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青が霞む  作者: いつ
10/16

10

Aさんとの一件があって以来、先輩は仕事帰り私と食事に行くことが増えた。

Aさんの愚痴を話すことが先輩にとって主な理由だったが、仕事終わりに先輩と会えることは嬉しい反面、先輩にとってもAさんにとっても悲しい出来事ではあるので何とも言えない複雑な気持ちにもなった。


この日も停車した車の中で彼の話を聞いた。

「毎日毎日大量のクレーム。原稿用紙2、3枚くらいの量。頭がおかしいとしか思えないよ、これは。俺は何も喧嘩腰にも言ってないのに。そんなのにうんうんと聞いていたら俺が認めたことにもなる。頭おかしくなりそう。」

と彼は話した。

「そもそも何でそんなことになったのですか?」

と私が聞くと、

「要求がどんどんどんどん膨らんできたんだよ。そんなのに一々答えてられないよ、仕事だし。」

と彼は言った。

「言い方悪くなりますけど、そういう時は答えなくても感情としては受け止めることも相手にとっては嬉しいことかもしれないですよ?“あぁ、この人は気持ちは分かってくれる”とか。」

と私が言うと、

「そんなの俺には出来ないから。無理よ、ここまでくるともう無理よ。」

とため息混じりに彼は話した。

「疲れますよね。うーん。私は話を聞いてから“仕事としては”と伝えるのと、最初から“無理です”と伝えるのとでは相手の受け止め方も変わってくるのかなと思ったのですけれど…。」と彼に言うと、

「無理よ。無理、あの人頭おかしいよ…。」

彼はそう言いながら車のハンドルをダンッと叩いた。


「働いて良かったことは唯一わこに出会ったことくらいだ。」

彼はそう呟きながら下を向いた。

「ありがとう…。」と私は答えながら少しモヤついた。

その言葉はとても嬉しかった。

しかし、何と言えばいいのか。

彼には相手のことを考える余裕がなかったのか、相手を否定するばかりなのが、その時の私にはとてもモヤっとした。


眉間を抑える彼を見て、彼に黙って車から出てハンカチを水で濡らして絞った。

車に戻ってそれを彼に渡そうと車の扉を開けると、


「黙って行かないで、戻ってこないのかと思った。」

驚いていたとは知らず「ごめん」と謝った。


余裕がないんだな、疲れているんだなとそう思った。


「これで目、冷やしたら気持ちいいかと思って。」

そう言って冷やしたハンカチを渡すと


「このために行ってたの?」

そう聞く彼に私はコクリと首を縦に振り、「どうぞ」とハンカチを渡した。


「冷たくて気持ちいいよ、ありがとう。」

彼はそう疲れ気味に答えた。


モヤっとした。

理由は分からない。

いや、きっと本当は分かっている。

その現実を知りたくないだけだ。

本心を言うと、きっと彼は私のことを否定するだろう、何となくそう思った。

この時の私はそれを見てみぬフリや、冗談で返すことで誤魔化していた。

現状も自分の気持ちも。

それが正解だと思っていた。

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