7
水族館の魚の子達を見た後私達は昼食を食べにファミレスに入った。
「…あの、何か付いていますか?」
ついに耐えかねた私が彼にそう尋ねると、
「んー、いや?」
と彼はニコニコしながら、再び私と顔をじーっと見つめる。
「あの、食べにくいのですが。」
思わずそう言うと、
「あ、ごめんごめん。いや、食べているなぁと思ってさ。」
彼は嬉しそうに答えた。
「そりゃ、昼食だから食べますよ。」
と私が答えるとニマッと笑った。
「ずっと見ていられるよ、食べているなぁと。」
幸せそうにそう言う彼を見て私は少し照れくさくなった。何と返せばいいのか戸惑っていると不意に彼は、
「ねぇ、いつまで敬語なの?」
と言った。
「…慣れるまで。」
私がそう言うと、
「やだ。」
やだって貴方ねと心の中で私はツッコミを入れた。
「…癖なんです。」
私がそう言うと、
「嫌なんですー。」
と私の真似をしてニッコリと彼はそう答えた。
「えぇ……。」
そう、彼は譲る気がなかった。
「それと、プライベートは“先輩”も嫌だなー。」
注文の多い先輩に対して私は、
「じゃあ、なんて呼べばいいんですか。」
と少しふてくされて聞いた。
「あ、怒った。かわいい。」
そう言う先輩に対してまた私はふてくされて
「悪趣味。」と答えた。
「俺が“としはる”だから家族はとしちゃんって呼ぶからそれでもいいけど、としくんとかがいいかな。」
と彼が切り出した。
「としちゃんってアイドルみたい(笑)」
と私が吹き笑いすると、
「としくん。」と彼が少し拗ねた。
「ごめんなさい。」と少し笑ってそう言いながら私は続けて「としくん。」と呼ぶと、
「わこちゃん。」と彼はニコニコした顔で答えた。
「ちゃん付けは聞き慣れないですね。」
「じゃあ、“わこ”?…少し照れくさいな。」
そう答える彼はどこか幸せそうで、やっぱりそんな彼を見ると私もまた嬉しくなった。
「としくん。……としくん。としくん!」
嬉しくなって何度も呼んでみた。
「はい、どうもとしおです。はい、はい!」
名前を呼ぶ度彼は返事をした。
面白しくて嬉しくて、多分私は少しずつ彼を好きになっている。
少しずつ彼が大事になっているんだ。
好きになる、人に無関心だった私から最も遠い感情かと思っていた。
私の中で少しずつ彼の存在が溶け始めてきた。