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第90話 勇者と星まつり


 見事トールを倒した勇者モモガワ一行は、荒野ワイルドッスキャニオンを無事に抜けサンクに着いた。

 ブンブンレンタロー・サンク店へマクーターを返却し店を出ると、上品なたたずまいの男性が近づいてきた。


「勇者モモガワ様とそのお仲間の皆様でよろしかったでしょうか?」

「そうだけど。なんか用?」

「わたくしはアーサー王の使者でございます。皆様をお迎えにあがりました。というわけで、こちらへどうぞ」


 モモガワたちは、半ば強制的にマイクロバスに乗せられた。偉い人やその関係者には逆らえない系の強制イベントだ。


 貸し切りバスの車窓から見えるセントラルパークでは、たくさんの人が行き交っている。

「毎日こんなお祭りみたいな騒がしさなのかよ。やっぱ都会はちげーぜ!」

 モモガワは興奮ぎみに言った。


「明日は星まつり前日祭が催されます。あさっては星まつりの本番になります。セントラルパークだけでなく近隣の商店街にも屋台が出るので、本日は準備でどこも大忙しのようです」

 使者の人が教えてくれた。

「し、知ってたし」

 モモガワは田舎者だとバレないように取り繕った。


 しばらく進むと行く先に大きな城が見えてきた。

 城門前には、『歓迎、勇者御一行様』と書かれたボードが掲示されている。

 モモガワは、地方の温泉旅館みたいだなと思った。


 アーサー王に謁見することとなった。

 アーサー王は上機嫌な様子で筋肉について一方的に語った。そして、胸筋をピクピクさせながら言った。

「人間1人に獣人3人パーティという、種族を越えた絆はすばらしい。そうだ、いい話をしてやろう」

 こういう偉い人って話が長いんだよな、ありがた迷惑なんだよなーとモモガワは思った。


 アーサー王は、玉座の後ろから1本の矢を取り出して言った。

「1本の矢だと」

 アーサー王は矢の両端を持つと、軽々と折った。

「簡単に折れる」

 次にアーサー王は、玉座の後ろから矢の束を取り出して言った。

「しかし、10本の矢だと……」

 アーサー王は束ねた10本の矢の両端を持つと「ぬおりゃー!」と気合をいれた。10本の矢は見事に折れた。

「このように、折れる。つまり……」

「つまり?」

「マッチョになれ!」


 モモガワは思った。だから何だ。

「ありがたいお話をしていただき、ありがとうございます」

 トリゴエはどんなときも礼節を欠かさない。

「やっぱ筋肉は裏切らねーな」

 イヌコマは、とにかく筋肉があれば物事を解決できることに賛同だ。

「わーい、マッチョ王だー」

 サルミダは話の内容を理解していない。


 その日の晩は勇者歓迎パーティーが開かれた。

 その後、モモガワたちは豪華な客室を一部屋ずつ与えられ、ふかふかのベッドで眠りについた。


 翌朝、アーサー王から重大な任務を受けた。

 南の洞窟にある星の石を取ってくるという内容だ。ベヒーモスという巨大なウシのモンスターがいるので、石を取ってこられなくて困っているらしい。

 モモガワは、早くお祭りを楽しみたいので本当は断りたかったが、さすがに王様からの頼みごとは断れない。午前中にさっさと片付けてしまおうと思った。


 早々に洞窟へと出かけ、最深部までたどり着いた。草が生い茂っている空間の中心に、巨大なウシのモンスターが眠っている。どうやらコイツがベヒーモスのようだ。


「かなり巨大ですね。まずはどんな弱点があるか調べましょう」

 トリゴエは計画的かつ合理的に物事を進めたい派だ。

「そんなまどろっこしいことやってられるか。さっさと倒して石をゲットするぜ!」

 モモガワは剣を引き抜くとベヒーモスへと向かっていく。

「俺様も行くぜ!」

 イヌコマも後に続く。

「わーい。でっかいモンスターだー」

 サルミダも後に続く。

「あ、ちょっと待ちなさい! もう、しょうがないですね」

 トリゴエはしぶしぶ3人の後に続く。


 モモガワたちが草の生えた空間に入ると、まるでスイッチが入ったおもちゃのようにベヒーモスが突如、起き上がり、モモガワたちに襲いかかってきた。


 モモガワたちの激しい攻撃がベヒーモスにさく裂する。しかし、ベヒーモスの傷がすぐに回復してしまう。攻撃を避けようとせず、ひたすら激しく動き回って攻撃をしてくる。痛みや警戒などの感情や思考が欠如しているような動きだ。


