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13話 彼らの日常

共同生活4日目 軍港の執務室にて


「ソニア〜、今何やってるの〜?」


ソニアの長い金髪に背後から顔を埋め質問する。


「此度の戦闘によって壊滅した中央部の復興に関する予算案の認可だ」


ここで少し補足すると、港にはいくつかの埠頭がある。

一番南に漁港があり、その他に木材、鉄鉱、穀物などの荷を下ろす埠頭が南側の区画に集中している。

中央部にはコンテナや木箱を下ろす埠頭があり、倉庫区画もここに隣接している。

そして少し北に行くと客船のターミナルがあり、そこから距離をおいてパイロットが所有する軍港がある。

今回壊滅したのはコンテナ埠頭だ。


「更地になったからね。元に戻すのにいくらかかるのか想像できないや」


「いや、新しく整備し直す予定だ。もともと処理能力に限界が来ててな、積荷の処理が滞り始めていたところだったし、良い機会だ」


「あ〜木箱、めっちゃ積んであったもんね。で?いくら?」


想像がつかない金額を、野次馬根性で期待して聞いてみる。


「まぁ、積荷の補償と合わせて概算だが550億といったところか。」


「高いね!」「安いな」


「「え?」」


「「····」」


そういえばソニアは海運を司ってるんだった。

海運は分かる。だってここに停泊してる船、全部キャプテンの支配下にあるもん。

しかもこれだけじゃない。世界各地の港や海峡の土地を買いまくり、船は買収し、冗談抜きに海運による世界経済を手中に収めようと計画してる、ビッグカンパニーも真っ青なヤベー奴なのだ。

