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15話 素晴らしき友

「じゃあここの甲のとこにサインして」


「えっと、コナタはこの国の文字が読めない故、何と書かれているのか教えて下さらないでしょうか?」


私がかけた翻訳魔術は簡易版故に、文字まではカバーしていない。実力不足が悔やまれる。


「え〜とね、バベルが修復するまでの期間中、乙は甲に翻訳魔術をかけること。甲は乙に請求された触媒の金額を支払うこと。また、支払い能力が不足する場合は甲は乙に対し、労働で支払うこと。ざっとこんなもんだね」


ここは私の契約しているアパートである1LDKの自宅、そのリビングだ。

あの後私は"オトモダチ"を連れて部屋に戻り、契約書をしたためた。

ご飯はまだ食べさせてあげてない。思考能力を奪い視野を狭めさせるのは"オトモダチ"との接し方としては当然だからね!


「あの、もう少し詳しく聞いても」


「サインしたらご飯食べよっか!」


「サインします!」


やった!これで奴隷、じゃなくてオトモダチを強制労働、でもなくて、お手伝いしてくれる人ができた!


私はニコニコしながら食器をだし、夕食の準備をする。

帰り道の途中で見せつけるように買った食材を並べたら調理開始だ。

とは言っても、トマトやチーズ、パンにハム、これらを切って盛り付けてオリーブオイルと黒胡椒をかけるだけ。

冷蔵庫の中にあった具合の悪いマッシュドポテトとシードルを出したら完成だ。


ヨダレを垂らしながらお行儀よく待っている奴隷の名前は、甘楽院(かんらくいん)氷雨(ひさめ)

なに、ちょっと高額請求するだけさ。

所詮は辺境国家の田舎者。触媒の相場も、現代魔術の魔の字も知らんに違いない。


ヒサメはご飯が食べれて嬉しい、私は何でも言うことを聞かせられる労働力ができて嬉しい。これこそがWinWin!理想の関係性ってやつだね!


「さあ!我が新しき友ヒサメよ!今日の出会いを祝福して、いただこうではないか!」


「ええ!ええ!勿論です!優しき友ウェンディよ!久しぶりの御馳走です。いただきます!」


ヒサメは手の平を合わせ、祈りを捧げる。対象はきっと私だろう。


目に涙を浮かべながら山盛りのマッシュドポテトを頬張り、ひたすら胃に入れていく作業をするだけの絡繰り人形になったヒサメに、私は早速代金を請求する。


「じゃあ触媒の値段なんだけどね、一日あたり10万。ソニア、じゃなくてバベルの塔の修繕に関わってる人の話だと、大体4ヶ月くらい掛かるそうだから、120日で計算して1,200万ルドね。契約書に書かれてる通り前払いだから、ご飯食べ終わったら払ってね」


ポカンとした間抜け顔を晒しているポンコツトカゲに、ニコニコ笑顔の私は、この魔都の洗礼を浴びせてあげる。


「えっと、ウェンディ?聞き間違いでしょうか?今1,200万と」


「うん、そう言ったよ。安いでしょ?だって触媒用の金額だけだもん。利息もつかないし、私の手間賃はトモダチに免じて0ルドだよ?解約してもいいけど、1,200万の支払い義務は負債として残るから気をつけてね?」


口をパクパクさせてるポンコツトカゲは、ウロコを活かして魚に転職するつもりだろうか?


「どうしたの?早くご飯食べようよ。温かいものが無いとはいえ、パンはパサついちゃうよ」


「え?、え、え、…ひっぐ、う、うぅ、ううぅ…ズズッ、うぅ…グスン」


涙をポロポロ流しながら、ようやく状況を理解したらしい。ソレでもお腹は減っているのか、泣きながら口にパンを詰め込んでいく。


「ヒサメ、これからの共同生活仲良くしていこうね!」


「ぐすん」


辺境の田舎国家には、鼻を鳴らすことで同意を示す文化があるらしい。お互いに歩み寄ることが出来て私は嬉しいよ。


ニコニコしながら心温まる晩餐は続く。




「じゃあヒサメ、私は先にシャワー浴びてくるね。お皿片付けといて、あと、ベットメイキングと床の掃除、トイレ掃除もやっといて」


私は鼻歌を歌いながらシャワールームに向かう。後ろからは未だにすすり泣く泣き声が聞こえてくるが、きっとドラゴニュートの習性だろう。




「いいな♪いいな♪どーれいっていいな♪

便利な小間使いに、精神的優位♪

リビングのソファで、眠るんだろな♪」


シャワーを浴びながら鼻歌の続きに歌詞をつけて歌う私は、そういえば抱き枕が軍港にいることを思い出した。


「ヒサメが抱き枕はなんか違うんだよな。デカイし色々と」


身長は私より少し高いくらいだから、180くらいかな。でもそれより胸部装甲が戦艦ラーンといい勝負している。ソニアがビート板で私が駆逐艦、ベルは巡洋艦かな?

同性とはいえちょっと気になるレベルなのは事実だ。後で揉むか。


シャワーから上がった私は驚いた。

部屋がきっちり掃除されてる。てっきり逃げ出すことも視野に入れてたのに、これには純粋に驚いた。


「ヒサメー、ヒサメー、どこー?」


「な、何でしょうウェンディ」


ガチャリとトイレから出てきた真面目なトカゲ。


「ヒサメ偉いね!言われたことをちゃんと出来るのは良いドレ、…良い家政婦の証だよ!」


「そ、そうですか?有難う御座います。色々と考えたんですけど、やっぱりウェンディはコナタの事を想って助けてくれたのかなって。触媒にお金がかかるのも当然ですし、働ける宛のないコナタを雇ってくれたと考えれば悪くないことなのかなと」


おお!こんな短時間でストックホルム症候群を発症するとは!

どう考えても詐欺られてるのに、視野搾取に現実逃避も加わって最早操り人形だ!


「わかってくれて嬉しいよヒサメ!家賃と生活費も毎月徴収するけど、コツコツ返済していこうね!」


「あれ?何かがおかしい気が…」


この街での最低日給は8,000ルド、毎日家政婦として働いても月24万。家賃と生活費で10万引かれるから手取り14万。勿論、全額借金返済に充てるから現金は入ってこない。

借金全額返済にかかる期間は凡そ7年。

ウェンディは便利な借金奴隷をゲットした!





啓かれた知識

契約

それは悪魔の発明品

この時代においても契約は重要視されている。

それは魔術的な意味でも、社会的な意味でも。

もちろん、地方裁判所にて不当な契約の無効化を申し出ることはできる。ニーズヘッグ司法局の裁判官が差別主義者でなければの話だが。

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