 トリゴエは何かに気づいたようで、五芒星の形をした空間の先端部分に退避した。モモガワたちはそれを見て、ベヒーモスの攻撃を避けながら同じ場所に集まった。


「傷が回復するときに、額にある宝石のようなものが光っています」

 トリゴエが集まったモモガワたちに言った。

 ベヒーモスは適度な距離を保ち、うろうろ歩きながら鼻息を荒くして出てくるのを待っている。

「ってことは、アレが弱点ってことだねー」

 サルミダは動き回るベヒーモスの頭を目で追いながら言った。

「そんなこと言ったって、激しく動き回られたら狙うに狙えないぞ」

 イヌコマは歯ぎしりをする。


「いつもの勇者の祈りで何とかならないのですか?」

 トリゴエは弱ることのないモンスターに焦りをみせた。

「空が見えないからムリなんだよね」

 モモガワは苦笑いして言った。


 勇者の祈りは、空からの光が降り注ぐことで最大限の効果を発揮することができる。

 ビスケットを増やすとかジュースの味を変えるぐらいなら室内でも可能だが、強力なモンスターに効果を発揮させるほどの威力となるとパワー不足だ。


「困ったねー。火炎車!」

 サルミダはそう言いながら九節鞭の技を放った。しかし、ベヒーモスは自分の弱点を知っているのか、頭部だけ動かして避けた。火炎車は肩に当たった。額の宝石が光り、肩の傷がみるみる回復していく。


「こうなったら、オレを媒介にして、この空間に充満している星の石の魔力を勇者の祈りパワーに変換して直接注ぎ込むしかねえ」

 モモガワが意を決したように言った。


「そんなことができるのか?」

「こんなこともあろうかと、イメトレだけはバッチリだぜ。あとはやってみるしかねえ。一斉攻撃をしてヤツの動きを止めてくれれば、あとはなんとかするぜ」

 ベヒーモスは前脚で地面をかき、今かと待ち構えている。

「このままでは埒が明きません。やってみましょう」

 トリゴエが言うと、イヌコマとサルミダはうなずいた。

「失敗すんじゃねーぞ」

「任せたよー」

 そう言いながら、イヌコマとサルミダはベヒーモスに向かって駆け出した。

「信じてますからね」

 トリゴエも2人の後に続く。


 待ち焦がれたベヒーモスが猛スピードで向かってくる。

「サンダーストーム!」

 トリゴエの強力な雷によってしびれたベヒーモスは動きが一時的に止まった。

「ジャイアントキリング!」

 イヌコマがベヒーモスの右脚を斧で高速乱れ打ちする。

「岩石弾!」

 サルミダの高速回転する九節鞭から無数の岩が出現し、ベヒーモスの左脚にさく裂した。


 ベヒーモスが体勢を崩して前膝が地面についた。

 雄たけびを上げながら駆け出してきたモモガワがベヒーモスの頭に飛び乗り、額の宝石めがけて剣を振り下ろした。

 剣が宝石を貫く。モモガワがさらに雄たけびを上げると剣が光った。勇者の祈りが剣を通してベヒーモスに注ぎ込まれる。ベヒーモスがうなるように叫び声を上げ、宝石が粉々に砕け散った。


