9
ある日のこと─
それは定時間際のことだった。
先輩は仕事関係のことでクレーム対応をしていた。
その日、私は仕事が一段落着いたので帰ろうとしていた。
その時、そのクレームを入れたという人をAさんとするなら、Aさんが職場の出入り口に立って先輩を待っているという話を聞いた。
何とか職員で違う出口から先輩を帰らせようと試行錯誤して、結果としては先輩は無事に帰る事が出来た。
しかし、私は一つの違和感があった。
Aさんは普段は穏やかで真面目な人だった。
けれども、先輩も真面目で人当たりもいいはずだ。
そう思うのに違和感を拭えなかったのは思い当たる節があったからだ。
それは先輩は他の人からの言葉にはあまり耳を傾けない傾向があることだった。
その時の私は、何か問題が生じた時それには何か理由も原因もあるもので片側だけが悪いということなどない、という考え方が強かった。
しかし先輩は、自分や自分の家族の考えと異なる場合は相手が非常識だからその時の感情としては自分が怒れるものになる、相手の言葉は受け付けないという傾向にあった。
ずっと言わない方がいい、言う資格もないと思ってきたことだった。
それが気が付けば悪循環してこのような事態を招いたのではないか、その時の私は更に何か起きるのではと嫌な予感がした。
嫌なことに大概そういう直感というのは当たるものだ。