海軍じゃなくて海運を司ると言われているのは、その規模が大きすぎるから故。


「コホン!と、ところでバベルの件、怒られなかったの?」


「知らん。そろそろ担当者から一次報告が来るはずだが」


コンコンコン、


「失礼します。キャプテン、バベルの塔の修繕費用の概算が上がりました」


「うむ。ご苦労、見せてくれ」


ペラペラと紙をめくる音が室内に響く。

私と報告に来てくれた男性は固唾を飲んで見守る。私の膝上に座り、一層威厳がなくなっているキャプテンを。


「なるほど、わかった」


サラサラと書類にサインしていく


「な、なんて書いてあったの?」


ドキドキしながら聞いてみる。


ソニアは一拍置いて呟いた。


「ふふ、バベルの塔って存外安いな」




共同生活5日目 戦艦ラーン防空指揮所にて


私達は艦隊を率いて南の海に来ていた。


「こっちはだいぶ暖かいね!」


白波を立て、煙を吹き出しながら進む戦艦ラーンの防空指揮所から水平線を眺める。


「ああ、赤道にだいぶ近くなったからな。それに、ここの海流は赤道から流れてくるから余計にな」


私達が出発したのは昨日の夕方。どうやら元々この近海で海賊狩りをしていたらしく、その続きを終わらせに行くのだとか。


三泊四日の予定で、海賊共が根城にしている島は特定しているから、あとは鴨撃ちだと、ソニアが面倒くさそうに言っていた。


時速は凡そ37ノット(70km/h)で進んでいるから、かなり速い。そのせいで屋外にある防空指揮所に吹く風はかなり強く、貸してもらったマリン帽が飛びそうだ。


「到着時刻は本日の深夜になる。そのまま作戦行動に移るが予定だ、それまで暇になるがどうする?」


「なんで深夜?」


海戦なら明るいほうが遣り易そうだけど。


「海賊船は足が速い。船舶用魔鉱煙(ボイラーから出る煙)は水平線からでも視認されやすいからな。視認リスクが減る夜間に接近して逃げ出す隙を与えぬためだ」


なるほどね


「室内でボードゲームかな。ここは風が強すぎる」


クルー達とも遊べて仲良くなれる良い機会だ。


「では戻ろう。ゲームはみなでキャプテン危機一髪でもやろうか」





時刻は深夜23時


艦橋指揮所ではいくつかの補助魔術が展開され、魔術による目標の視認と弾道計算が行われている。


「偵察班、目標は?」


「イエス、キャプテン。目標を確認しました。距離15,600ヤード(14.2km)、目標に動きなし」


「砲術士官、目標を捉えたか?」


「イエス、キャプテン。目標、捕捉しました。弾頭の装填は完了済みです」


「射撃管制、目標の座標を確認し、照準あわせ」


「イエス、キャプテン。座標確認完了。方位173度、仰角6.215度に設定」


補助魔術に入力されたデータは即座に砲撃に必要な情報を計算し、射撃管制員に知らせる。


「一番及び二番主砲塔、照準あわせ。初弾発射準備」


「Roger。一番及び二番主砲塔照準完了。初弾発射準備完了。いつでもいけます」


砲術士官から合図がくる。


キャプテンは気負う事なく命令を下す。


「では諸君、無粋な侵犯者には海にお還り願おう。初弾発射」


「初弾発射!」


砲術士官が復唱し、砲撃音が昏い海に轟く。


「着弾確認。目標に命中。海賊船2隻撃破を確認。目標更新、次弾装填急げ、仰角を0.2度プラスに修正、続いて…」


射撃管制から次々と矢継ぎに指示が飛び交い、一方的な殲滅戦を披露する様は、彼らの練度の高さと、これが鴨撃ちであることを思い出させた。


「おお〜!凄いもんだね。まさに鴨撃ちってやつだ」


艦長席の後ろから抱きついている私は、感嘆の声をあげる。


「これくらいは当然だ。所詮は有象無象の集まりに過ぎん」


つまらなさそうに答えるソニア。


「じゃあなんで艦隊できたの?巡洋艦だけでもいけそうだけど」


「言っていなかったか?ここらはエーグルドレの縄張りに近くてな。たまに奴らの艦隊が通るんだ」


「もしかして戦闘に?」


「場合によってはな」


彼女は心底面倒くさそうに溜息をついた。




共同生活6日目 戦艦ラーン医務室にて


現在の時刻は夕方。


あの後朝日が昇ってから、海賊の拠点となっていた無人島の掃討作戦が行われた。


全ては順調の名のもとに終わり、私達は帰路についた。そして、私とソニアの共同生活も終わりを告げられていた。


「え〜と、ですからね、おめでとうございます。ウェンディさん。汚染の除去が確認されました。それに、ソニアちゃんもこれまでご苦労さまでした。ですから、もう、接触は必要ないというわけですね。ええ、はい。」


無慈悲に告げられた完治宣言。


「うぅ〜離したくない〜」


ソニアに抱きつき、喉をゴロゴロ鳴らしながら不平を垂れる私。


「別に今生の別れでもないだろ。陸に上がった後も会いに来れば良い。他のクルーもきっと喜ぶ」


優しく諭してくれるソニア。


「うぅ〜合法的にソニアのお腹を撫でれなくなる。ツライ」


暖かくて手触りが良く、両手で抱くに適度な大きさのソニアのお腹は、私のお気に入りになっていた。


「おい、ちょっと待て。考えが変わった。今すぐその手を離せ」


怪力で無理やり手を解き、スーカ先生の後ろに退避するソニア。


「あぁ…私の湯たんぽ…」


「こ、コイツ!会った時よりも、ふてぶてしくなってないか!?」


そして終わった共同生活。

後は家に帰るだけ…。

職場に無断欠勤1週間。

う、頭痛が、呪いかも。





啓かれた知識

正式名称 グランデ・レーニョ・エーグルドレ

絶滅を免れた人々が生きていた大陸である、ユグル大陸の西端。そのやや南にある王政国家。

国旗にはバジルの葉と昇りゆく太陽、黄金の鷲が描かれている。

通称はエーグルドレ王国

ニーズヘッグの領有権を巡って大きな戦争が起きたこともあり、現在、ニーズヘッグを所有しているアストラリス・インペリウムとは犬猿の仲である。

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