 まるでスイッチが切れたおもちゃのようにベヒーモスの動きがピタリと止まり、横に倒れだした。モモガワは慌ててベヒーモスから飛び降りる。

 横倒れになったベヒーモスは、キューブ状のブロックが崩れていくように崩壊していく。崩壊したブロック状のものは、地面に落ちると消えていった。

 ベヒーモスは跡形もなく消えた。


「何とか無事に倒せましたね」

「一時はどうなるかと思ったぜ」

「ヘンなモンスターだったねー」

「オレの手にかかればこんなもんよ。それじゃあ、さっさと星の石を持って帰るか」

 アーサー王からは、50~60センチくらいのものでいいと言われたが、モモガワは見栄を張って1ミートルのものを背負って帰った。


 城に戻ると、アーサー王は立派な星の石を見てとても喜んだ。


 アーサー王の頼みごとを予定通り午前中に終えたモモガワは、さっさとお城を後にしてお祭りをエンジョイしようと思った。

 しかし、帰るのを止められ、アーサー王から星の石のお披露目会にも出てくれと頼まれた。

 お祭りのイベントに参加できるなら、そっちのほうが楽しそうだとモモガワは思った。

「しょうがなないなー。もう一肌脱ぐっきゃないなー」

 とモモガワは、王様からの頼みごとだから仕方なく出るんですよ感たっぷりに言って引き受けた。


 いろいろと準備が必要ということで、お披露目会の時間までお城で昼食をごちそうになり、優雅なティータイムを過ごした。


 そして、星の石お披露目会。

 モモガワは、星の石で『第99回 サンク星まつり』と投射されたのを見て、準備に時間がかかるって、これを彫るためだったのかよと思った。さらに、こんなことのために駆り出されたのかよ、マジカンベンしてくれよと思った。

 しかし、イベントは飛び入り参加みたいな感じだったのに、一躍主役級の注目を集めることができたので、モモガワは結果オーライで満足だった。


 星の石お披露目会も終え、やっとのことで星まつり前日祭を楽しめる。なんだかんだでもう夕方になってしまった。

 先に宿のチェックインをしてから、本格的に楽しむことにした。

 お祭りで中心街のホテルはどこも埋まっていたので、外れの方にある民泊しか取れなかった。お祭りを軽く見ながら宿へと向かう。


 軽く見るだけと言っていたのに、お祭りで浮かれたモモガワは、SNS映えするカラフルなジュース、焼きそば、チュロス、リンゴ飴、かき氷などを食べまくった。

 しかし、食べまくっていたモモガワのテンションが徐々に下がってきた。


「ちょっと待った。おなかが痛くなってきたんだけど」

 モモガワはモジモジしながら言った。

「調子に乗って飲み食いするからですよ」

 トリゴエはモモガワをたしなめた。


「ちょっとトイレに行ってくる。先に宿に行ってチェックインしといて」

 モモガワはそう言うと、人混みの中へ消えていった。


「いってらっしゃーい」

 チョコバナナを両手に持ったサルミダは上機嫌で言った。

「しょうがない人ですね」

 トリゴエは素焼きひまわりの種を頬張りながらも、ただただあきれて言った。

「待っててもしょうがねえや。そんじゃあ先に行くか」

 イヌコマは骨付きソーセージの残った骨をかじりながら言った。骨まで全部食べる気だ。そして、切り替えが早い。


 仲間たちは、屋台で晩ごはんになりそうなものや、お酒とおつまみになりそうなものを買いながら宿へと向かった。


 仲間たちが宿に到着すると突如、爆発音がした。

 見ると煙が上がっている。歩いて10分もかからない場所だ。


 現場へ向かうか、先にチェックインをしてモモガワを待つか仲間たちが話していると、モモガワが小走りでやって来た。スッキリした表情だ。


「トイレがスゲー並んでて、もうすぐで漏れるとこだった。ところで、花火ってもう始まっちゃった?」

 モモガワは到着するなり言った。

「何の話をしてんだ?」

 イヌコマはモモガワの言っている花火が何のことかわからない。


「なにって、なんかおっきい音がしたじゃん。花火が始まっちゃったと思って、急いでトイレ済ませてきたんだけど」

「花火ではありません。どこかで爆発が起きたようです。ほら、あそこに煙が上がっているでしょう」

 トリゴエは、状況がのみ込めていないモモガワに説明した。


「せっかくのお祭りなのに、おっかないねー」

 サルミダは立ち上る煙を見て言った。


「助けに行ったほうがいいかな」

 イヌコマは腕組みをして言った。

「もう町の消防とか自警団とか、いろんな人が救助しちゃってんじゃない? いまから行ってもやることなさそうじゃん。遅れて行ってしゃしゃり出ても逆に現場を混乱させそうだから、やめといたほうがいいんじゃね」

