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「ね、手をつなぎたい。嫌じゃなければだけど。」
水族館に向かう途中、唐突に彼はそう言った。
「いいですよ。」
「はい。」と私は言いながら手のひらで上から彼の指4本をガシッと持った。
「んー、ん…?思っていたのと違います、パイセン。」
そう彼は首を傾け、眉間にシワを寄せながら冗談交じりに言った。
「え?手を繋ぐのでしょう、こうやって。」
私はもう一度「ほら。そもそも先輩は自分でしょ。」と呟きながら彼に繋いだ手を見せると、
「これ迷子の子繋ぎ方!恋人繋ぎが良かったんです!パイセン違います!」
彼は抗議をしながら「こうなの!!」と握り直した。
「…これはあれですね。こうやって上に持ってくと。ほら、目潰しの呪文のポーズです。」
と返すと彼は、
「うわぁぁあ、目がぁぁあ!…じゃないのよ!」
とノリツッコミをした。
「ワクワクしました?」私がそう聞くと、
「普通はドキドキした?って聞くの!」
と笑いながら彼はツッコんだ。
そうかと思い、私は彼に質問した。
「“ドキドキしました?”」
「…何も?手を繋げたのは得をしました。」
割と素直な彼でした。
ドキドキって難しい。