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愛おしくて何度も彼女の名前を口にする。
家に帰っても家族にも、風呂の鼻歌だって、彼女の名前を言う。
バカみたいに大好きで、バカみたいに大切で。
愛おしくて大切で、いつの間にか彼女の存在がとても離れがたいものになっていた。
嬉しくて大事で可愛くてご飯の時もずっと見てしまう。
笑う彼女が愛おしい。
少しドジな彼女をいつも心配してしまう。
俺はまだ彼女から「好き」という言葉を聞いていない。
“先輩”と彼女は言う。
敬語で話す。
俺は彼女より4つも歳が上だ。
まだ彼女にとっては“先輩”なのだろうか。
「どうしたものか。」
俺はまだ彼女に恋愛感情を向けられていないのだろうか。
時々今は不安になる。
気分転換に彼女の名前を言いながら風呂で熱唱した。
「……アンタ、何してんの。」
カラカラっと風呂の戸を開けながら母親にツッコミを入れられた。
思わず驚いて彼女の名前を呟いた。
「びゃぁこ…。」
その時の母親の顔は明らかに呆れていた。