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14話 素晴らしき運命

そして話は冒頭に戻る。

私はソニアの温情で手に入れたトロピカルジュースを飲みながら、軍港に艦隊が停船するのを甲板から眺めている。


「はぁ〜、憂鬱だ」


先程まで見ていた水平線が恋しくなって来た。


憂鬱な理由は2つ。

1つ目は無断欠勤。これは間違いなく怒られる。主にベルから。ベルってお小言多いんだよね。歳かな?


2つ目はバロック・ロック、我らがボスだ。

本人は隠してるつもりなんだろうけど、バロックが黒死会の幹部だってこと、実は私、知ってるんだよね。

つまり、ボスのボスであるドクターの(はらわた)をぶち撒けてやった私は、もし賞金首になっててもボスはきっと助けてくれないし、それどころか、ボス直々にケジメをつけに来るかもしれないってこと。つまりヤバいってこと。


「はぁ〜、どうしたもんかねぇ」


溜息が止まらない。


「何がだ?」


後ろから声をかけてきたのはソニアだ。当たり前のように、デッキチェアに寝転ぶ私のお腹の上に腰掛ける。


「いやなに、懸賞金かけられてるかもって。ドクター生きてるし、恨まれてそう」


「なるほど、賞金首か。我の場合は懸けられすぎて参考にならんが、そこまで気にすることか?」


「なんで?暗殺者とかが来るんだよ?」


自分の職業を棚に上げて尋ねる。


「?、返り討ちにすれば?」


これだから世界観の違う奴らは。

ディーラー達だけ私達のいる世界のジャンルからハズレているのは、いつ修正されるのだろうか。


「なるほどね。そりゃ名案だ。私にその実力が無いことに目を瞑ればね」




結局いい案がでないまま下船した私は、トボトボと帰路につく。


港湾入口まで来た私は、思わず足を止める。


「多言語が聞こえてくるの違和感凄いな」


バベルが機能停止したおかげで、住民たちによる強制参加の異言語交流がそこらで開催されている。


「あれは、エーグルドレ圏ぽいな、あれはどれだ?かなり訛りが強いけど多分、エーグルドレの東方面の田舎か?う〜む、それにしても全くわからん言語圏の奴もそこそこ居るもんだな」


知らない言語で喚きながら喧嘩をしている奴らから目を離し、カオスと化している表通りを眺める。


港に近いため道自体は広いのだが、魚を扱ってる屋台が多く、人で混雑している。


普段は軽い値引き交渉が見られる屋台の群れも、今はどこもオーバーなボディランゲージを駆使して取引し、中には肉体言語にまで発展したところがチラホラ。


「あぁ!?テメェなんつってるかわかんねぇよ!2,400ルドだって言ってんだろうが!いや、だから足りないんだって!あと400!わかるか?!あと400足りねぇの!だからなんで解んねぇだよ!アストラリス語話せよこのファッキンエーグルが!」


この世界では、生まれながらの外見による差別がほとんどない。正確に言えば、あらゆる種族が交雑した結果、人々は生まれながらに何かしらの因子をランダムで発現するようになった。そのため、家族単位で全員の外見がバラバラなんて事はよくある。


しかし、そのせいか出身地による差別はかなり横行している。

外見で見分けることができないため基本的には言語で出身地を見分けるのだが、この街ではそれがしにくかったからか、いい意味で差別は顕在化しなかった。


しかし、出身地が浮き彫りになった結果が、このカオスな表通りだ。


「何だぁその田舎臭ェ喋り方はヨォ〜!バウアー(農民)ならヒィヒィ言いながら牛のケツでも掘ってろよぉ!」


「はぁ〜?黙れよ"ニック"!芋ばっか食ってる豚モドキが!厩舎にでも籠もっとけ!」


お互いに自国の言語で罵詈雑言を飛ばしているせいか、多分、半分も伝わっていない。


それはそれとして芋を馬鹿にしたアイツは殺そう。


私は取っ組み合いにまでヒートアップし始めた羊顔のやつに、後ろから殴りかかった。


「死に晒せぇ!ファッキンエーグル!」


「だ、誰だお前!?」


あちこちで乱闘が起きている。魔都たる所以の本領が発揮され、血の気に皆が飢えている。

きっとバベルが修復されるまでは、マトモに人混みを歩ける奴はいなくなるだろう。

羊頭にマウントポジションをとった私は、そんな他愛もないことを考えながら顔面をボコボコにしてやった。




それから数時間後。


あの後、エーグル共が徒党を組み、徹底抗戦の構えを取り始めた。あわや皆殺しのチャンス到来かとワクワクしていたら、警官連中が武力行使専門の鎮圧部隊を引き連れ、全員纏めてコテンパンにして行った。