 モモガワは、今日はもうおなかを壊すほど楽しんだし、明日は朝からお祭りを全力で楽しみたいので、早めに休んで次の日に備えたかった。


「たしかに一理ありますね」

 トリゴエはモモガワの意見に同意した。

「そうだな。まだ明日も祭りはあるし、今日はもう疲れたから早めに休むか」

 イヌコマは宿でしっぽりお酒を飲みたかった。

「そだねー」

 サルミダは買いだめしたチョコバナナやバナナジュースを宿でじっくり楽しみたかった。


 宿のチェックインを済ませたモモガワは、早々に床についた。しかし、お祭りが楽しみで眠れなかった。

 眠れる方法をスマホで検索していたら、しだいに関係のないことまで調べ、さらに、いろんな動画を見ていたら朝になってしまった。遠足前日症候群だ。


 星まつり当日。昨夜の事件などなかったかのように祭りは開催された。


 昼過ぎの一番にぎわっている時間帯に、『来訪記念勇者モモガワ・リサイタル』がメインステージで行われた。

 全身ピンクラメのスーツ。素肌にジャケット姿でステージに立つモモガワ。太陽の光にラメが反射し、勇者オーラも相まって光り輝いている。


 マイクを持った左手は小指が立っている。そして、右手にはやはり伝説のマラカス、イカカスだ。

「今日はオレのために集まってくれてありがとう。新曲をプレゼントするぜ『ラヴ・スプラッシュ』」

 モモガワが言うと曲が流れだした。


『30分前目が覚めた 二度寝でデートを遅刻だよ

 マジでヤバさがハンパねえ 全力スキップ ギリセーフ

 寝違えてたの忘れてた 左を向けずにすれ違い

 錆びつく二人の関係に ナメコのヌメリが潤滑油

 昨夜は寝付けず干しシイタケ(ロンリーナイツ) 腹が減ったよ何もねえ

 落ちてたリンゴみつけたよ ヤバそうだけど食べて寝た

 ウォウウォウ イェイイェイ ウォウイェイイェイ

 機械仕掛けさラヴマシーン

 キミがくれたプレゼント

 目覚ましレディオが壊れたの


 2か月前のヤバリンゴ 少しかじって毒味だね

 ブヨブヨなのがクセになる 新食感だよギリセーフ

 夢にまで見た天然キノコ(セクシーナイツ) だけど弱気になったのは

 腐ったリンゴを(キミは小悪魔)食べたせい(甘いワナ) トイレが近くて(恋のポイズン)ハンパねえ

 煮すぎたモチのようにとける スイートラヴな恋キュンキュン

 おなかが痛い腹いせにセンチメンタル・ブルーだよ 目覚ましレディオを投げつけた

 ウォウウォウ イェイイェイ ウォウイェイイェイ

 マシーン仕掛けさ機械ラヴ

 キミの大事な貢ぎ物

 目覚ましレディオが壊れたの


 俺のナイーブアスホール(ラヴハート) 裂傷ブラッドスプラッシュ

 拭いても拭いても止まらねえ

 壊れちまったラヴハート

 ウォウウォウ イェイイェイ ラヴハート』


 モモガワが歌い終えるとお客さんは大喝采だ。歌詞の内容や歌唱力うんぬんではなく、あの勇者モモガワが目の前のステージで歌っていること自体が、お客さんたちには一生に一度あるかないかのレアイベントなのだ。

 そして、アンコールで『だけどラブ』も歌われ、大盛況でリサイタルを終えた。モモガワもお客さんも大満足の祭りとなった。


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