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死に際マシナリー  作者: 桐ケ谷漣
〈顧客file.01 窓辺の君へ〉
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データログ1 死に際マシナリー

新連載始めようかと、諸事情あって前作と前々作は削除しました。

これは十分のできるペースで書いていこうと思います。のんびり読んでいただけるとありがたいです。

 とある病室の一角。桜の木の見える窓側のベッドの上に私はいます。桜の木は既に全ての葉を落としきり、幹と枝だけのなんとも味気ない姿になっています。


 昔、事故によって両足を失って以来、この病院に入院して今年で五年目になります。いえ、今日が一月三日なので六年目に入りました。今年で十八歳になるというのに成人したという実感は湧きません。

 この五年間、私の話し相手といったら一日に三度の食事を持ってきてくれる看護師さんくらいです。しかし、看護師さんも、五年間も入院していたら変わっていきます。最近ではもう知ってる人が居なくなり、人と話す機会なんて殆どなくなってしまいました。

「早見紗奈さん。起きてますか?」

「はーい」

 噂をすればなんとやらです。看護師のお姉さんが病室の部屋を開けてきました。手にはこの五年間で食べ慣れた病院食が乗せられています。

「今日の分の朝ごはんですよ。………それでは失礼しますね。食べ終わったらそのまま置いておいてください。また、お昼ごはんの時に取りに来ますね」

 そう言うと、看護師のお姉さんは私のベッドに備え付けられているテーブルに病院食を置き、どこかに行ってしまいました。お医者様や看護師さんたちは、きっと忙しいのでしょう。でも少し寂しいです。

 病院食は慣れてしまうと全然美味しいんですよ。知っていましたか?

 今日のメニューはクレープサンド、ペイザインヌスープ、牛乳の三つです。どういうふうに作られて、何を使って調理しているのかは知りませんが、とっても美味しいんですよ。育ち盛りの私にとっては少し物足りなく感じますが。クレープサンドには野菜が挟まれていて、栄養バランスをとことん考えている献立なんだなと感じます。

 朝ごはんを食べると、検査の時間です。ベッドについているボタンを押すと、静かだった病室に大きな機械音が鳴り出し、私の体を自動的に機械がスキャンし出します。

 ベッドの横からアームが出てきて、寝そべっている私をつま先から頭のてっぺんまでくまなくスキャンしていきます。初めてここに来てこの検査を受けて時は、体の中を変なのが這いずり回る感覚があって少し気味が悪かったですが、時間とは恐ろしいものです。六年目ともなればなんの違和感もなく非日常ですら日常になってしまうのですから。

 十分ほどベッドの上で横になっていると検査は終わります。検査が終わるとまた病室は静かになります。そうすると、私の隣に置いてある私のバイタルをチェックする機械がピコンと小さく音を鳴らします。

 そこには私の心拍数や血圧、血糖値などが表示されます。どれも正常値で安定しています。しかし、右下に小さく表示されている文字が私の胸をきつく締め付けます。

『余命 三十八日』

 私は、後一ヶ月ちょっとで死んでしまうらしいです──


 お昼ご飯を食べ、午後になると基本的には自由になります。勿論自分一人では動くことなんてできませんし、することと言ったらネットサーフィンだけです。

 いつも通り、ブラウザを開くと出てくるディスカバーの欄を、ただただ眺めます。興味がある記事を見つけたら読むんです。その繰り返しです。

 今日気になった記事は、私が知っている人気女優の牧野梓さんが芸能界を引退したということです。数々のドラマ、映画に出演し、皆から愛され絶賛される世界的スターがまた一人活躍の場から去っていくということで私自身一人のファンとして、とても悲しく感じました。

 他にも色々な記事が私の目の前の画面に出てきますが特に興味をそそられるものはありませんでした。いや、今思えば牧野梓さんの引退というニュースがあまりにも衝撃的過ぎて、他のことに興味を感じなくなったというのが正しいと思います。

 もうネットサーフィンもやめて眠りにつこうかと考えていたその時です。私がそのサイトを見つけたのは……

「………ん?なんだろう、このサイト」

 そこには大きく『看取り人』の四文字がありました。その時の私は何故かこの四文字に魔性の魅力を感じました。なんと言えばいいのでしょう。運命、とでも言うのでしょうか?

