テメェは心当たりあるんじゃねぇの?」


瞬間、空気がピシリと鳴った。


「お前、私に自分で心の臓を抉り出せと?」


私は普段よりも低い声で真意を問う。


「言いたいことは分かるぜ。だがよぉ、オレが言いたいことも分かるよな?」


椅子に座っているもう一人の護衛のハンスは、既に懐に手を入れてる。


「……」


沈黙だけが過ぎていく


「どうするウェンデル。テメェが決めな」


ガルウィッチは相変わらずズボンのポケットに手を入れたままの自然体だ。動くならもう一人の男。


熟考の末、私は決めた。


「チッ、好きにしろ」


「お利口で助かるよ」


クソ野郎が、反抗する素振りを見せたら撃つように言われてるくせに。


ガルウィッチは私の全身の身体をまさぐり、リボルバーに予備の弾薬、コンバットナイフ、即効性の睡眠薬が入った瓶、懐中時計型のM.M.、そして、いくつかの触媒を全て没収して行った。


「死ねよこの変態。いつか絶対殺す」


「ははは、やってみろよウェンデル。テメェみてぇなガキでも殺さずに犯して、娼館に売りつけてやるから安心しろ」


お互いにちょっとした軽口を叩いて場を和ませる。殺気が飛び交い、お互いの魔力がうねりを上げているのは、話が盛り上がっている証拠だろう。


「ボス、ウェンデルの身体検査終わりました」


ハンスが扉越しにバロックに報告する。


「わかった。連れてこい」


ドスが効いてるバロックに呼ばれた私は、ガルウィッチに連れられ部屋に入室する。


「来たかウェンデル。まぁ座れ」


ガルウィッチはサッサと退室し、私は部屋の近くに設置された応接用のソファに座る。

扉が閉まり、部屋に居るのは執務用のデスクで書類仕事をしているバロックと私だけになった。


バロックは書類に何かを書いており、暫く無言の時間が過ぎていく。




カタリ、しばしの時間が経った後、バロックは丁寧にペンを置き、何でもないように語り始める。


「書類仕事とは大変でな、肩が凝るわ目が痛くなるわで疲労が溜まる。それに俺も歳でな。寝てもなかなか疲れが抜けず溜まっていくときた。昔の俺はこんなにも机に向かい続けるなんて想像もしてなかった」


一息ついたバロックはゆっくりと立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。


「ブランブロック、知ってるか?アストラリスの南西部にある俺の故郷でな、寂れた町だった。薬と売女(ばいた)に塗れた路地は、いつも腐敗した臭いを漂わせててな。何処に行こうと臭いが鼻に染み付いて落ちやしない。薬に侵されたそんな町だった。だが、綺麗な場所があった。何処か分かるか?」


机を挟んで対面にあるソファーに座ったバロックは、手を組み少し前かがみになりながら質問する。


一拍置き、バロックの目を見ながら答える。


「貴族の屋敷」


「いや違う。貴族なんて疾うの昔に出ていった。屋敷は廃墟さ。分からないか?薬屋の前だよ。アイツ等はあの町で一番の金持ちだったからな。掃除屋を雇って、毎日掃除させてたのさ。町を汚してる元凶が、町一番の綺麗好きとは、実に巫山戯た話だと思わないか?」


「そうですね。ボス」


私達は背筋を伸ばし見つめ合う。


「じゃあ、俺達は何だ?

町の汚れを掃除する掃除屋か?

それとも町を汚している薬そのものか?

まさか、薄汚い商売で小銭を稼ぐ売女か?」


目を細めドスの効いた声で続ける。


「どれも違う、俺達は価値ある薬屋だ。

俺達は、この魔都で最も人が欲しがっている"人の命"を売っている」


バロックの握られた拳にはギチギチと力がこもっている。


「いいか、ウェンデル。

糞を抱いて眠りたくなきゃ金だ。

金こそが最も価値あるモノで、尊ばれるモノだ。

分かるか?金を稼ぐ事は全てにおいて優先される。

そして、金を稼ぐには信用が必要だ」


バロックの殺気が迸る。


「貴様は俺の信用(価値)に糞をつけた」


ガシャン!


机を吹っ飛ばしながら右の拳が迫る。


私はそれを左手の甲で弾くようにいなし、右腕で殴りかかる。


「ハッ!」


鋭い掛け声と共に打ち出された私の右腕を、バロックは頭を傾けることで避ける。


「信用に糞を付けただぁ?薬屋の信用なんぞ端から糞だろうがバロック!」


背中に直接刻印した身体強化の魔術陣に魔力が流され、燃えるように背中が熱くなる。


お互いに膨れ上がった魔力と闘志が激突し、空気が震えた。


「お前は"価値ある人間"か、黒死会幹部たるこの俺が選別してやる。光栄に思えよ、クソガキ」





啓かれた知識

拝金主義者

『金、金、金。

誇り高き正義の騎士も、

光り輝く夢を追う若人も、

貧者に手を差し伸べる慈善家も、

すべてを支えるのは金。

金が無い人生とは全てが無価値だ。

故に私は金を稼ぐ。

私達にとってありとあらゆる悪徳は、金の為なら正義である。』

ラジオで流れた資産家の独白

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