「うぅ…顔が痛い」


唇を切り、頬が腫れ、ボロボロになった私は、せっかくの美少女(自称)が台無しになっている。


「アイツほんとふざけんなよ。世界重要文化財たる私の顔を殴るとか、頭おかしいんじゃない?黙って殴られとけよ」


あの羊頭に逆襲されてボコられた私は、ブツブツと文句を言いながら治癒の補助魔術を使い、傷を治しながら自宅にむけてノロノロと歩いている。


「ケッ!それに警官共もだ。事故に見せかけてヤっちゃえよ!バレないって!なんでお行儀よくしてんのか理解できん」


不完全燃焼気味の私は、怒り心頭。

至極真っ当なお仕事をこなした警察官の皆様にも文句を垂れる。


この街の建前では、表通りを警察が仕切り、裏通りを黒死会傘下のマフィア共が仕切っている事になっている。

無論、下層区画まで行けば話は別だが、貴族街に近い港付近に警官が出張ってきたのは当然だった。


人混みはあるが比較的治安の良い貴族街を通り抜け、自宅を目指す私は路地裏にぶっ倒れてる黒い塊を見つけた。


「お〜い、生きてる〜?」


一応声をかけて意識があるか確認してみる。


「uuu,,,onakasuitayoo」


なんて言ってるか解らん。たしかこの言語の雰囲気はユグル大陸の東側の言語圏だったと思うけど、如何せん関わりが無かったから勉強していない。エーグルドレ圏の言語は勉強したのだが。


「お〜い、大丈夫かー?路地裏で寝てたら身ぐるみ剥がされるぞー」


「uu、へ、へるぷみー」


なるほど、拙いながらもアストラリスで使われる言語で助けを求める知能はあったらしい。もし、エーグル共の言葉で話しかけて来たらトドメを刺すところだった。命拾いしたな、辺境国家の田舎者。(ナチュラル差別)

え?ニーズヘッグも辺境だろって?ここは最先端って言うんだよ!


「なんかお前ボロっちいな。立派な翼が泣いてるぞ」


そう、このうつ伏せで倒れてる全身黒い女。なんと黒い翼が生えている。鱗も付いてるし尻尾も生えてるからドラゴニュートなのは確実だろう。


「仕方ない、翻訳魔術使ってやるか。身ぐるみ剥がされて標本にされたら可哀想だし」


溜息をついた私は祝詞を唄う。


【バベルの塔は崩れない。知恵の灯火は世界を遍き、城下の人は火花を享受する。詩篇は詠われ、戯曲は謡われ、罪人は詭弁を謳う。この学徒に火の粉の温もりを。】


靴裏に隠してあった金貨一枚を触媒にして、小規模かつ短期間だが効果はバッチリな翻訳魔術を田舎者にかけた。


「あ、あれぇ?声が、変な感じする」


顔を上げて喉を触りながら目をパチクリさせている田舎者。

顔がよく見えるようになったが、田舎者にしては意外とカワイイな。私には届かないが。


「気づいた?私が君に翻訳魔術かけてあげたんだよ。感謝してね」


「あ!ありがとう御座います!言葉が通じず困っていたのです!」


倒れていた姿勢を正し、正座になったことで黒の長髪がサラリと滑り、大きな胸元に垂れた。


「ふ〜ん。それで?なんで行き倒れてたの?」


こういう時は相手に自主的に喋らせ、今後のイニシアチブを取りやすくするに限る。


「ご存知とは思いますが、突然言葉が通じなくなったあの日。此方(コナタ)はその日に職場を解雇されてしまい、街に着いたばかりなものでしたから路銀も尽き、物乞いに身を窶すところだったのです」


「なるほど、それで?」


顎を突き出して話の続きを促す。


「ええと、それで、お恥ずかしいのですが、何か食べ物を恵んで戴けると、幸甚の至りでございます」


上目遣いで語りかけてくる。


「ふ〜ん。どうしよっかなぁー?」


チラ?


「コナタに出来ることでしたら何でも致しますのでどうか御慈悲を!お腹が減って、おヘソと背中がくっつきそうなのであります!即身仏には成りとう御座いません!どうか!」


「へえ〜!何でもするんだ!」


「はい!」


私は満面の笑みで手を差し伸べてあげる。


ウェンディは"オトモダチ"をゲットした!




啓かれた知識

素晴らしき治安維持組織

『不正!腐敗!の不道徳!

まさにコラプトオフィサー!コラプトシティー!

安全に甘い蜜を啜りたい?そんなあなたもご安心!実力行使は他の者にやらせなさい!路地裏のお兄さんと仲良くするだけであなたも即日富豪の仲間入り!?

でも気を付けて!たまに正義漢ぶった巫山戯た奴が入ってくるから!そんな奴は皆で囲ってリンチ!リンチ!リンチ!

隠蔽!改竄!抹消はお手の物!

貴族街で悪さをしなければ見逃される!

そんな理想郷ニーズヘッグ警察局!

あなたの応募を待ってます!』

路地裏に貼られた、皮肉を込めたポスター

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