 とにかく、その時の私は、無意識のうちにそのリンクを踏んでいました。

 そのサイトの一番上には、サービス内容が書かれていました。

『弊社『死に際マシナリー』は、この世界から旅立たれる皆様に最初で最後のサービスを提供させていただきます。』

 出だしにはそう書かれていました。

「えっと、なになに……弊社は旧人類の皆様の特権である『死』を最大限尊重し、最期にふさわしい、サービスを提供させていただきます。なんだこれ?」

 惹かれはしましたが、いざ見てみると一体どういうサービスなのかよくわからなかったです。

 画面をスクロールするとその下に文章は続いていました。

「あ、続きだ。……えっと、弊社の社員が皆様のもとに赴き、身の回りのお世話を始めとし、皆様が心地よく逝けるよう、誠心誠意をもって皆様の最期を看取らせていただきます?」

 つまりは、私が死ぬとき看取ってくれるということなのでしょうか?

 さらに下にスクロールすると依頼料と契約方針が書かれていました。

「えっと、依頼料が……三十万!」

 そのあまりにも桁違いの金額に私は目を丸くせざるを得ませんでした。「流石にこれは」と、サイトを閉じようとした時「プラン」という文字が目に入ってきました。

「うへぇ、どのプランも高いんだね。何なら三十万より全部高いし」

 プランという文字の近くには顔写真と、名前、そして契約内容が書かれていました。例えば、この人は料理が得意です。とか、この人はアイロンがけが苦手です。といったような、職員さんの自己紹介のようなものが書かれていました。こういうのを見ると、実際に見たことはないのですが、キャバクラの指名と似たような雰囲気を感じました。私にはまだ早いと思いますが、エッチなサービスを許可している人もちらほら見られました。そういうのを見ていると、キャバクラというよりか、風俗店とか、デリヘルとかのほうが近いのでしょうか?実際には見たことなんてありませんからわかんないですが。

「三十二万、三十五万、四十万!流石に高すぎだよ」

 別に依頼しようとは考えていなかったのに、いつの間にか私はそのサイトにのめり込んでしまっていました。もう諦めてサイトを閉じようとした時でした。

「え、この人、依頼費用無料!それに、得意不得意無しって……何でこんな人が無料なんだろう」

 美人な女性の方の顔写真とともに掲載されている情報は他の人と比べて異質でした。


『社員番号01「永世夜見」

得意なこと 無し

不得意なこと 無し

許容できない事項 無し』


 あまりの驚愕の事実に私は思わずひっくり返りそうになりました。言い方は悪いかもしれませんが、他の人たちよりも圧倒的に綺麗な人でした。

「綺麗な女の人だなぁ。本当に何でこの人は無料なんだろう?」

 ふと顔を上げてみると、殺風景な静かな病室に私一人。窓の外を見てみると深々と雪が降っています。音のない空間に自分だけがいるということを自覚した途端、私の中に、ある景色が浮かんだんです。それは、家族が全員死ぬ景色です。

 あれは、今日より酷い雪の日でした。祖父母のお墓参りの帰り道、私、姉、父、母の四人は事故に遭いました。雪の中、居眠り運転をしていたトラックと正面衝突をしたのです。まるで、祖父母の跡を追うように、私以外のその場にいた人は全員死亡しました。かくいう私も、脊髄の損傷によって下半身不全になってしまいました。脚も、切断してしまって今はもうありません。

 その日からです、私の日常に孤独というものが住みつくようになったのは──

「……よし」

 そして私は決心しました。私たちに許された『死』という特権を思う存分使ってやろうじゃないかって、自分の最期くらい華やかに散らして見せようって。

 気が付けば、私は『看取り人』の依頼ボタンをクリックしていました。

その後『利用規約』と書かれたページが出てきましたが固い言葉で書かれていて正直何を言っているのかわかりませんでしたので、とりあえず同意というボックスにチェックを入れました。

その後は個人情報を登録する画面に切り替わり、自分の名前、年齢、現在住んでいる住所、何故サービスを受けるのか、余命などなど。その質問内容はあらかじめ私のことを知っていたかのような内容で少し、気味悪かったです。

 登録し終わると、『依頼受理完了』と大きく表示された画面になりました。

「これで、とりあえずいいのかな。……えっと、担当者は依頼から三日後に到着します、ってことは一月六日に来るのかな。カレンダーに入れとかないと!」

 そうして、私はカレンダーのアプリの一月六日の欄に『看取り人さん到着』と予定を入れ、その日はまだ夕方で、日が傾き始めた頃でしたが、早々と眠りにつきました。まぁ、晩御飯の時間に看護師さんに起こされたんですけどね。

さて、前書きにも書きましたが新連載です。私の過去作を読んでくださった方がもし今回も読んでくださっているならそれはとてもありがたいです。

気ままに短編小説も書いていくつもりなのでそちらも是非お願いします。

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