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死に際マシナリー  作者: 桐ケ谷漣
〈顧客file.01 窓辺の君へ〉
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データログ4 過去

用語

「人類間戦争」:早見紗奈の時代からおよそ五十年前に終結した戦争。旧人類と新人類との間で起こった戦争よりその名前がついた。


「人類間相互不可侵条約」:百年に渡る戦争の末、アメリカを含む北アメリカ、南アメリカ及びヨーロッパでの新人類の自治が行われることが決定し、主にアジア圏で旧人類の自治が行われることが決定した条約、これにより先進国が互いに抑制し合う体制が出来上がり相互の不可侵を約束した。

「ふぅー、結構食べましたぁ。ごちそうさまです」

 一時間ほど経ったでしょうか。メインの食事を終えた私たちはティータイムを始めようとしていました。

「お粗末様です」

 夜見さんは準備したときと同じように滑らかに片付けをしていきます。

 夜見さんとの食事はとても楽しかったです。六年ぶりの誰かとの食事、楽しくない訳ありません。料理の味付けについて聞いてみたり、夜見さんも誰かと食事するのは久々だという話をしたり、他にもたくさん。他の人からしたら他愛のない話かもしれないけれど、私はどれもこれも楽しく感じました。

 そうそう、夜見さんのBLTサンドイッチにはメープルシロップが少量、隠し味として使われているそうです。他にもコーンスープに使ってあるコーンは自家製なんだとか。つくづく夜見さんはすごい人だなぁと思います。

「お飲み物、いかがなさいますか?」

 片付けを終えた夜見さんが私にそう聞いてきます。私は「紅茶をお願いします」、と言いクッキーを一つ手に取り頬張ります。

「んーー!クッキーも美味しいです!」

「お口にあって何よりです。こちらお紅茶の方になります」

「ありがとうございます!」

 カップを手に取り紅茶を一口飲んだ瞬間。クッキーの残っていたほのかな甘さと紅茶の特有の香りがマッチして口の中が幸せになります。

「……お隣、失礼します」

 夜見さんは、自分の分の飲み物を用意すると私の隣に座り紅茶を一口飲みました。

「……私について聞きたいのでしたね、何から話しましょうか」

 夜見さんはカップから口を離すと、話し始めました。

「私はこの仕事に就く前、家政婦をしていました。いわゆるメイドと言われるようなものですね」

 私は夜見さんの話を静かに聞いていました。

「もう、何年も前の話です。ここから遠い遠い場所で私は倒れていました。誰も入ってこないような路地裏で、蝿にたかられながら野宿する生活を送っていました。そこを助けてくださったのが永瀬古市ふるいち様でした。」

「永瀬古市って歴史の教科書に載っている人ですよね?」

「よく御存知ですね」

 永瀬古市という人物は歴史の教科書を開けばどこの国のものだったとしても必ず載っている人物です。ですが、私の知る限り彼女は七十年以上前に亡くなったはずです。

「ちょっと待ってください、ってことは夜見さん、今いくつなんですか?」

「……百三十から先は数えていません」

 えぇ、って感じでした。

「もう、お気づきかもしれませんが、私はこの国に住まわれている皆様とは違います、寿命をなくした、新人類です……このような身の上でありますが、古市様は私に良くしてくださいました。ボロ雑巾のような見た目の私を引き取り、温かい食事と綺麗な服を与えてくださり、人としての最低限の教養と作法を教えてくださり、職を与えてださりました」

 夜見さんは目を閉じて自分の胸に手を当てます。きっと、昔のことを思い出しているんでしょう。

「永瀬美夜、という名前に聞き覚えはありませんか?」

「永瀬美夜って言うと人類間相互不可侵条約を結んだ人ですよね」

「その通りです」

 夜見さんは目を開き、紅茶の水面を見つめました。

「では、永瀬愁斗、という名前を聞いたことがありますか?」

 突然夜見さんがそんな事を言ってきました。

「すみません、ぱっとは出てきません」

 永瀬美夜という方は教科書に載っていて今なら小学生で習う人名です。しかし、永瀬愁斗という方は初めて聞きました。

 夜見さんは先程から見つめていた紅茶を手に取り一口飲みます。

「……でしょうね」

 夜見さんは少し悲しげな顔を浮かべました。

「本当は人類間相互不可侵条約を締結させたのは永瀬愁斗、という人物なのです。いつの間にか、忘れ去られてしまったのですね……」

 夜見さんは手に持っていたカップをテーブルに置き、そっと目を閉じました。

「私は昔、ある男性を愛していました。しかし、彼は旧人類で病気でなくなりました。私はその時疑問に思ったんです。なんで私は死なないで彼は死んでしまったのだろうと、何故こんなにも頑張った彼が死んで名前も残らず、私だけが……って」

「夜見さん……」

 聞かなくてもわかる。きっとその男性というのは先程名前の挙がった、永瀬愁斗という人物なのでしょう。

「でも、死ぬ間際に彼がおっしゃったんです。自分の人生の後悔しない終点を探すのが人間の生きる意味だ、と。そこには新人類も旧人類も関係ないんだ、と。だから私は自分自身の人生の終点を探しているんです。その終点が私自身の死なのか、それとも別の物なのか、それを知るために私は働いています」

 夜見さんは、そっと椅子から立ち上がり、私に背を向けました。

「少々ここに長居しすぎましたね。このままでは日が暮れてしまいます。目的地の方に急ぎましょうか」

「……そうですね」

 気がつくともう既に太陽は西の方角に少し傾いていました。その時は陽の光が強くて見えませんでしたが、夜見さんの頬に微かに光の粒が一滴流れるのが見えたような気がしました……

本文書くよりも用語の説明のほうが書くのむずいっす

あ、それとあらすじに関して誤字を発見したので修正してます

「百年前」→「二百年前」

すみませんでした

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