11.5話 その頃、あの人は
その頃、ロック事務所屋上にて
「あらあら、随分と派手にやってるわねぇ」
テーブルにパラソルを設置し、一人お茶会を開催していたのはベル・クッシュマン
「予測済みの事態とはいえ、どれほどの経済的損失が出るか…ふふ、考えたくもないわ」
銅で縁取られた古い双眼鏡から目を離し、背後から歩いてきた男に振り返る。
「レディの後ろからこっそり近づくものではないわよ?ガルウィッチ」
「ハハ、お気づきでしたか。姐さん」
彼は赤髪のガルウィッチ・ガーノルド。主にバロックの護衛を務めている。
「それで、お仕事はいいのかしら?ボスは執務室に居たはずだけれど」
ガルウィッチは今の時間、執務室前で見張りを行っている筈だ。
「それが一人で出かけちまいやして、護衛は不要とも」
「あらあら、振られちゃったのね。でも丁度よかった。一人のお茶会は寂しかったの。よければ付き合って?」
「勿論、最初からそのつもりですよ、レディ」
お茶会は続く、遠くで鳴り響く戦火の音色をおつまみに。
その頃、中層区画南東のとある下水道にて
「おい!今の揺れわかったか?」
「ああ、確かに揺れたな。地震か?」
「わからん、地震なんて滅多に起きるもんじゃねえ。取り敢えず全員上がらせよう」
「おう、そうだな。おい、お前達!全員上がれ!作業は一旦中止だ!」
清掃員たちがゾロゾロと、武器を含んだ掃除道具一式を抱えて、ハシゴを登っていく。
最後に忘れ物がないかランプを片手に見回したビリーは下水道を後にした。
そして下水道を登った先で、彼らは天変地異の前触れを目撃した。
「な、な、ななななんてこっちゃー!バベルが燃えてやがる!」
清掃員一同ぽか〜んと顎を外し、棒立ちとなりながらバベルの塔を見上げる。
雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ、そんな丈夫なバベルの塔が!
煙を噴き出し燃えている!
「嗚呼、愛しの、バベルちゃんがぁ…、どうしてだよォ゙オオオ!」
どうやら清掃員の中には"バベルちゃん愛玩倶楽部"などという、変態共が集う社交場の一員が混じっていたらしい。
アイツは後で粛清しておこう。
ビリーは決意した。
「おいおいビリー、こりゃ一体どういうことだ」
「どういうことって、バベルが?それともアイツが?」
「バベルに決まってんだろ」
もう一度バベルを見上げる。
やはり、燃えている。何度も瞬きをし、目を擦るが、原因が全く持ってわからない。
爆発事故でも起きたのだろうか?
「いや、わっかんねぇ。お前は何か思いつくか?」
「さぁ?」
肩を竦めるジェスチャーを返された。
「嗚呼、でも、傷つくバベルちゃん、それはそれで…興奮する!!!」
その頃、貴族街中心デュークの館にて
「始まったか」
カタリとペンを置き、窓の前に立つ人影。
「さて、今回はどうなるか。前回は態々止めてやったのだっけ。死んでくれるなよ?お嬢さん」
啓かれた知識
聖なる口づけ
聖なる口づけとは親愛なる兄弟が行なう挨拶のこと。
そこから転じて、口づけを行うことで兄弟であることを示し、魔術的なつながりを持てる。
口づけの場所は基本的には手の甲だが、詳しい文献は散佚しているため、ソニアは確証を得られなかった。




